換気扇越しに伝わる童貞感「ゆとりですがなにか」5話

写真拡大

キャストの間にグルーヴが生まれ、ますます面白くなってきた「ゆとりですがなにか」(日本テレビ系、毎週日曜22:30〜)第5話。
先週は若い彼氏に怒鳴り込まれ、今週はその彼氏から「あいつならシャワーを浴びてるよ」とわざわざ佐倉(吉岡里帆)の携帯から電話をかけられ、と冒頭で災難に遭いがちな山路(松坂桃李)。だが茜ちゃん(安藤サクラ)とはボルダリングを通じて友情を深めている。


「いい先生」山路の本音爆発


今回はこの山路、茜ちゃんそれぞれの見所がすごかった。
ある日転校してきた学習障害(LD)の少年、大悟くん。算数が苦手で前の学校では算数だけ別教室で受けさせられ、疎外感を感じていたという母親の話に、山路は算数もみんなと一緒に授業をしようと決意する。その日々が合間合間にダイジェスト的に挟まれ、大悟の母親にちょっとときめくなどのシーンもありながらやがて大悟は算数で正解する。
終盤、学校を訪ねてきた佐倉と実習の集大成であった「オズの魔法使い」を見ている時、「私、教師になるの諦めます。わくわくしないっていうか。一生は無理だなーって」と言われ、帰り道で感情を爆発させる。
「俺だってわくわくなんかしませんよ。いや、さっきの話。もう無理って毎日思う。好きな生徒嫌いな生徒いるし、全然。同僚、親、いる、名前言ってもいいけど。顔見たくないやついるよそれでもやってますよ教師!こんな俺でも。割り算の筆算に4時間ですよ、大悟くん、LDの子、あーってなりますよ、泣けてきちゃいますよ。こんなの一生なんか無理ですよせいぜい1日ですよ、でもやってますよ」
このセリフを一気にダーっと吐き出す山路。思えば山路は、ここまでいい先生だった。モンスターペアレンツに苛まれながらも理想を求め、実習生である佐倉に熱い指導をして(視聴者には常識の範囲内に見えるが佐倉にとっては押しが強すぎる)、児童たちに愛される先生だった。それでも毎日必死にやっていることが、このシーンでいやというほど伝わってくる。

茜ちゃんの超絶演技


茜ちゃんは仙台への栄転の話が出たがそれを坂間(岡田将生)に言い出せない。しかし何でも話せる友達の山路には話している。それに嫉妬している坂間と言い争いになり、「じゃあさ、別れようか」と言われたシーンでの茜ちゃんの表情!
「じゃあさ」と言われた瞬間、茜ちゃんは坂間がいつものようにプロポーズをしてくると予感している。これまで逃げのようにプロポーズしてくる坂間に「なんでそんなこと言うの?」と怒ってきたが、本当は結婚したい気持ちがないわけじゃない。多分今日言われたら、受け入れようとしている。そこで、「じゃあ」と言われ、彼女は「ちょっと待って、だいたい何言うかわかるんだけど」と言いながら少しでもいい状況で言葉を受け入れようと、その時していた「鳥の民」のハチマキを外す。

「どぞ」
「別れようか」
「そっちか」

無言で頷いて、「いいよ、わかった。別れましょう」と言って去る。この瞬間のやりきれない思いを抱えた視線、口元。観る者に突き刺さる名シーンだった。

しかし、山地のシーンではその後結局佐倉に優位に立たれているさまを換気扇越しに茜ちゃんをはじめとする「鳥の民」メンバーに見られ、相変わらず童貞っぽさをからかわれる。茜ちゃんのシーンではその後シリアスな展開になるものの、直前まで坂間は言い争いの中で「ボルダリング」が言えず「ボ、ボボボ、ボリ」「ボルダリング!」という言い合いを繰り返す。これほど隅々まで笑える瞬間が散りばめられている構成は、他のドラマではあまりお目にかかれない。

15年後の『ロケット・ボーイ』?


さて、坂間は妹・ゆとり(島崎遥香)と、彼女がこっそり働いているガールズバーの店長をやっているまりぶ(柳楽優弥)との関係を探るのに奔走する。しかしとうとう二人は付き合い始めてしまう。今回はまりぶの妻(瑛蓮)の「(女は)結婚、仕事、自分で決める!」「(中国語で)妹を狙ってる、気をつけて」「しょうもない男!」といった名言が連発する回でもあった。

ところで、今回は山路と茜ちゃんに嫉妬するあまり、坂間がその名称を覚えられないほど疎いボルダリングに無理やり挑戦し、アキレス腱を切ってしまった。
坂間、山路、まりぶの男子3人が友情を深めていく姿にかつての宮藤作品『ロケット・ボーイ』を思い出していたが、あのドラマでも後半主人公が骨折していた。まあ『ロケット・ボーイ』では主演の織田裕二がドラマの最中に椎間板ヘルニアが悪化してしまったというやむをえない理由があったのだが。それにしても男3人の友情、主人公の足のケガという共通点は偶然だろうか。
(釣木文恵)