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●目玉の新サービス「Google Assistant」
Google I/Oで、新たな音声アシスタント「Google Assistant」を発表するなど、人工知能(AI)を活用したサービスに力を入れる姿勢を明確にしたグーグル。世界トップクラスの棋士を破った囲碁プログラム「AlphaGo」を開発するなど、以前よりグーグルはAIに力を入れているが、それが同社のビジネスにどのようにつながっていくと考えられるだろうか。

○AIを活用した「Google Assistant」が注目

今年も「Google I/O」で、さまざまな新技術を公開したグーグル。中でもその目玉として大きくアピールされていたのは「Google Assistant」である。

Google Assistantは、利用者が話しかけた内容に応じて適切な対応をしてくれる、音声認識機能を備えたアシスタントシステムである。グーグルはこれまで、「Google Now」で音声を認識して適切な内容をWebサイト検索する仕組みを提供してきたが、Google Assistantはさらに一歩踏み込んで、AIを活用して話しかけた内容を解釈し、相手が求める情報を、前後の文脈を考慮しながら適切な形で提供できるようになっている。

デモで紹介された事例を振り返ると、お勧め映画作品を教えてもらった後、その映画の評価をチェックしたり、上映時間を確認してチケットを取ってもらったりすることが、Google Assistantに話しかけるだけでできるようになる。単にキーワードに沿った情報を提示するだけでなく、グーグルのAIが会話の中から利用者が求めている要素を解釈し、文脈を理解した上で、それに沿った行動をとってくれるわけだ。

もっとも、音声アシスタント自体はグーグル以外も提供しており、代表的な事例としてはアップルがiPhoneなど、iOSデバイス向けに提供している「Siri」が挙げられる。Google Assistantはそのグーグル版といえるものだが、後発だけあって文脈を理解し、場面を選ばずさまざまな質問に対しより適切な答えを提示するなど、Siriより強化されている部分も多い。

さらに、Google I/Oでグーグルが打ち出したのが、「Google Home」と「Allo」という、Google Assistantを活用した2つのプロダクトである。Google Homeは、Google Assistantに話しかけて質問したり、声で家電を制御したりできる、スマートホームのハブとなるスピーカー型のデバイス。アマゾンが米国で提供している同種のプロダクト「Amazon Echo」に対抗する狙いが強いと見られている。

そしてAlloは、友達や家族などとの会話中にGoogle Assistantを呼び出し、Webやアプリに切り替えることなく情報を検索したり、飛行機や店の予約などができたりするメッセンジャーアプリ。Facebook MessengerやWhatsApp Messenger、日本で言えばLINEの対抗馬となるサービスだが、Google Assistantの利用に加え、投稿された写真に対する回答の候補を自動的に作成してくれる機能も用意されるなど、AIをフル活用しているのが大きなポイントだ。

●AIの利用環境を整えるグーグル
○「AlphaGo」などAI開発を積極化するグーグル

今回のGoogle I/Oでは、AIを前面に押し出したプロダクトが満載であったが、グーグルは以前よりAIの開発に積極的に取り組んでおり、既にいくつかのAIを公開している。中でも最近注目された事例として挙げられるのは「AlphaGo」であろう。

これは、グーグルが買収して子会社にしたGoogle DeepMindが開発した囲碁プログラム。囲碁はチェスなどと比べ、長い間プログラムが人間に勝つのが困難とされてきた。だがAlphaGoは1202のCPUと176のGPUを備え、AI技術を活用して学習を進めることにより、非常に強力な囲碁プログラムへと成長。今年3月に世界トップクラスの実力を持つイ・セドル九段と対戦し、3勝して破ったことから大きな話題となった。

またグーグルは、開発したAIをオープンソースとして公開する取り組みも進めている。実際、同社が開発したAIライブラリ「TensorFlow」はオープンソースとして公開されており、誰でも利活用できるようになっている。

AIをオープンソースで公開することが、グーグルのメリットがあるのか? と思われるかもしれない。だがディープラーニング(深層学習)を主体とした現在のAIにおいては、学習する仕組みの構築よりも、学習のさせ方や学習したデータの方が重要となってくる。それだけに、AIの仕組み自体を公開することはグーグルのデメリットにはならないだろうし、Androidのようにオープンソースで利用が広まることで、多くの人が自社のAIを利用し、事実上標準の座を獲得することが、将来的なメリットにもつながってくる可能性は高いだろう。

AIの利用拡大を進めるための基礎を固めることも、グーグルは怠っていない。実際グーグルは、AI専用のチップセット「Tensor Processing Unit」(TPU)を開発していることを、今回のGoogle I/Oで発表している。これはディープラーニングをより高速に処理するために作られた専用のアクセラレーターで、AlphaGoにもこのTPUが用いられているとのこと。ハードを開発するメーカーではないグーグルが、専用のチップセットを開発するという点からもAIに対する力の入り具合を見て取ることができる。

●グーグルがAIに力を入れる理由
○AIが欠かせない時代の競争力強化を目指す

ではなぜ、グーグルはそこまでAIの開発に力を入れているのだろうか。その理由は、やはり今後、AIがあらゆるITサービスを支える基盤となる可能性が出てきているからではないだろうか。

まだ特定分野での利用にとどまっているAIだが、ディープラーニングを主体としたAI技術の進化が急速に進んでいることから、将来的にはさまざまな分野のサービスにおいて、AIが活用されることが考えられる。Google Assistantなどの音声アシスタントや、Google Homeなどのスマートホーム分野はその代表例といえるが、他にもビジネスや健康・医療、娯楽に至るまで、さまざまな分野でAIの活用が進む可能性が、高まっているのだ。

特に今後、AIの活躍が期待されているものの1つが「チャットボット」である。チャットボットはメッセンジャーアプリ上で動作するプログラムのことで、チャットボットと会話するだけで、天気や交通情報などの必要な情報を得ることができたり、買い物やレストランの予約などができたりするようになる。メッセンジャーアプリ上で、会話するだけであらゆるサービスを利用できることから、チャットボットがWebやアプリを置き換える新たなプラットフォームになるとして注目が高まっており、最近ではマイクロソフトやLINE、フェイスブックなどが、チャットボットを開発しやすくするための仕組みを相次いで発表するなどして、この分野に力を入れている。

そして、このチャットボットの利用を拡大する上で、求められているのがAIだ。チャットボットを快適に利用するためには人間の話したことを理解し、膨大なデータの中から必要な情報を提示し、それを自然な会話で返すことで、会話を進める必要がある。そのためにはより優れたAI技術が求められることから、最近ではチャットボットに向けたAIの技術開発も加速しているようだ。

チャットボットをはじめとして、AIが多くのサービスに、日常的に取り入れられるようになった時、IT企業が競争力を高める上でもAIの技術は欠かすことができないものとなるだろう。それだけにグーグルは、Google I/Oで多くのAIに関連するプロジェクトを提示したことで、AIに注力する姿勢を明確に示したといえるのではないだろうか。

だがAIやそれに類する技術は、グーグルだけでなく多くのIT企業が注力している分野でもあり、今後競争が加速すると考えられる。実際、IBMのコグニティブ・コンピューティングシステム「Watson」は、既に企業などで導入が進められているし、アップルやアマゾン、マイクロソフト、そしてフェイスブックなど、多くの企業がAIの技術開発を進めている。IT企業が今後生き残るためには、AIが大きな鍵を握ることになる可能性は、極めて高いといえそうだ。

(佐野正弘)