新幹線に乗っているとき大きな地震が発生したら、列車はどうなるのでしょうか。高速走行中に「緊急地震速報」を受信、急停車した車内では、普段の新幹線とは異なる姿が見られました。どう変化するのか知っておくと、もしもの際に役立つかもしれません。

「のぞみ」でまもなく三河安城を通過という、そのとき

 新幹線で高速走行中に大きな地震が発生したら--。想像したくない状況ですが、実際にそのとき、新幹線はどうなるのでしょうか。いつ起こるか分らない地震、そのとき慌てないためにも、あらかじめ知っておくと良いかもしれません。


場合によっては、列車から降りて避難が必要なケースも。写真は訓練時(2015年5月、恵 知仁撮影)。

 筆者(恵 知仁:鉄道ライター)は2016年4月1日、東京発10時10分の博多行き「のぞみ23号」車内でその瞬間を体験しました。

 まもなく三河安城駅(愛知県安城市)を通過しようという11時39分、そのときです。車内へ一斉に、不安をあおる音が響き渡りました。乗客の携帯電話が発する「緊急地震速報」の警報音です。そしてまもなく、列車に変化が起きます。


一部を除いて車内の照明が消えた「のぞみ23号」(2016年4月1日、恵 知仁撮影)。

 車内の照明が一部を残して消えると同時に、列車は急減速。車掌による「ただいま停電が発生しました。電車が急に止まります。お立ちの方はお近くの手すりなどにおつかまりください」といった車内放送のあと、ほどなく停止しました。

 なぜ緊急地震速報にあわせて、新幹線停電したのでしょうか。それには新幹線地震対策システムが関係してきます。

地震停電するのが「正常」である新幹線

 東海道新幹線では、沿線から離れた場所の「遠方地震計」で地震のP波(初期微動)などを検知し、必要に応じて列車を停止させる「東海道新幹線早期地震警報システム(通称「テラス」)」と、沿線の揺れを直接検知する「沿線地震計」、そして気象庁「緊急地震速報」の活用によって、大きな揺れが来る前にできるだけ列車を減速させ、被害を軽減しようという地震防災システムが導入されています。


線路沿いに設置された「沿線地震計」と、線路から遠い場所に設置された「テラス」の「遠方地震計」(画像出典:JR東海)。

 それらシステムが列車を停止させる必要があると判断した場合、変電所から線路への送電が自動的に止められ、線路は停電状態になります。また列車は、停電すると自動的にブレーキがかかる仕組み。このため、地震検知で変電所からの送電がストップし、線路が停電状態になり、列車は車内の照明が非常用のものを除いて消灯、自動的に急停車したというわけです。

 これは東海道新幹線の例ながら、ほかの各新幹線でもこれに類するシステムが導入されており、大きな地震の発生が考えられる場合、停電状態になって列車のブレーキが作動します。

 またこのとき、緊急停車後に車掌から次のような車内放送がありました。

「ただいま緊急地震速報を受信しましたため、静岡から岐阜羽島のあいだで停電させて、すべての電車を止めております」

 地震発生時、「地震による停電のため新幹線の運転を見合わせている」と案内、報道されることがありますが、大きな地震の発生が予測されたとき、発生したときに新幹線停電するのは基本的に正常です。

「電車は急には止まれない」 高速走行中の新幹線、停車に必要な距離は?

 このとき筆者が乗っていた「のぞみ23号」(車両はN700AもしくはN700Aタイプ)は、受信していたGPSの記録によると約260km/hで走行しており、「停電」によりブレーキが作動したのち、およそ1分10秒後に停止しました。止まるまでに要した距離は約2.8kmです。ハンディGPSによる記録のため、あくまで“参考”ということでご理解ください。

 ちなみに2016年からJR東海が投入する最新版のN700A電車では、東海道新幹線の最高速度である285km/hから約3kmの距離で停車できるそうです。


最新版のN700Aで導入され、地震発生時の停止距離を約5%短縮させる新型(右)のブレーキライニング(画像出典:JR東海)。

 また、このときの地震は三重県南東沖が震央で、マグニチュード6.5、最大震度は4。幸いにも新幹線そのほかに特段の被害はありませんでした。

 ところで、地震による停電新幹線が停車した場合、注意すべきことがあります。

停電」するということは、つまり…

 緊急停止したこのとき、次のような車内放送が行われました。

「ただいま停電状態になっておりますため、トイレは使用できません。喫煙ルームも排煙できない状態になっておりますため、おタバコはお控えください。また客室内のすべての扉は手動扱いとさせていただきます。ご不便をお掛けいたします」

 停電のため、電気を使う車内設備を利用できなくなるのです。座席にあるコンセントも使用できません。こうした停電時にも用を足せる「簡易トイレ」が車内に備えられているため過度の心配は不要ですが、注意はしたほうが良いでしょう。


便座にビニール袋をかぶせた東海道新幹線の「簡易トイレ」(2015年11月、恵 知仁撮影)。

 ちなみに東海道新幹線で使用される「簡易トイレ」は、便座の上から緑色のビニール袋をかぶせ、その状態で用を足したのち、凝固剤を投入、口を縛って別のビニール袋へ入れてから、捨てられます。またこの際、近くの乗降用ドアが開けられます。理由はもちろん、換気です。

 なお、JR東海が開発している新型車両のN700S(2018年3月完成予定)では、小型で大容量のリチウムイオンバッテリーを採用することにより、停電時でも一部のトイレが使用できるようになります。

【画像】所在地がシークレットの新幹線指令所


地震などのトラブルが発生した場合、列車と指令所が連携し対処する。写真は「東海道・山陽新幹線第2総合指令所」(2015年12月、恵 知仁撮影)。