女体にアニメを投影、手塚治虫『I.L』がエロくて変態でヤバイ

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落ちぶれた映画監督・伊万里大作。占い師に言われた屋敷で、アルカード伯爵(ドラキュラのアナグラム!)から頼み事をされる。
「ひとつ監督をしてもらいたいんでね」
「映画の?」
「いや……現実の世界の監督です。つまりこの世を演出するんですな」
で、棺桶に入った女優I.L(アイエル)をプレゼントされる。
どんな人間にでも変身でき、命ずれば動く女優だ。
彼女を使って、理屈ばかりが優先され幻想と夢が失われた現実にレジスタンスをやったもらいたい、と。

という設定で、毎話、アイエルが身代わりとなり奇怪な事件に首をつっこむ1話完結型の大人のメルヘン連作短編集。
1969年青年コミック誌「ビッグコミック」に連載された。

ダークサイドの手塚作品で、ともかく暗い影が作品全体を覆う。
精神を病んでいたり、焼け死んだり、自殺したりの連続。
扱われるのも、上司の命令で女を殺したベトナム戦争の逃亡兵の物語だったり、東南アジアの建設利権に暗躍する日本人に対抗する物語だったり。
エロチックで、女体がうねうねするシーンも多い。

第7話「フーテン芳子の物語」で、ダーク&エロチカが炸裂する。
全身に花のいれずみをしているフーテン女と、女刺青師のレズシーンが、シルエットと舞い散る花と手塚独特の曲線で展開する。
愛と憎悪の物語は、とんでもない鬱展開で終わる。

2巻収録の第12話「ラスプーチン」も女体蠢くダークエロチカだ。
弟子原監督は、撮った映画がワイセツすぎるため裁判になるが判決で無罪となり、どんどんワイセツ映画を撮るのだが……。
「70年代のためなんや!」と撮影する現場は、100人ぐらいの全裸の女が部屋にぎゅうぎゅう。タイトルは「肉体部屋」だ。
主演女優の自殺の謎を解き明かすために女優に扮したアイエルが、夜、監督のところへ向かう。
そこで展開するのは、全裸にむかれて縛れて奇っ怪なポーズをとらされて、女体にアニメーションを投影するド変態シーン。
サイケな全裸プロジェクションマッピングが、2ページにわたって展開する。
次の日も、すごい。
「いいか愛くん。ぼくはおもしろ半分にこんなポーズをとらせるのやないで!! 70年代日本の民衆の苦しみをきみの苦しみの中から描き出そうとしとるんや!!」と叫びながら、全裸にむいてゴム風船にニカワでくっつける。ライトオフすると、シルエットに。
「きみのからだがそのまま軟体動物のように水泡にまきこまれてうごめく!」「水を求める瀕死の人魚のようにきみはもだえるんだ!」

手塚治虫『I.L(1)』『I.L(2)』、松竹ヌーヴェルヴァーグや、アヴァンギャルドな日活ロマンポルノのテイストがふんだんに盛り込まれた珍手塚作品だ。(米光一成