「重版出来!」が「期待外れだった」と言われてしまう理由を考えてみた

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黒木華主演のドラマ『重版出来!』。ここまで視聴率は苦戦しており、先週放送の7話ではついにこれまで最低の 6.8%を記録してしまった。


視聴率が多少悪くたって内容が良ければいいじゃないの。筆者の周りでも絶賛の嵐だし……。ところが先日発表された「gooランキング」の「期待外れだった、4月開始のテレビドラマランキング」なるアンケートで、『重版出来!』が堂々のワースト1位に輝いてしまった! なぜだ!

そこで今回は『重版出来!』の視聴率がなぜ伸びないのか、そしてなぜ「期待外れだった」と思われてしまったのか、その要因をいくつか考えてみた。

主人公の心が何もしない。


黒木華扮する黒沢心はマンガ雑誌『週刊バイブス』の新人編集社員。でも、ドラマに登場する新人サラリーマンにありがちな大失敗をやらかさないし、逆に何かをズバッと解決することもない。

『重版出来!』は群像劇で、毎回マンガ業界を取り巻くさまざまな人が主人公になる。先週放送の7話なら、20年間芽が出ないマンガ家アシスタントのムロツヨシが主人公だったが、心は彼をデビューに導く活躍を見せる……ことはなく、それどころかほとんどかかわらないまま、彼が夢を諦めて実家に帰るところでドラマは終わる。心は基本的に傍観者だ。

リアルといえばリアルなんだが、主人公が次々とトラブルに見舞われ、苦難に勝ち続ける『下町ロケット』や『半沢直樹』のようなドラマに比べると起伏やカタルシスがないと視聴者は感じるのかもしれない。

主人公の心がいい子すぎる。


心は仕事熱心で、基本的にやることにソツがない。コミュニケーション能力も高く、周囲の先輩編集者や変わり者だらけのマンガ家ともうまくやっている。書店員とのコミュニケーションは、先輩社員たちが見本にするほどだ。

努力家で、大きな失敗もしない心が抱えている悩みといえば、「新人作家をうまくデビューに導けない」や「編集者の役割とは何かと思い悩む」など、高度にクリエイティブなものばかり。

主人公の失敗やザセツを見て、お茶の間でイーッとしながら、一緒に悩んだり、成長を見届けたり……という部分がないところが、視聴者が物足りなく感じる部分なのかもしれない。「ああ、こういう失敗あるある(俺も若い頃やったなぁ……)」という共感度が低い部分もマイナスポイントなのだろう。上司からギャンギャン叱られない新人って、自分が出版社で新人だった頃のことを考えても本当に不思議。それだけ心が優秀なんだろう。

心が邪悪な部分や陰の部分をまったく見せないメンタルタフネスというのも、なんだか「良い子ちゃんだなぁ」と思わせてしまう一因になっていると思う。

毎回主人公が変わるのでついていけない。


すでに書いたとおり、『重版出来!』は群像劇だ。主人公は編集部の心だが、毎回違う人物にスポットが当てられる。2話なら存在感のない営業部員の坂口健太郎、3話なら不調のギャグマンガ家・要潤と担当編集者の荒川良々、5話は出版社社長の高田純次、6話は冷徹な編集者の安田顕……といった具合だ。

始まる前は、「個性派キャスト勢ぞろい!」と話題になったが、本当の意味で勢ぞろいするわけでもなく、どちらかといえばそれぞれのかかわりは薄い。7話で一瞬、編集者同士がワチャワチャくだらない会話を交わすシーンがあったが、それがちょっと嬉しく感じるぐらいだ。

毎回、実質的な主人公が変わり、1話の中で問題発生から解決までのプロセスがしっかり描かれているが、ほぼ1話完結のため、視聴者が熱をもって連続するドラマを追い続けにくいという問題も発生する。2話で坂口君に好感を持ったとしても、それ以降はほとんどチョイ役だったりするので、そういう意味では、登場人物に感情移入しにくいドラマだ。

よっぽどドラマの雰囲気や世界観が好きな人でない限り、「よし、次も見よう!」という気持ちにならないのではないだろうか。

お話が専門的すぎる。


出版業界のお話なんだから、出版の話になるのは当たり前だが、一般の視聴者には遠い世界のように感じるのかもしれない。

編集者の役割の変化、仕事相手であるマンガ家とのパートナーシップ、新しい才能をいかに成長させるか、芽が出ないまま夢の世界でモラトリアムを生きる……などなど、登場人物たちがぶつかる悩みは、どれも大変クリエイティブなものばかり。「ウワー、もらった原稿置き忘れた!」とか「締切間に合わない、死ぬ!」みたいなトラブルはほとんど起きたりしない。

たとえば、『下町ロケット』は製造業の人ばかりが見ていたわけじゃないだろうし、『真田丸』も現実の世界とは遠い。だけど、きっとどこかで視聴者は登場人物たちの悩みや努力を自分に置き換えながら見ていたはずだ。下請けの悲哀や親子のかかわりなどは、普遍的なテーマだからである。一方、『重版出来!』の場合は描いている内容が専門的で、普通の仕事をしている視聴者はちょっと共感しにくいのだろう。

よく考えたら毎回「泣いた!」と絶賛コメントをSNSに流している筆者の知り合いは、たいてい出版関係者だったりする……。ドラマの背景にある出版関係のあれやこれやは毎週こちらのレビューで解説しておりますので、よろしければぜひ。

主人公たちがいつも美味しそうなものを食べている。


心たち編集者たちが、毎日のように美人女将・野々すみ花がいる小料理屋「重版」に通って一杯やったり、食事をしたりしているのを見ると、「ああ、編集者って高給取りなんだなぁ」と痛感する。あの店、食事するだけで1800円はすると思うよ。というか、筆者だって通いたい……。

もちろん、本や雑誌がよく売れた時代の経費使い放題っぷりに比べれば、ずいぶん抑えた描写だと思う。某出版社には海外取材の経費が100万円足りなくなり、「象1頭100万円」の領収書を作って経理に提出したら、それが通ったという伝説があった(諸説あり)。6話に登場した「無敵の浜田」なる人物は、こういう時代を生きた人だろう。

出版不況という現在の状況は『重版出来!』という物語の背景として強い存在感を持つが、大手出版社の社員編集者の給料は依然として高いというリアルな部分も映し出してしまっている。心たちが華やかな生活をしているとは思わないが、庶民感覚とはちょっと離れているような気がするんだよね……。

と、いろいろ書き連ねてきたが、筆者はとても面白いと思っている『重版出来!』。本日放送の第8話は、廃人同然になった「消えたマンガ家」の作品を電子書籍として復刊する……と書くと専門的な話のように思えるけど、きっと面白いよ! 

なお、『重版出来!』の先週放送分は、TBSオンデマンドで配信中(本日21時59分まで)。(大山くまお)