インフルエンザより怖い!? 新型ノロウイルス感染症を防ぐには

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■新型ノロウイルス感染が広がっている

いったん下火になったノロウイルスなどによる感染性胃腸炎が、また増加してきている。今シーズンの流行は、感染者が過去最高だった2006年に迫る勢いになっており、各地で餅つきが中止されるなど伝統行事にも影響が出る事態となった。何といっても怖いのが、ウイルスの遺伝子が変化した「変異型」の“新型ノロウイルス”が広がっていることだ。新型ノロウイルスに対する抗体を持っている人は少なく、感染症にかかりやすい高齢者や乳幼児だけではなく、過去にノロウイルスに感染した経験がある大人でも簡単に感染して発症する。

感染症胃腸炎になったらつらいのは、とにかく、下痢と嘔吐を繰り返し、なかなかそれが治まらないことだ。それ自体が命に関わることはないものの、水分を飲むだけでもまた吐いてしまうこともあるのだから、乳幼児がなると、見ている家族もつらい。嘔吐と下痢がなかなか治まらず、トイレにこもりきりになる人もいる。

しかも、治療薬はなく、一度かかってしまったら、とにかく脱水にならないように注意しながら嘔吐と下痢が治まるのを待つしかない。ある意味、特効薬があって意外とすぐに症状が抑えられるインフルエンザよりもきついかもしれない。乳幼児や体力が落ちている高齢者のなかには吐しゃ物を詰まらせて窒息死したり誤嚥性肺炎を引き起こしたりするようなケースもあるので要注意だ。

もう一つ、ノロウイルスが怖いところは、その感染力の強さだ。非常に微量なウイルスでも感染するので、あっという間に、一家全滅という事態になりかねない。よく知られているのが、ノロウイルスに汚染されたカキ、ハマグリ、ムールなどの二枚貝からの経口感染だが、何といってもノロウイルス感染者との直接、間接の接触感染、嘔吐物や便を介した飛沫感染といったヒトからヒトへの感染が多い。2006年の流行時には、都内のホテルで、カーペットの上に客が吐いた物の処理が適切でなかったために、掃除や人が歩いたりするたびに微量のウイルスが舞い上がり、それを吸引したことによる集団感染が発生した。

■まめに手を洗うことが一番の予防法だ

ノロウイルスによる感染性胃腸炎にならないようにするには、とにかく「手洗い」でウイルスが体内に侵入するのを防ぐこと、二枚貝を食べるときには85〜90℃で中心部まで90秒以上加熱調理することが重要だ。外出先から帰宅したとき、調理や食事の前、トイレの後には必ず石けんを泡立てて、爪の周囲、指の間、手首まで丁寧に手を洗おう。用便後、食品を扱う前には、2度手を洗ったほうが、よりウイルス付着のリスクが減るとされる。二枚貝については、ノロウイルスが付着しているか否かは鮮度に関係なく見た目では分からないのが残念なところだ。家庭内での感染を防ぐには、手を洗った後のタオルの共用を止めることも大切とされる。多少費用がかさんでも、この時期だけでは、使い捨てのペーパータオルで手を拭くようにするとよいだろう。

万が一、家族に感染者が出てしまったときには、使い捨てのビニール手袋、マスク、エプロンを着用し、感染者の吐しゃ物、下痢便、おむつなどには触らないようにしたい。感染者は、洋式のトイレのふたは必ず閉めてから水を流すようにすると、ウイルスが飛び散るのを避けられる。床に吐しゃ物が飛び散ったときには、汚物をペーパータオルで拭き取った後、次亜塩素酸ナトリウムの漂白剤(家庭用塩素系漂白剤)で床を浸すように拭き取ってから水拭きし、処理に使用したエプロン、手袋などはビニールに入れて口を閉じて処分する。嘔吐物や便が付着した衣類、シーツ、タオル、敷物などは、85℃1分以上の湯で煮沸消毒するか家庭用塩素系漂白剤(0.02%消毒薬)に30分間浸した後、他の衣類とは別に洗濯すると感染が防げるそうだ。

消毒水を作るときには、ペットボトルのキャップに塩素系漂白剤を軽く2杯程度入れ、2リットル程度の水で希釈するのが目安とされる。スプレータイプの次亜塩素酸水も市販されているので、次亜塩素酸水をつけたペーパータオルを使って、トイレの便座やドアノブ、水道の蛇口なども消毒すると効果的だ。アルコール消毒液や酸素系漂白剤、一般的な合成洗剤、石けんではノロウイルスは死滅しないので注意したい。

毎年冬になると大騒ぎになるのだから、何とか予防接種で防げないのかと思ってしまうが、今のところワクチンは開発中で、予防接種も特効薬もない。やはり大流行のインフルエンザを撃退するためにも、とにかく、まめに手を洗うことが一番の予防法だ。

なお、症状がなくなっても、一般的には3週間程度、排便によってノロウイルスが排出される。なかには、不顕性感染といって、まったく症状が出ていないのにノロウイルスに感染している人もいるというのだから、本当に、ノロウイルスはやっかいだ。特に、毎日食事を作っている家庭の主婦・主夫、食品を扱う仕事をしている人は、知らないうちにノロウイルスに感染したり、周囲の人にまき散らしたりしないように注意したい。

(医療ジャーナリスト 福島安紀=文)