米軍のスマート耳栓『TCAPS』は、爆発・発砲音から耳を保護しつつ指揮官の命令を聴き取り易く増強する

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戦場や演習では至近距離で銃や砲弾の発砲音、爆発音が鳴り響き、兵士の鼓膜や内耳にはかなり厳しい環境です。通常ならイヤーマフや無線用ヘッドセットを着用するものですが、これらはその場にいる指揮官の声も丸めてしまうため、聴こえなくはないものの聴き取りがしづらくなる場合があります。

しかし、人間の許容範囲を超える大きな音を直接聞いた場合、いわゆる突発性難聴と呼ばれる、一時的に耳が聴こえにくい状態になることがあります。突発性難聴は時間がたてば元に戻るものの、音のエネルギーがあまりに大きかったりすると、内耳に影響が現れて急性音響外傷を引き起こし、耳の閉塞感や痛みが現れることもあります。米軍が導入するスマート耳栓「TCAPS(Tactical Communication and Protective System)」は、最前線で活躍する兵士の鼓膜を守り、音響外傷や難聴のリスクを軽減するためのもの。スマートフォンと接続して通話する機能も備えます。

一般的なアクティブノイズキャンセリング機能付きイヤホンは、外界の音を遮断してプレーヤーの音を耳に届けます。これに対しTCAPSは、外界の「大きな音」、特に立ち上がりの鋭い発砲音や爆発音のピークを抑えつつ、人の話し声、特に小さな声を聴き取りやすくブーストします。

TCAPSはまだ2000セットが配布されたのみで、米軍の歩兵すべてに行き渡っているわけではありません。さらにいえば、1セット2000ドル(約21万5000円)もする耳栓が歩兵全員に支給される可能性はさほど高くないかもしれません。

とはいえTCAPSそのものは兵士の耳を難聴から守り、音声指示をより確実に行き渡らせるという点で作戦遂行のために有効です。またそれは着用者が生き残るためにも有効に作用するはずです。

ちなみに、ライブコンサートや夏場に開催される音楽フェスでは長時間にわたって耳を酷使するため、終了後にはすっかり音の聴こえがおかしくなっていることがあります。この症状は、普通なら一晩もすれば治るものですが、たとえばPAの前で爆音に長時間晒されていたりすると、翌日以降もまだ影響が残ることもあります。この場合は音響性外傷になっているかもしれませんので、すみやかに耳鼻科を受診されることをおすすめします。また老後もしっかりとした聴こえを維持したいなら、音が大きいと感じたらすぐ使えるよう耳栓を携帯しておくと安心です。