非正規社員は住宅ローンを組んでもいいのか?

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■そもそも非正規社員は住宅ローンを組めるのか?

数年前、二宮和也さんが主演した『フリーター、家を買う』というドラマがあった。筆者はテレビをほとんど観ないので、ドラマではなく、有川浩さんの原作を読んだのだが、その後を描いたスペシャルドラマも放映されたくらいだから、視聴率も良かったのだろう。

ストーリーは、就職した会社を3ヵ月で辞め、ダラダラとフリーター生活を送っていたイマドキの青年が主人公。母親の病気をきっかけに、就職と100万円を貯めるという目標を立て、変わっていくさまと家族の再生がテーマとなっている。

ドラマのラストでは、せっかく貯めた100万円は母親が悪質商法に引っかかり、なくなってしまうものの、父親の提案で二世代ローンを組み、引っ越しを果たす。

ということで、ドラマのタイトルにもある通り、今回のテーマ「非正規社員は住宅ローンを組めないのか?」に対する答えは、「組むことはできる」である。

それでは、もう少し詳しく、非正規社員の住宅ローンについて見てみよう。

ひとくちに非正規社員といっても、(1)契約社員、(2)派遣社員、(3)パートタイマー(以下、パート)・アルバイトの3つがある。

(1)と(2)の区別が分かりにくいかもしれないが、(1)契約社員は、会社と直接契約を結ぶ点で派遣社員と大きく異なる。正社員との違いは、期間の定めがあり、継続性があるものの3ヵ月〜1年など有期雇用契約である点だ。この期間は、やむを得ない事情がない限り、勝手に使用者が解雇したり、労働者が退職したりできない。

続いて、(2)派遣社員は、派遣されている会社ではなく派遣会社と雇用契約を結ぶ。つまり、労働者と派遣先、派遣元の三角関係で成り立っている。

そして、パートやアルバイトは、通常の労働時間より働く期間が短く、雇用期間があらかじめ決められている。パートの方は、“パート主婦”という言葉があるくらいだから、以前は主に主婦が働くスタイルだった。アルバイトは、学生や副業で働くスタイルといえばおわかりいただけるだろうか。

では、それぞれ住宅ローンについてだが、組めるかどうかの審査上、厳しい順に、パート・アルバイト、契約社員、派遣社員となる。

まず、パート・アルバイトの場合、主債務者への収入合算者として対応してくれるケースはあるが、主債務者として民間金融機関で借りるのは難しい。

可能性があるとすると、「フラット35」を利用する方法だ。フラット35とは、住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して行う、最長35年の長期の固定金利の住宅ローン。

フラット35は、雇用形態に関係なく審査の対象になるため、パート・アルバイトでも、勤続2年以上、継続雇用などの実績があれば、利用できる。

そして契約社員の場合、期間の定めはあるものの、期限がくれば更新あるいは再契約をするのが通常である。勤続年数2〜3年以上であれば、民間金融機関で住宅ローンが組める。ただし、突然、会社を解雇されて収入が途絶えてしまった場合に備え、年収の80%の収入で審査を行うという。

最後に、派遣社員の場合、勤続年数1年以上などであれば、正社員と同じように住宅ローンが組める。もちろん、加入している社会保険が、国民健康保険よりも政管健保や健保組合、中小企業よりも大企業の方が審査は通りやすい。

仮に、勤務先が倒産したとしても、契約社員はすぐに解雇されてしまうことが多いのに対し、派遣社員は、他の派遣先に変更すれば良いだけの話だからだ。

要するに、いずれの場合も収入が高いかどうかよりも、審査する側は、収入の継続性や安定性を重視するということを肝に銘じておきたい。

■派遣社員の「借入額」は正社員と大差ない

では、どれくらいの非正規社員が住宅ローンを組んでいるのだろうか?

住宅ローン専門金融機関のアルヒが、ARUHI「フラット35」を借り入れた約5万人を対象に行った調査では、利用者の70%以上を会社員が占め、続いて自営業が約17%、公務員が約5%となっている。

また、短期社員(おそらく契約社員?)1%、派遣社員約2%、パート等2%で、割合は少ないものの、非正規社員も実際に住宅ローンを組んでいる。

続いて、職種別の平均借入額と頭金の額を見てみよう。

全利用者の借入額は平均2112万円、頭金は587万円で、おおむねセオリー通り不動産物件の2割程度の頭金を用意している計算だ。

意外にも、派遣社員の借入額は会社員と大差なく、借入額が一番多いのは自営業となっている。自営業者といっても、規模の大小や事業期間などさまざまなので一概に言えないが、一般的には会社員に比べて、当然、審査は厳しくなる。審査に必要な書類も、会社員が前年の勤務先からの給与所得を元に行うのに対して、個人事業主は直近3年分の確定申告の提出が求められる。

頭金では、年金受給者が一番多いのはなぜか。この現象は、収入が限られていて、その分頭金を増やさなければ借りられないという事情があるから。いずれの職種も年収が低いほど頭金を多く用意していることからも、この現象を解説することができるだろう。

東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドや日本マクドナルド、ニチイ学館、すき家やなか卯のゼンショー、吉野家など……。これらはすべて、非正規社員の割合が高い労働集約型企業である。雇用者数全体で見ても非正規社員は右肩上がりに伸びている。

総務省の「労働力調査」によると、2015年の雇用者数約5300万人のうち、正規社員は62.6%、非正規社員は37.4%。男女別でも、2005年以降、いずれも非正規社員の割合は増加傾向にあり、とりわけ女性は60%近くが非正規社員となっている。そうなると、非正規社員という雇用形態で住宅ローンを組む人も増えてくると予想される。

■完済するために、最初に考えておくべきこと2つ

このように非正規社員も住宅ローンを組むことができることはいことだ。しかし、問題がないわけではない。きちんと最後まで住宅ローンを返済できない人も少なくないのだ。

正社員に比べて、公的保障や社内の福利厚生制度が手薄な非正規社員は、離職や失職による収入減のリスクをよく検討すべきである。

そのためには、どんな対策が必要だろうか。主に2点ある。

(1)リタイア前に完済できる額か
何より変動金利で35年返済でなければ購入できない"身の丈に合わない"物件は避け、リタイア前に完済できる額の住宅ローンに抑えるなどの注意が必要だ。

(2)団体信用生命保険の種類を知っているか
また最近は、住宅ローンを組むときに加入する団体信用生命保険もバリエーションが増え、死亡・所定の高度障害状態に加、がん・急性心筋梗塞・脳卒中などの特定疾病が原因で一定の要件に該当した場合、住宅ローンの残債を弁済する三大疾病保障特約付きの団信もある。これらに加入しておけば、がんなどの病気で働けなくなった場合、一定要件を満たせば、住宅ローン返済はなくなる。
とにかく、住宅ローンは「組むことができる」ことと「完済できる」ことはまったく別物である。非正規社員は、正社員より一層、安心して返済できる住宅ローンのしくみを作っておくことが重要なのだ。

(ファイナンシャル・プランナー 黒田尚子=文)