山寺宏一、加速する声優ブームに何を思う?「運だとか縁だとか言うけれど、実際は“実力”がものを言う世界」
知的なヒーローにコミカルな三枚目、渋い悪役からモンスターまで…。とても同一人物とは思えない多彩な声で、どんなキャラクターも見事に演じ分ける声優“山ちゃん”こと山寺宏一。デビューから31年。日本の声優界をリードする存在でありながら、姿勢はどこまでも謙虚。そこには、何ごとも真摯に受け止め努力を惜しまない、真のプロフェッショナルの姿があった。声優としての在り方、そして19年連続で特別出演となるポケモン映画最新作『ポケモン・ザ・ムービーXY&Z「ボルケニオンと機巧(からくり)のマギアナ」』についても話を聞いた。

撮影/川野結李歌 取材・文/古俣千尋 制作/iD inc.



規則正しい生活から一転、「なんだかダメな人間」に?



――今年4月に、18年半ものあいだMCを務められた『おはスタ』(テレビ東京系)を卒業されましたよね。本当にお疲れさまでした!

ありがとうございます!

――卒業から3カ月たちましたが、生活スタイルは変わりましたか?

本当に変わりましたね。声優デビューして31年なんですが、その3分の2ぐらいを『おはスタ』とともに歩んできたので。これまで、平日は必ず毎日5時前に起きるという生活でしたから、今はとにかく、朝早く起きなくていいっていうのが逆に戸惑うというか、不思議な感覚です。「明日は何時に起きようかな。あれ、午前中は仕事ないのか。じゃあ11時ぐらいまで寝ちゃおうかな?」とか…(笑)。



――これまでとは一転、自由気ままな生活ですね。

そうなんです。それから、『おはスタ』のときは、寝る前に天気予報を見て、パンツ、Tシャツ、靴下を毎日ちゃんと並べてから寝てたんですよ。

――そうだったんですね。

それが今は「明日でいいや。起きてからで」って(笑)。夜更かしもするようになったし、なんだかダメな人間になったみたいだなぁ。前のほうが健康にもよかったかなって、3カ月たって、ちょっと反省しているところなんですけどね。

――同じくキャリアの中で長いあいだ続けてこられているのがポケモン映画ですね。なんと今年で19年連続! 1作目の参加当時は、ここまで続くと想像していましたか?

いや、本当にびっくりですよね。日本にはいくつか、毎年当たり前のように公開される映画ってありますけど、それって世界でもいくつもありませんから。同じ作品が、毎年同じ時期に全国規模で公開されるなんて、大変なことなんですよね。本当にたくさんの人の努力があって、待っていてくれるたくさんの子どもたちがいるということを、改めてありがたく感じますね。



――しかも、毎年違う役を演じるというゲスト声優で。

主人公のサトシをはじめとしたレギュラー陣が毎年出ることはあるとしても、僕が毎年出るかどうかは、別に決まっていないんです。だから、多くの声優さんがいる中で、毎年選んでいただけているのは嬉しいですね。しかも毎回違う役なので、常に「新たな作品に参加しているんだ」という気持ちや意気込みでやっています。

――ファンの皆さんも「山ちゃんは今回どんな役なのかな?」って、楽しみにしてると思います。

今までは『おはスタ』のMCとして、僕も毎年ポケモン映画をどーんと紹介していましたし、映画の応援隊長のつもりでいたんですが、今年はもう卒業してますからね。「卒業したのに、なんでまた出てるの?」って言われないように、今回のジャービスはしっかり演じなきゃっていう気持ちはありました。



イヤなキャラを演じるときも、“人間味”は残したい。



――今回の『ボルケニオンと機巧(からくり)のマギアナ』は、サトシたちが人間嫌いのポケモン「ボルケニオン」との絆を深めながら悪者と戦うストーリーですが、大臣のジャービス役を演じてみて、いかがでしたか?

ジャービスは、ラケル王子を利用して、自分の理想の国を作るために暗躍するような役なんです。最初に出てくるシーンからすでに「コイツ悪いヤツだな」っていう感じが…(笑)。

――ええ、顔に出ちゃってますよね(笑)。

ニヤッと笑っていますからねえ。なので、正体を隠して、いい人に見せるつもりもなかったんですけど。ただ、みんなには「イヤなヤツ」って思われてもいいけど、やっぱりどこかに人間味は残しておきたくて。そのあたりのさじ加減が、難しかったですね。

――どんな声にするかは、台本と絵から考えていくんですか?

そうですね。見た目も大事ですけど、この人物が何を考えてて、何をするのかっていうことや、他の役との関係性は、台本を読みながら考えますね。ジャービスは、設定がマッドサイエンティストっていう、ちょっと狂気じみた人物だったんですが、ラケル王子の目線で考えてみれば、小さい頃からジャービスに世話になってて、だからこそ信じてついていくわけだから…。

――なるほど、それが「他の役との関係性」ですね。

最初から「イーッヒッヒッヒッ!」なんて言ってる怪しい人には、いくらラケルが単純だったとしても、ついていかないだろうし。だから、人間としてちゃんとしているところも出せるように演じましたね。