シャア・アズナブルと歩んできた37年――池田秀一「シャアの人物像をこんなに膨らませていただいて幸せ」
ジャケットの胸ポケットには赤いチーフがチラリと覗く。その姿だけで、胸がいっぱいになるガンダムファンも多いだろう──37年にわたって“赤い彗星”シャア・アズナブルを演じ続けるという重責を、声優・池田秀一は客観的に捉え、飄々と楽しんでいる様子が印象的だった。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN IV 運命の前夜』の上映にあたり、その胸中をじっくりと聞く。

撮影/川野結李歌 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.



自らオーディションを志願して、青年時代に挑む



――小さい頃からシャア・アズナブルに憧れていたので、本日は池田さんにお会いできたことを光栄に思います。

いえいえ、こちらこそ…とんでもございません(笑)。

――さっそく『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN IV 運命の前夜』について伺っていきたいのですが、その前に、すでに劇場で上映された第1話から第3話も含めて、これまで映像化されたことがなかった、一年戦争開始以前の歴史を描く過去編を『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』としてアニメ化することについて、どう思われましたか?

漫画原作を拝読して…漫画の1巻は、ファーストガンダム(『機動戦士ガンダム』)の時系列から始まっているわけですが、アニメは9巻の“シャア・セイラ編”から始まるということだったので、「僕はどの年代のシャアからやらせてもらえるのかな?」と思いました。




――第2話「哀しみのアルテイシア」では青年時代からご出演されていますが、「オーディションを受けたい」と池田さんがご希望されたと伺っています。

『ファーストガンダム』…つまり、テレビシリーズの第1話につなげるためには、シャアの若いときからやらせてもらえないかなって思ったので。

――10代のシャアを、池田さんご自身が演じられると聞いて驚きました。

自分でも10何歳っていうのはね…できるかどうかわからなかったので、オーディションを受けさせていただけないかと。それで「やっぱり無理ですね」と言ってくださってもいいし、ということで受けました。

――ご自身のお芝居をご覧になって、どう思われましたか?

自分ではなんとも言えないですけどね(笑)。第1話「青い瞳のキャスバル」では、田中真弓さんにやっていただいたんですけれども。あそこはちょっとねえ…11、2歳は無理だろうと(笑)。第2話は14歳くらいからでしたが、やらせていただくことが決まったときには、あんまり意識しなかったですね。

――意識しなかったというのは?

もう…「やっちまえば、こっちのもんだ!」みたいにね(笑)。ちょっとね、開き直ってやらせてもらいましたけれども。

――お芝居が始まると、年齢などを意識せずに役に入り込めるという感覚でしょうか?

そうですね。特に今回は漫画原作も安彦(良和)さんですし…もう、シャア・アズナブルですからね。この“シャア・セイラ編”に関しては、若いというのはありますが、でもそれが、やっぱり安彦さんが描いてくださるシャア・アズナブルなんですね。

――そこに違和感はない?

そうですね。シャア・アズナブルが若かった頃っていうふうに、ちゃんとなっていますからね。「あ、そうだよなあ」って。このエドワウ・マスは、いずれシャアになるよねっていう。



「坊やだからさ」に次ぐシャアの名セリフも…?



――今回、第4話「運命の前夜」でアニメ版『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』“シャア・セイラ編”が完結しましたが、シリーズを終えてどのように感じられましたか?



とりあえず一段落したんだなっていう感じですね。第1話から、もう2年ぐらい経ちますが…早かったですね。本当に、あっという間でしたね。

――久しぶりにシャア・アズナブルを演じられて、いかがでしたか?

これまで言ってきた「認めたくないものだな」とか「坊やだからさ」とかっていうセリフは、もう30何年やっていますが、今回の4本は言ったことのないセリフばかりでしたから…そういう意味でも面白かったです。面白かったっていうか…なんかドキドキしながら、やっていましたね。

――たしかに、シャアといったら名セリフの数々が思い浮かびます。今シリーズで池田さんの印象に残ったセリフなどはありましたか?

