【速報】決定!マンガ大賞2016は、野田サトル『ゴールデンカムイ』

写真拡大

今年で第9回目となる、マンガ大賞2016が発表された。今年の大賞は『ゴールデンカムイ』。週刊ヤングジャンプで連載される青年向けマンガだ。が、実は僕はこの作品が大賞だと困るかもなあと考えていた。ともあれ、野田サトルさん、マンガ大賞の受賞おめでとうございます。不謹慎なことを考えてしまって申し訳ありませんでした。しかしながら作品はとても面白く拝読し、実際、僕も2次選考では票を投じております。


では、なぜ困るのか。 これは本当に手前勝手な理由で申し訳ないのだが、理由は単純で、レビューしづらいタイプの作品なのだ。この数年、マンガ大賞の速報を書いているが、当然ながらそこには何らかの作品レビューを盛り込んでいる。しかし、本作は過去の受賞作のなかでも、もっとも作品を構成する柱が多い。

例えば昨年の速報では、「【速報】決定! マンガ大賞2015は、東村アキコ"涙"の自伝『かくかくしかじか』」というように「"涙"の自伝」とし、あらすじのさわりを書いた。一昨年の「ついにあのジンクスが破られた。速報!マンガ大賞2014は森薫『乙嫁語り』〜現場から詳細レポ」も難しかったが、「中央アジアを舞台に、描き出される暮らしにあるもの──。遊牧民と定住民の暮らしや結婚観、家族や血縁というコミュニティのあり方など、さまざまな角度からその姿を立体的に描き出す」と作品の緻密さに触れた。

どちらの作品でも触れたのは、映すひとつの柱でもあるように思う。だが今年の大賞『ゴールデンカムイ』のレビューはとても難しい。例えば、僕の2次選考時の推薦コメントはこうだ。

「舞台である開拓使時代の北海道について考証を重ね、アイヌという異文化の暮らしをていねいに描く手法は、2年前の大賞受賞作『乙嫁語り』(森薫)をも想起させるし、史実を大胆に膨らませながら、ときにコミカルなテイストを織り交ぜるセンスは過去のノミネート作である『ドリフターズ』(平野耕太)にも通じる引力とおかしみがある」

一部ディテールの面白さについて触れてはいるが、本質的な面白さについては、ほとんど伝えられていない。『乙嫁語り』と『ドリフターズ』を読んでいる人相手ならまだしも、両作を読んでいない人にはちんぷんかんぷんだろう。

だが、『ゴールデンカムイ』を「×××マンガ」と一義的にカテゴライズしようとするのも違和感が残る。パッと思いつくだけでも、「歴史」「民族」「狩猟」「グルメ」「サスペンス」「アクション」「バトル」に「ギャグ」「やおい」などなど、カテゴリーになりそうな要素はいくら挙げてもキリがない。

しかも何かひとつのラベルを貼りつけた瞬間、そのジャンル分け自体がウソになる。多彩な要素こそが、『ゴールデンカムイ』という作品の魅力につながっている。レビューを書くのに困りながらも、一読者としてはそう思うのだ。

では、作り手サイドにとって、『ゴールデンカムイ』の柱はなんだろうか。とあるインタビューで作者は今後の展開を聞かれて「できるだけ回り道な旅をさせていこうと思っています」と語っていた。ならば、いま行われている授賞式のなかで、その「回り道な旅」の軸になるものの正体を探っていきたいと思う。
(松浦達也)

<マンガ大賞2016最終結果>
大賞
『ゴールデンカムイ』(野田サトル)
91ポイント

2位
『ダンジョン飯』(九井諒子)
78ポイント

3位
『BLUE GIANT』(石塚真一)
68ポイント

4位
 『僕だけがいない街』(三部けい)
55ポイント

5位
『百万畳ラビリンス』(たかみち)
49ポイント

6位
『波よ聞いてくれ』(沙村広明)
43ポイント

7位
『恋は雨上がりのように』(眉月じゅん)
42ポイント

8位
『町田くんの世界』(安藤ゆき)
38ポイント

9位
『東京タラレバ娘』(東村アキコ)
29ポイント

10位
『岡崎に捧ぐ』(山本さほ)
28ポイント

11位
『とんかつDJアゲ太郎』(イーピャオ/小山ゆうじろう)
25ポイント