終電の屋根に美少女『終電ちゃん』が乱暴です

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「オラ急げ急げ! 早く乗るんだ!! 無事家に帰りつきたかったらな!」
マンガ『終電ちゃん』(藤本正二/モーニングKC)である。


第67回ちばてつや賞入選作品。大反響で「モーニング」40号より連載スタート。
そして、ついに『終電ちゃん』『終電ちゃん』1巻が出た。

「酔っ払いども! 早く乗りな!!」
中央線終電の屋根にいる「終電ちゃん」。
駅員姿の少女、ちびキャラだ。
駅につくと、乱暴な言葉で、乗客を叱咤激励し列車に乗せる。
残業続きの常連さんには「今日は7号車がわりと静かだよ。酔っ払いが少なくてね」なんて情報を提供したり。
出発するときにはお前たち、明日はもっと早い電車で帰るって約束しな!」と車内放送。
ああ。
実在してくれたら、どんなに癒されるだろう。
乱暴な言葉は、もっと早い電車に乗ってもらうために、わざと嫌われようとしているからだ。

終電ちゃんが何者なのか。マンガを読むと、すんなり受け入れられる。
だが、言葉で説明しようと思うと戸惑う。
終電そのものの擬人化ではない。機関車トーマスみたいな感じではない。
車内を歩きまわり、乗客と話す。
乗客も、終電ちゃんを実在の対話できる者として認識していて、会話している。
とはいえ、われわれと同じ人間ではない。
終電の屋根に布団しいて寝てるし。
年もとらないみたい。
終電まわり以外の社会システムはなんにも知らないみたいだ。
なにしろ、落し物のダイヤの結婚指輪を見ても「それはないと困る者なのかい?」なんて言う。
終電の妖精みたいな存在かとも思う。

山手線の終電ちゃんも登場する。
「見ろよ。また終電ちゃん同士で喧嘩してるぜ」
と言われてるので、「終電ちゃん」は、個人名ではないようだ。

中央線の終電ちゃんは、勾配標を常に持ち歩き、
山手線の終電ちゃんは、普通転轍機(だるま)を常に持ち歩く。
これは西洋美術でいうところのアトリビュートだ。
西洋美術では、それを描くことで、何のキャラクターかを明確に示す持ち物があり、それをアトリビュートとよぶ。
たとえば、天秤と剣というアトリビュートが描かれていたら、その人物は「正義」の擬人像だ。
とすると、終電ちゃんは、終電という概念の擬人像の実体化なのだろうか。

終電を止めて遅れている客を待つなんて権限を持っている。
しかも、運転士から、同僚と言われる。
と考えると、社員のようだが、ふつうの社員より終電に関してはもってる権限は大きそうだ。

いや、でも……。
まあ、いい。
そういったことまるごとを受け止めて、終電ちゃん、いい。
実在して欲しいキャラクターNo.1である。

♯0プロローグ(ちばてつや賞入選作)
♯1はじめまして終電ちゃん
♯2山手線の終電ちゃん
♯3終電ちゃんと運転士
♯4終電ちゃんとクリスマス(前編)
♯5終電ちゃんとクリスマス(後編)
♯6終電ちゃんとお人好し
♯7小田急線の終電ちゃん
終電ちゃんと、終電の乗客や運転士たちが繰り広げるドラマ全8エピソード。
ちばてつや賞入選作は、WEBコミックモアイで読める(コチラ→「終電ちゃん」)。

今度、終電に乗ったときに、『終電ちゃん』思い出しちゃうなー。
(米光一成)