ええ、今回も『THE ORIGIN』ならではの良いセリフがありますね。第3話の「赤いな。じつに良い色だ」っていうセリフとかね…好きですね。

――“赤い”シャアの始まりを想起させるようなセリフでしたね。

そうですね。今回の第4話にも、安彦さんが漫画原作にないシーンを映画用に作ってくださって…ちょっと恥ずかしいセリフなんですけど(笑)。

――シャアとララァのシーンですね。

いや、僕は全然恥ずかしくないんですけどね(笑)。…普通はちょっと言うのが恥ずかしいかな? って思うようなセリフが入っているのでね、どう受け止められるかなあと(笑)。



――そういった点も含めて、今シリーズでは「冷酷」という言葉だけでは片付けられないような、意外なシャアの姿がチラチラと見えたような気がしました。

なるほど…それは嬉しいですね。

――演じられている池田さんの声のトーンに…なんというか、柔らかさがあるなあと思ったのですが…。

そうですね、それは第3話のガルマとの会話でも…多少意識してやっていた部分もありますね。「キミの宮殿だ」のくだりですね。

――シャアを出し抜こうとして崖に落ちたガルマを介抱するシーンですね。

うん。そうやって介抱するような面を見せておいて…それで、どこかでちょっとほくそ笑んでいるみたいなところがシャアにはあるなと。だから、陰でほくそ笑むためには、そういった柔らかさみたいなものもあったほうがいいんじゃないかな? って気持ちはどこかでありましたね。

――漫画原作を読んだときに、まさにそのガルマとのシーンは「これは、シャアはどういうつもりで言っているんだろう?」と思っていて。それをアニメで観て、「なるほど!」と思いました。池田さんの声がセリフに乗ったことで理解できたというのが大きくて、それが総監督からの指示だったのかが気になっていました。

総監督に言われたわけではないんですけど…うん。そういう意識はあったような気がしますね。それに、この作品はわりと絵があるほうなんですよ。だからアフレコのときにも…絵がなくても、線画でも表情がわかるようなレベルまでできているので、やりやすいですよね。僕たちの仕事って、その映像に乗っていけばいいわけですから。



“安彦良和総監督”という存在の大きさを実感



――さらに今シリーズでは、安彦さんが総監督を担当されています。

それはもう大きいですよね。37年前に初めてシャア・アズナブルというキャラクターと出会ったときに…失礼ですけど、安彦さん(当時、キャラクターデザインおよびアニメーションディレクターを担当)という名前も僕は知らなくて、「すごい人がいるんだな」と思って。

――今回は安彦さんが絵コンテを描いて、原画のチェックをされたそうですが?

ええ、久しぶりに安彦さんご自身が総監督として出てくださって、絵のチェックをされているので「ああ、やっぱり安彦さんだな」って…うん。そういうのって、すごく大きいですよね。

――長編の漫画原作から、アニメ化するエピソードに“シャア・セイラ編”が選ばれたことについてはいかがですか?

シャア・アズナブルという人物をこうやって過去編で膨らませてくださったのは、とても幸せですよね。また最近、『THE ORIGIN』を最初から読み直しているんです。

――改めて池田さんのなかで、気づいたことはありますか?

ありますね。「ああ、なるほど。これだったんだ!」って。ラストシーンの会話とかね…深いんですよね。それがつながって、過去編をやりながら読むとね、「ああ、そうか!」って。それは当然、安彦さんの世界観なんですけどね…すごく構築されていますよね。



――構築されている?

いまさら失礼だけど、「ああ、ちゃんとできてるんだ!」ってね(笑)。安彦さんに怒られちゃうけどね(笑)。

――ひとりのキャラクターを、これだけ長いあいだ演じられていることに、難しさを感じたりはしませんか?

