秋田県北部の小坂町(こさかまち)は、かつて小坂鉱山で栄えた町。実はこの町には、かなりユニークなご当地グルメがある。

名物! 歯ブラシ付きの真っ黒なカレー




それが、レストラン青銅館で提供されている「黒鉱カレー」。かつて小坂鉱山で採れた“黒鉱(くろこう)”という鉱石をモチーフにした真っ黒なカレーだ。


黒い色の正体はイカスミ。ルーの上には、十和田湖高原ポーク「桃豚」のヒレカツがのり、金箔が散らしてある。金箔を使っているのは見た目の美しさに加え、黒鉱自体に金が混ざっているので、それを目に見える形で表現したらしい。

カレー本体のインパクトも強いが、見逃せないのがカトラリーボックスだ。


とくに説明もなく、サッと出されたカトラリーボックスだが、よく見るとスプーンやフォーク、おしぼりなどと一緒に、歯ブラシが入っている。「TOOTH BRUSH(歯ブラシ)」の文字を見なければ、おしぼりと間違えそうだ。

黒いカレーの味は?


歯ブラシの存在が気になるが、まずはカレーを食べてみる。甘すぎず、辛すぎず、絶妙な味わいだ。最初は口の中に甘味と旨みが広がり、後から辛さがピリッとくる。食感は少しねっとりしていて、色が黒いせいもあって海苔の佃煮のような感じ。イカスミの風味はとくに感じなかった。カツとの組み合わせも抜群で、個人的にはかなり好きな味。後を引くおいしさだ。

歯ブラシを付けた理由は?



食後、歯の黒さ具合を洗面所でチェックしてみると、そこまでひどくないが、歯と歯の間が少し黒ずんでいた。歯ブラシは必須ではないが、あればうれしいレベル。唇のしわの間や舌はけっこう黒い。洗面所には紙コップまで用意されており、きもちよく歯みがきができた。


レストラン青銅館の菊池さんに話を聞くと、黒鉱カレーは15年ほど前から提供しているメニューだという。カレーの前には、黒鉱をイメージしたスパゲッティやラーメン、ピラフを出していたこともあったそうだが、一番人気のカレーが残り、いまではお客さんの8割が頼む看板メニューに。ちなみに発売当初は桃豚ブランドがまだなかったため、ヒレカツは付いていなかったとのこと。約2年前にトッピングされ、その際、カツがより美味しく食べられるようにルーの味もリニューアルしたという。

歯ブラシを付けた理由を付けた理由を聞いてみた。
「なんとなく自然発生的に、あったほうがいいんじゃないの?という話になって……」(菊池さん)

あえてさりげなくカトラリーボックスの中に置いておいているのは、お客さんとの会話のきっかけになることも狙っているという。
「お客さんが“何かな?”と思うことで、こちらから話しかけたり、むこうから話しかけてもらったり。何しろ秋田県人は口下手なもんですから……」(菊池さん)

観光客が多いこともあり、「これは何?」と聞いてくる人は多いそうで、歯ブラシ使用率もかなり高いとのこと。このメニューを食べるなら、やはり歯みがきまで楽しみたいところだ。

もうひとつの名物B級グルメ「かつらーめん」



最後にもうひとつ、小坂町が誇るB級グルメ「かつらーめん」も紹介しておきたい。その名のとおり、ラーメンにカツをのせた大胆かつボリューム満点なメニューだ。現在、かつらーめんを出す店は町内に7店舗があるが、それぞれ味がちがうので、食べ比べも楽しい。

今回は発祥の店といわれる「奈良岡屋」に行ってみた。豚骨や鳥ガラ、煮干しなどがベースの出汁に、白神生ハムを隠し味に入れたスープは、やさしい味わいでコクもあり美味。さらに食べ進めると、卵とじの出汁がスープに染み出てきて、味の変化も楽しめる。最後まで食べ飽きず、意外にスルスル入るから、これにごはんを追加したり、大盛りにしたりする客がいるというのもわかる気がした。

店主の奈良岡さんによれば、かつらーめんはお客さんからのリクエストで約40年前に始めたメニューなのだとか。
「カツ丼とラーメンを一緒に食べたいけど、ごはんが余計だといわれて…。のせてみたら意外に相性がよかったんです」(奈良岡さん)
長らく裏メニュー的な扱いだったが、20年くらい前から店の表メニューに昇格。そのころには町内にかつらーめんを出す店がいくつかあったという。さらに数年前からはB級グルメとして町全体で推しはじめ、町内の提供7店舗で「かつらーめんBoo会」を結成。これにより、町外はもとより県外から食べに来る人も増えたそうだ。

観光スポットも多い小坂町だが、ここまで足を伸ばしたら、ぜひこれらのユニークグルメにも挑戦してみてほしい。
(古屋江美子)