ルパンは何を盗めばいいのか問題「ルパン三世」23話「世界解剖 前編」

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30年ぶりのTVシリーズとなったルパン三世もいよいよファイナル。最終回一歩手前の第23話は「世界解剖 前編」。現代に蘇った万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチがルパンの前に立ちはだかる!


ダ・ヴィンチの野望とは「世界を設計し直す」ことだった。これは第18話で予告していたとおり。ダ・ヴィンチが考える新世界にふさわしい人間を選別し、失格した人間は人格そのものを変えてしまおうという大胆かつスケールのデカい計画である。「世界は人間でできている。人間が生まれ変われば自ずと世界も生まれ変わる」とはダ・ヴィンチの言葉。さーすが、ルネサンス期の大物だけある。

イタリア全土の国民を催眠状態にして、それぞれの夢に現れるダ・ヴィンチ。次元、五エ門、不二子、銭形らとそれぞれタイマン勝負して、いちいち新世界にふさわしい人物かどうかテストするんだから手間暇かけている。次元は銃、五右衛門は剣、不二子はポーカー(イカサマ)、銭形は逮捕術でダ・ヴィンチを圧倒するが、“ミセス・ルパン”ことレベッカは「失格」。ダ・ヴィンチに人格を乗っ取られることになってしまった。もちろん、ルパンは怒り心頭だ。

「意外だな。悪党の君にも正義感があったとは」
「けっ、勘違いすんじゃねぇ。女に手出されて黙ってるのはルパンじゃねぇ。それだけだ」

新世界にふさわしい人物を選別しようとするダ・ヴィンチの手口は、『ルパン三世 ルパンVS複製人間』の敵役マモーとそっくり。このときもルパンは奪われた女・不二子を奪回するためにマモーを打倒している。そういえば、今回の眉がグーッと吊り上がって、目の上のラインが太いルパンは、どことなく『複製人間』のときのルパンを思わせる。

ルパンは消えかかったレベッカの人格を盗むために、夢の世界に潜り込んでダ・ヴィンチ城を目指す。有言実行の男・ルパンとレベッカの運命やいかに?

盗みをしない今シリーズのルパン


何度もレビューの中で繰り返して言ってきたが、今シリーズのルパンは天下の大泥棒でありながら、あまり盗みをしない。正確に言うなら、私利私欲のための盗みをあまり行わない。とはいえ、義賊というわけでもないのだからややこしい。

第1話でリベルタスの王冠、第3話でマリー・アントワネットの首飾りの欠片、第6話でメディア王の隠し財産、第8話で古城のお宝、第14話で名画モナリザ、第15話でダイヤ「クレオパトラの心」、第19話でMI6のデータ……と、ルパンが狙いをつけたのは、だいたいこれぐらいである。この中には未遂に終わったものもあれば、盗んだ後で持ち主に返したもの、捨ててしまったものもある。あとは不二子に頼まれたものを盗んだぐらいだ。

友永和秀総監督は、今回のルパンを「20代後半」に設定していると語っている(“ハードボイルドなルパンを描きたい”「ルパン三世」友永和秀総監督インタビュー)。20代後半といえば、『ルパン三世 カリオストロの城』でルパンが昔を回想しながら語る「一人で売り出そうと躍起になっている青二才だった」頃ぐらいと考えていいだろう。『カリオストロの城』の回想シーンでは見境なく他人の宝石や現金を盗んでいたルパンだったが、今シリーズではそんな様子はまったく見られない。

宮崎駿曰く「盗むものがなくなっちゃった」


『攻殻機動隊』シリーズや『機動警察パトレイバー』シリーズなどの作品で知られる押井守監督だが、かつて劇場版『ルパン三世』を監督するという計画があった。『ルパン三世 PARTIII』が放送されていた1984年のことで、『カリオストロの城』の宮崎駿監督が依頼を断ったことから話が持ち込まれたのだ。

この頃、押井は宮崎とずいぶんルパンについて議論したという。押井は次のように証言する。「もともと宮さん(宮崎駿)は、ルパンが盗むものがなくなっちゃったと言ってた。宝石であれ現金であれ、何を盗んでもさしてカッコイイと思えないって」(「幻の押井ルパンは「虚構を盗む」はずだった」『THEルパン三世FILES ルパン三世全記録』)。結局、宮崎駿は『カリオストロの城』でクラリスという女の子の心をルパンに盗ませた。押井は「普通なら恥ずかしくてやらないことなんですけど、宮さんは抜け抜けとやった」と評している。

泥棒であるルパンが何を盗めば同時代性があるのだろうか? 考え抜いたあげく、押井はルパンに「虚構を盗ませる」ことを思いつき、「全てが虚構、ルパンなんて存在しなかったという話」をやろうとしたが、当時のプロデューサーらは「難解だ」と反対して、企画は頓挫してしまった。その後、別スタッフによって大慌てで作られたのが『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』である。

宮崎駿と押井守の言葉によれば、ルパンは30年以上も前に盗むものを失ってしまっていた。今シリーズのルパンが、盗みに乗り気でなかったのも致し方ないことなのかもしれない。そして今回もルパンが最後に盗むものは「女の子の心」である(多少アレンジされてはいるが)。

さて、泣いても笑っても今夜が最終回の『ルパン三世』は「世界解剖 後編」。ルパンは無事にレベッカの人格を盗み出すことができるのか? ダ・ヴィンチとの決着は? チャンネルは決まったぜ。
(大山くまお)