あんまり難しくはないんですね。うーん…わりとうまくいってましたねえ(笑)。たとえば、毎週のテレビシリーズとかで、ずーっと演じているわけではないですから。『ファースト』をやって、劇場版をやって、何年かして『Z(ゼータ)』があって、『逆襲のシャア』があって…と、お休みがあったっていうのも良いですよね。

――『SEED(シード)』などのシリーズもありました。

そうですね、『SEED』や『UC(ユニコーン)』とか、ああいった作品に出させてもらうと、客観的にガンダムの世界が見られるんですよね。僕にとって、それもとっても良かったですね。

――特に『UC』では、“シャアの再来”と言われるフル・フロンタルという役を演じられていました。

ええ、フロンタルの宇宙観っていうのがあって。だから、フロンタルを寸前までやって、『THE ORIGIN』に入ったっていうのは、すごい良かったですね…なんだか我が家に帰ってきたような気がしたわけですよ、『THE ORIGIN』でシャアと再会して。それも大きかったですね。だからそういう意味で、僕は時間的にも恵まれていたし、うまい具合に37年やらしてもらってますね(笑)。



ララァ役・早見沙織との“リアル”な出会い



――今シリーズでは、若手で活躍されている声優さんたちとの共演も多かったと思います。彼らについてはどう思われましたか?

僕がテレビシリーズのシャア・アズナブルをやったのが29歳でしたから、「あの頃、俺こうだったのかな?」って思いましたね。「俺のほうが上手かったなあ」とは思わないし(笑)。本当に触発されますね。

――特に最近は、声優という職業が脚光を浴びています。

本当に別世界ですよね。昔も歌ったりしている声優さんはいましたけれど…どちらかというと片手間でしたから。いまはね、片手間ではなくみなさんやっていますからね。宮野(真守)くんにしても、水樹奈々さんにしても…立派ですよね。だからってまあ…僕はやらないですけど(笑)。やらないんじゃなくて、できないんですけど(笑)。

――ぜひお聞きしてみたいです(笑)。今回の第4話「運命の前夜」に登場する、ララァ役の早見沙織さんとは初めてご一緒されたとのことですが?

ええ、早見さんとは僕、初めてお会いしたんですよ…いままで一緒に仕事したことがなくて。だから、それも良かったですよね。スタジオで初めて録った第4話の出会いのシーンが、本当に僕らの出会いのシーンで…本当にまんまでしたからね。



――そういう意味で「良かった」と?

そうですね。そういうのってね、わりと大事なんですよね。前から知っていて、何度も一緒に仕事をやってたりすると、「あ、どうもしばらく! 今回ララァだって?」、「はい」みたいになっちゃうんだけど(笑)。今回は…なんていうのかな? お互いの緊迫感みたいなものがあって、「池田です、よろしくお願いします、シャアです」、「ララァ役の早見です、よろしくお願いします」っていう出会いでしたから。

――特に今後、ララァは重要な人物になってくることを考えると…。

ええ、とても大事な出会いだったと思います。

――最後に、シャア・アズナブルという存在はいまもなお、ほかのアニメにも多大な影響を与えています。池田さんご自身はそういった現象をどのように捉えていらっしゃいますか?

すごく嬉しいですよ。たとえば…ガンダムを知らない人たちがコナンの赤井秀一を観て興味を持って、『THE ORIGIN』を観てくれればすごく嬉しいし、がっかりさせない作品だと思っています。相乗効果になってくれれば、なおさら嬉しいですね。



【プロフィール】
池田秀一(いけだ・しゅういち)/12月2日生まれ。東京都出身。O型。東京俳優生活協同組合所属。1964年、NHKのテレビドラマ『次郎物語』で主演をつとめ一躍話題となる。1970年に声優デビューし、主な出演作に『機動戦士ガンダム』(シャア・アズナブル)、『機動戦士ガンダムUC』(フル・フロンタル)、『ONE PIECE』(シャンクス)、『名探偵コナン』(赤井秀一)、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』をはじめとするジェット・リーの吹き替え、NHK大河ドラマ『花燃ゆ』(語り)など。


■映画『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN IV 運命の前夜』
11月19日(土)より全国15館にてイベント上映(2週間限定)
http://www.gundam-the-origin.net/

(C)創通・サンライズ

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