「ジョジョの奇妙な冒険」俺の猫を轢き殺してただで済むのか

写真拡大

ジョジョシリーズも声優的に一巡した世界


今回登場するスタンド使い・小林玉美の声は鶴岡聡さん。覚えているだろうか、第二部のアニメでジョセフ達に絡んできた吸血鬼・鋼線のベックを。自分の手をドアノブに偽装して奇襲をしかけ、リサリサに「美人だズラ マブいズラ キレイな肌してるズラ!」と粉をかけたあげくお仕置きされた、チョイ役なのに印象に残っているキャラだ。あの憎めない小悪党の声が再び帰ってきた!
前回、虹村兄弟の父を演じていた楠見直美さんも、第一部で切り裂きジャックを演じた前歴があるキャストの再登板だ。ジョジョのアニメ版もスタートから4年が経ち、声優さん的には「一巡した世界」に到達したらしい。これから何が起こるか分かっているため(原作を読んでるから)、事前に声優の「覚悟」ができる新世界……プッチ神父に見せたかった。
モリモリ〜と軽快に流れる杜王町ラジオのDJ・カイ原田を演じるバッキー木場さんは、実際にbayfmの『パワカン』でDJを25年もやっていた人。バッキーさんの引退後、後任DJをつとめたのは声優の森久保祥太郎さん=レッド・ホット・チリ・ペッパー! スタンド使いとジョジョ声優は引かれ合うのかもしれない。


第六話は、こんな話



買ってもらったばかりのマウンテンバイクで登校中に、袋に入れられた猫を轢いてしまった康一。慌てふためいたそのとき、小林玉美という男が声をかけてくる。猫を埋葬してやるから金を出せ、俺の猫を轢き殺してただで済むのかとまくし立てられ、罪悪感を覚えた康一の胸に錠前のスタンドが現れ……。

第四部を象徴する小林玉美


前半のAパートは康一くん・ヒロイン編.。頼もしい仲間たちに助けてもらうお姫様というところだ。
小林玉美の「ザ・ロック」は相手に罪悪感を覚えさせ、心に錠前をかけるスタンドだ。どこまで逃げても解除されず、罪の意識ある限り地の果てまでもついてくる。アイキャッチにあったスタンド能力チャートでも、「射程距離(以下同じ)」とあったのが地味にえげつない。
そんな能力を操る小林玉美は、第四部を象徴するスタンド使いだ。アンジェラのような圧倒的な凶暴性に突き動かされるでも、形兆のように大きな目的でもなく、ただゲスい欲望を満たしたくて能力を使う。「日常の中にいそうな非日常」というテーマを形にしたキャラなのだ。
小林玉美についてのアニメの改変はただ一つ、最初から身長が低いこと。原作でははじめ康一くんより背が高く、徐々に縮んでいき、最終的には康一くんと同じタッパに落ち着いた。まぁ「闘気で大きく見えていた」というキャラは、『魁!男塾』の大豪院邪鬼などジャンプ漫画の伝統ではある。

ほとんどサイコスリラー


「ザ・ロック」は、相手に罪悪感を植え付けないと発動できない。つまり、玉美本人の仕込みこそが「本体」と言える。錠前をかけられた相手が玉美を殴ればダメージは跳ね返る……ということで、今回はパワーの激突よりも心理戦。「ジョジョらしさ」を監修しているソエジマヤスフミ氏が、第四話に続いて演出を担当したのもうなずける回だ。
康一くんがパニックになると空が歪む演出も面白いが、注目は「轢き殺された猫」の近くにいるアリの群れ。血が流れる道に群がり、排水口の中でも待っているのは、血のりが偽物で甘いケチャップか何かだと暗示してるのだろう。ここまで描写の細かい第四部アニメ、ほとんどサイコスリラーである。
今回は原作5話分をコンパクトにまとめているが、仗助&億泰の「あいつ人づきあいいいけどよ〜けっこうガラの悪い奴とつきあい多いよなー」という「お前らが言うな」的なセリフは原作通り。
感情に任せて玉美に突っかかり、やっぱり「前歯をへし折った」という罪の意識で錠前をかけられる億泰。そして状況をクールに分析し、玉美のトリックを見破った上に前歯を治してやり込める仗助は名コンビ。億泰がかませ犬にも思えるが、可愛く見えるので結果的に美味しいのだ。

広瀬康一、ついにエコーズを発現!


Bパートは康一くん・ヒーロー編。仗助達に頼りきりから、一人前のスタンド使いへ。原作でも「仗助の力を借りなきゃひとりでなあ〜んにもできねーのかよ」とからかわれていたが、自分だけの力で小林玉美を倒すことが「通過儀礼」だ。
家に帰ってくると、小林玉美が康一母の肩をもんでいる最中。すでに家庭に入り込んでいた玉美とのザ・心理戦のスタートだ。
やれ財布が取り違えられたの、50万円をネコババされたの、玉美の手口は妙に生々しくていやらしい。荒木飛呂彦先生の作品では『魔少年ビーティー』にいそうなタイプだ。
母さんと姉さんに錠前を仕掛けた玉美に激怒した康一くん、ついに卵の殻を破ってエコーズのスタンドを覚醒! 爬虫類のような緑の体色でギョッとするが、荒木先生の指定カラー(フィギュアの超像可動)に忠実だったりする。
エコーズはバギ!やビシ!といった“音”を貼り付ける能力だが、今までオノマトペ(擬音)をビジュアル化してきたジョジョアニメだから違和感はゼロ。全ては康一くんのための伏線だったのだ……。
自分で腹を刺した血まみれのナイフを康一くんに渡して、康一母の罪悪感を煽った玉美は精神力もタフで手ごわい。が、「信じて!」という息子の声を信じる母の心に負けた。俺の親なんか絶対信じねえのによぉ〜と嘆く玉美が少し涙を誘う。
前言撤回。康一くんだけで勝ったのではなく、広瀬ファミリーの絆がスタンドを力づけたのだ。「少年の成長物語」という意味では、もう一人の主役・広瀬康一が誕生した大事な話数だ。これから本人もスタンドも、どんどん成長していきますよ!
(多根清史)