長続きしそうもない向井理羽振りの良さ「とと姉ちゃん」39話

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連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第7週「常子、ビジネスに挑戦する」第39話 5月18日(水)放送より。 
脚本:西田征史 演出:大原拓


平和は長く続かないもの。
6週で一旦問題がすべて解決し、平和な日々が訪れたのもつかの間、7週で新たな問題が持ち上がる。
ドラマとしては、問題が起きることで、常子(高畑充希)が男のひとと同じように稼ごうとする動機づけになる。
帝都不詳事件(2・26事件)によって戒厳令が敷かれ、世の中が暗い。
仕出しの注文も減ったと落ち込むまつ(秋野暢子)。歯槽膿漏にもなって弱り目にたたり目。
このままだと君子(木村多江)の給金が・・・とポツリ。
これで常子は立ち上がらざるを得ない。
タイミングよくやって来た鉄郎(向井理)は、ビジネスに成功し、はぶりがよくなっていた!
まつには「あんな赤いシャツ着た唐変木」呼ばわりされていたが、肌触りの良さそうなシャツだった。
よし、これからは、おれがおまえらの面倒みてやる! とはならないのが鉄郎の残念なところだと思う。もっとも、言ったところで羽振りがいいのも長続きはしないのだろうけれど。
鉄郎にできるのは、常子にビジネスの心得を得意げに伝えること。「需要」と「供給」の仕組みを常子は知る。
さっそく世の中の商売を研究する常子。勤勉な子である。

それにしても、鉄郎はいったい何の需要と供給を考えて成功したのだろう。
その後、星野武蔵(坂口健太郎)が、いつもひとのためになることばかり考えている常子に、もっと自分がほしいものを感じると、ひとの役に立つものが見えてくるかもしれないと助言。さすが帝大生。ものの見方のセンスがいい。
それによって常子は何か閃く。元丸眼鏡(「ゲゲゲの女房」だけど)、今丸眼鏡のふたりに助言をもらって、常子、鬼に金棒か。
男性と肩を並べるくらいのビジネスを行おうと志を高くもつ常子の周囲は、がぜん男まつり状態。
彼女は、べろんべろんに酔って大騒ぎする男たちに囲まれる体験を今までしたことがないに違いない。小橋家は長く女性4人で、とと(西島秀俊)がいた時も、下町の男たちのようにしこたま飲んで騒ぐなんてことをきっとしたことがなかっただろうから。
常子を取り巻く世界が、女性だけの柔らかく可愛らしいものから、徐々に塗り変わっていく感じがして、面白い。
そんな状況を、森田屋に飾ってある「福助人形」が見つめている。福助は縁起物のひとつ。「あさが来た」における張り子の招き猫みたいなものだが、驚いたのは、39回の最後、福助のアップにナレーションがかぶったこと。瞬間、まるでナレーション(壇ふみ)が福助の視点であるかのような雰囲気を感じたが、まさか、今更、そんなことないよなあ。あったらあったで可愛いけれど。

それにしても、「阿部定」に「福助」とくると、松尾スズキ作演出、日本悲劇協会「ふくすけ」(98年)を思い出すひともいるのではないだろうか。阿部サダヲがふくすけ役を演じていて、片桐はいりも出演していた。脚本家の遊びココロなのかと勘ぐってみるが、なぜ、そんなマニアックな。
(木俣冬)