「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「率直」の「チョク」、「正直」の「ジキ」。「素直」の「ナオ」、「直ちに(タダチニ)」とも読む漢字です。



「直」という字はまず、漢数字の「十」の下に「目」を書きます。

これは、目の上、眉のあたりに印がついている様子を表し、目に呪術的な力を増すための飾りを意味しています。

そうすることで、真実を見抜く力が目に宿るとされていました。

この目の部分を半分ほど囲うように書かれたローマ字の「L」に似た形は、塀のような建物を表し、目を半分ほど覆い隠しています。

そこから「直」という漢字は眼力を隠し持ち、ひそかに調べて不正をただすという意味をもつようになりました。

古代中国では、呪力を強めた目をもつ人間が、お忍びで地方を巡回して不正を取り締まったといいます。

悪事は誰かが必ず見ている、隠していてもすぐに見つかる。

それを肝に銘じておくために、「直」という漢字が生まれたのです。

いにしえの人たちは、自分の目で見ることを何より重んじていました。

何千年ものときを生き抜いてきた巨木や清冽な川の流れ。

それらをじっと見つめることで、自然の偉大な力をわが身にうつし取る。

相手が人間ならば、内面に触れて特別な絆をむすぶ。

強い力を放つ目は、戦の際に邪悪な霊をはねのけることもできる。

彼らは「見る」ことで相手との関係を築きあげていきました。

心の目をひらいてじっくり対峙すれば、相手の本質を見極めることができる。

そうすれば、今なすべきことが明確になり、恐れるものなど何もない。

いにしえの人たちの実直な信念が、この漢字から伝わってきます。

ではここで、もう一度「直」という字を感じてみてください。

生き馬の目を抜くような現代においては、つい、準備を万端にして出かけたくなるもの。

前もって調べた情報や知識、作り上げられた先入観。

優位にたちまわるための理論武装。

多くを携えて相手と向き合おうとしてしまうのです。

でも、それで遠ざけてしまった真実がきっと、あったはず。

いにしえの人々が目の上につけた飾りとは、自分の眼力を信じる強さや、見えないものを感じとる力。

愚直に、素直に、ただ相手を前にして見つめればわかることがあるのです。

手のひらでゆっくりと漢字をなぞるとき、いにしえの人たちの豊かな生き方が、ふと、浮かび上がって見えてきます。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)

『絵で読む漢字のなりたち 白川静文字学への扉』(金子都美絵/絵・添え書き 白川静/文字解説 太郎次郎社エディタス)

1月7日の放送では「七」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。

<番組概要>

番組名:「感じて、漢字の世界」

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/



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聴取期限 2017年1月7日 AM 4:59 まで

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