糖質過多が原因!? 「脳の疲労」をチェック
体をつくるのも動かすのも食事で摂る栄養。心にも大きな影響を与えるに違いない。心を丈夫にする食事法について考えてみよう。
折れない心、落ち込みにくく逆境に強い力がレジリエンス。まずは、下のチェックリストを試していただきたい。精神的に疲れているかどうかの確認だ。思い当たることが多い人は、食事を見直してみるいい機会かもしれない。
【脳の疲労チェックリスト】
□ちょっとしたことが思い出せない
□よく眠れない
□憂鬱な気分になる
□体調に不安がある
□働く意欲が起きない
□ささいなことでイラつく
□まぶしくて目がくらむことがある
□ぼーっとすることがある
□集中力が低下している
□寝すぎてしまう
糖質制限という食事法は耳にしたことがあるだろう。多くはダイエットや糖尿病治療として紹介されることが多いが、この食事法、疲れを取り、集中力をアップするのにも効果があるという。新宿溝口クリニックの溝口徹医師にお話をうかがった。
「現代人は明らかに糖質を摂りすぎです。疲れが取れない、寝付きが悪くて起きられないといった症状は糖質過多の可能性が高い。でも、病気とまではいえないので、なかなか食事を改善しようとは思いつかないのです」
朝は駅の立ち食い蕎麦、昼はラーメン+半チャーハン、そして夜は同僚と飲んで食べたあとに〆のラーメンといった食生活は、栄養のバランスも悪ければ、カロリーも高い。しかし、最も注意すべきは炭水化物を中心とした糖質の量だと溝口先生は指摘する。
「糖質制限食は、二型糖尿病の治療として注目されました。カロリー制限をしても改善されない患者に、糖質制限の食事を指導したところ、明らかに効果が見られたのです。アメリカの糖尿病学会も食事指導の中に糖質制限を推奨するように変わってきています」
日本人といえば主食は米。近年は米の消費が減ったとはいえ、代わりに小麦からつくられたパンやパスタ、炭水化物が主食であることに変わりはない。
炭水化物は美味しい。しかも食べると幸福感も湧いてくる。しかし、それが体や心に不調をきたす原因だとは!?
■心に影響する血糖値のアップダウンのメカニズムを知る
私たちが生きていくために必要なエネルギーは、脂質、糖質、たんぱく質の3大栄養素からつくられる。
ざっくりと各栄養素の特徴をおさらいしておくと、通常時の活動の主なエネルギー源は脂質。小腸で吸収されたあと、肝臓を経由することなく全身の細胞に運ばれ、ダイレクトにエネルギー源となる。利用されなかったものは中性脂肪として脂肪細胞に貯蓄される。脂質は、糖質、たんぱく質の2倍以上、と効率のいいエネルギーでもある。
「摂りすぎは注意が必要ですが、脂肪=太る=悪といった単純な考えは間違いです。脂質には細胞膜をつくるという重要な役割もあります」
次に糖質は消化吸収されると、肝臓に運ばれ蓄えられるとともに、その多くは筋肉に貯蔵される。血糖値を調節しているのが肝臓。血糖値が高くなると糖(グルコース)を肝臓に取り込んでグリコーゲンとして蓄積し、逆に血糖値が低くなるとグルコースを血液中に放出して、血糖値を安定させる。
筋肉に蓄えられたグリコーゲンは、血糖調節にはかかわらず、筋肉を働かせるエネルギーのみに使われる。
「糖質は脂質と較べると、同じ酸素を使ってエネルギーを生み出す場合、10%ほど多くのエネルギーが産生されます。つまり、非常時に瞬発力を出すためのエネルギーです」
3つ目のたんぱく質の本来の役割は骨や筋肉、皮膚や内臓など私たちの体を構成する材料の供給だ。ホルモンや神経伝達物質の重要な材料でもある。エネルギー源としてはやや特殊で、エネルギー需要に対して食事だけでは足りなくなったときに、体のたんぱく質を分解してエネルギーとなる。
「本来、人の体は3分の2を脂肪から、残りを糖質からのエネルギーに依存しているのですが、現代はご飯、パンをはじめ、糖質が主になっています」
食事をして血糖値が上がると膵臓からインスリンが出て細胞のなかに糖を取り込み、血糖値を下げるように働き、逆に低くなるとアドレナリンなどインスリン拮抗ホルモンが働き、血液中に糖が供給され血糖値が上がる。
通常、食事をすると血糖値は緩やかに上がり、その後緩やかに下がり、食後3〜4時間後には、空腹時と同じ値になって安定する。
「ところが糖質過多の食事を続けていると、血糖値調整がうまくいかなくなり、少量の糖質を摂っただけでインスリンが大量分泌され、血糖値が低い状態が続くといったことになる。すると脳へのブドウ糖の供給も不安定になり、自律神経が乱れます。その結果、疲労感、だるさ、朝起きるのがつらい、思考力や集中力の低下、強い眠気、イライラや不安感が増す、感情の起伏が激しくなるといった症状が表れます」
さて、あなたは下のリストのような自覚症状はないだろうか?
【食生活チェックリスト】
□ご飯、パンを大量に食べる
□スナック菓子、清涼飲料水をほぼ毎日摂る
□おやつを食べることが多い
□夜中に目覚めて、何かを食べることがある
□食事を抜くことがある
□食後1〜2時間で空腹を感じる
□夕方に眠気を感じたり、集中力が落ちる
□イライラや不安感が、甘い物を食べてなくなったことがある
□頭痛、動悸が甘い物を摂ることでよくなったことがある
□血縁者に糖尿病の人がいる
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国立循環器病センターなどを経て、2003年日本初の栄養療法専門クリニックとなる新宿溝口クリニックを開設。栄養学的アプローチで、精神疾患のほか多くの疾患の治療にあたる。著書に『「疲れ」がとれないのは糖質が原因だった』ほか多数。
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(新宿溝口クリニック 溝口徹医師 文=遠藤 成)