MARCH男たち。総合商社は受からないので、専門商社へ!なぜそんなに商社にこだわるの?
「一億総中流社会」と言われる日本。
容姿、学歴、収入。全てにおいて「中流」の少し上に位置する人間は口を揃えてこう言う。
「上を見ればキリがないが、知らなければいい世界もある。」
この連載では”中の上”に位置する男女に起きた、さまざまな悲劇に迫る。
これまで登場したのは、年読者モデルの裕美、ワセ女の聡子、大手メガバンク勤務の健介、ネイリストと結婚した直己。今回登場するのは…?
自称“中の上”が似つかわしくない男、英二24歳。
「俺なんて本当、中の上っていうか、中の中の男ですよ。」
まだ若いのに哀愁漂う雰囲気で話し始めてくれたのは、英二24歳。エネルギー系の専門商社に勤める男だ。
彼とは長年の付き合いであるが、「中の上」という言葉が琴線に触れたのか、久しぶりに連絡が来て会う約束をした。彼の人生について詳しく話を聞くのは、初めてだ。
―中の上。
この言葉は彼に似つかわしくないように思えた。
なぜなら、彼の実家は白金台で、父親はやり手の弁護士。青山学院に初等部から通っており、恵まれた環境の下で育ってきたお坊ちゃまだ。
色白で彫が深い顔立ちは女性から見てもうっとりするほどで、身長はそれほど高くないが、顔が小さくスタイル抜群。
裕福な家庭に育ち、恵まれた容姿を持つ男。それでも自分を「中の上」だと評するのは何故なのか、深く興味をそそられた。
英二に隠されたコンプレックスとは…?
エリート一家で育った、青学初等部出身のお坊ちゃま
彼は3人兄弟の末っ子。兄は弁護士、姉は外資金融に勤めるエリート一家だ。教育熱心な親のもと、小学校受験で青山学院初等部に入った。
「友人は経営者や医者の息子が多かったですね。」
周囲も裕福な家庭環境が多く、自分が「特別だ」と感じることもなかったという学生時代。高校・大学時代はかなり遊んでいたようだ。
「内部生って、学生時代に遊び尽くしちゃうんですよ。大学デビューとかあり得ないし、東京での遊び方も早いうちから知ってる。今でも結束は強いですね。」
大学時代は、カナダに留学し、英語も日常会話レベルで喋れるようになったという。
総合商社を目指した就職活動戦線。しかし結果は…
そんな彼の人生の転機は、就職活動だった。第一志望は、総合商社。
「商社だと給料もいいし、海外に行ける。華やかでモテるイメージじゃないですか。」
しかし、現実は厳しいものだった。青学から総合商社に入ったという話も滅多に聞かない。セミナーの予約さえ難しい状況だった。
親のコネも使わずに、実力で総合商社に行くことを望んだが、それは叶いそうにもない。仕方なく、商社と言われるところは片っ端から受け、決まったのはエネルギー系の専門商社だけだった。
「今思うとそこまで商社に固執することなかったかな、と思います。でも、社会のことをロクに知らない若者に、突然企業研究して就職活動しなさいと言われても、結局給料が良くて見栄えのいい会社に集中しますよね。」
これには深く頷いた。
「海外で活躍したい」「事業規模の大きい会社で活躍したい」そんな綺麗事をいくつ並べても、「給料が良い」「モテる」という人間の直接的な欲望に勝てるものはないだろう。
専門商社に就職した英二。しかし社会人生活に疑問を抱き始める結果に。
アザラシみたいな顔した男に乗り換えられた!?
就職活動は100%希望通りではなかったが、どうにか折り合いをつけて社会人生活をスタートさせた。
古くて泥くさい、“THE日系企業”で彼はがむしゃらに働いた。
しかし、いくら頑張っても上がらない給料に、上司からの理不尽な仕打ち。毎日のようにつるんで愚痴を肴に飲む同僚。日に日に現状に疑問を抱くようになった。
そして、恋愛面でも転機があった。
「そのときちょうどデートしていたいい感じの子がいたんです。でも、好きな人ができたからもう会えないってある日突然言われて。共通の友人にそいつの名前を聞き出したんです。」
彼はツテを辿り、恋敵のFacebookを検索したらしい。すると、そこには目を疑うようなプロフィールが。
「そいつがね、アザラシみたいな顔した、総合商社マンだったんですよ。こいつに乗り換えたのかって、衝撃的でしたね。」
会社という看板から逃れられないのは、男の宿命なのか
彼は現在転職活動中。来週、大手自動車メーカーの最終面接を控えていると教えてくれた。
「男の場合はね、会社という看板が大きく人生を左右するんですよ。」
◆
当初「“中の上”な女です」と言い出したメグミから始まった連載だが、予想以上に男性からの反響が大きい。会社のネームバリューがそのまま自身の格付けのように感じている男性は多いのかもしれない。
今回彼を取材して、改めて“中の上”とは一体何なのか考えさせられてしまった。
育ちも見た目も良く、終始こちらを気遣いながら話を展開してくれる英二。しかし、彼には「専門商社勤めの俺は、しょせん“中の上”」という強いコンプレックスを感じる。
しかし、その少し歪んだようにも思えるコンプレックスが、彼に強いエネルギーを与えているのも事実だ。
それをバネにして、これから紡ぎ出すであろう彼の物語に強く興味をそそられた。
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”中の上”女たちの仁義なきマウンティング