12段階でわかる「アイドルハマりレベル」『50代からのアイドル入門』

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52歳で道重さゆみに出会い、アイドルにハマり、アイドルオタクへの道を爆走する──『50代からのアイドル入門』はそんな一冊だ。
著者は大森望。SF&ミステリなどのジャンル小説読者にとってはおなじみの、翻訳家・書評家である。1961年生まれの立派な「おっさん」の大森が、ピンクのオタTを着てピンクの光る棒(おそらく道重卒業記念オリジナルペンライト)を持ち、どーん!と表紙を飾っている。


目次を紹介すれば、だいたいどんな本なのかわかる。

序章 「禿げ気味のみなさああん!」と、道重さゆみ(モーニング娘。)は言った。
第2章 「アイドルにはまってしまった40代男ですが、妻から離婚を言い渡されました」と、モノノフは言った。──周囲にあたたかく受け入れてもらうためのヒント
第3章 中年アイドルオタク12のステップ
第4章 いまどきライブアイドル事情、早わかり
第5章 「死んだら戒名つけてほしい」と、Zom氏(ハロオタ、62歳)は言った。──アイドルオタクの老後
第6章 「解散するから跳んでいいのか?」と神原統括P(アイドリング!!!)は言った。──ライブの作法
第7章 本とアイドル
第8章 ひとりで行く!アイドルコンサート
第9章 ファースト・コンタクトへの長い道──当節アイドル握手会事情
第10章 「生活にハリが出る」と、ユースケ・サンタマリアは言った。──アイドルオタクの生活と意見
第11章 アイドルコンサート当節チケット事情

章と章の間には、2014年から2015年にかけて大森が行ったアイドル現場(コンサートやフェスなど)のレポートが挟まっている。この一冊を読めば、いまのアイドルシーンやアイドルオタク事情がなんとなくわかるようになるはず。

あなたの今のレベルは? アイドルにハマる12ステップ


大森は第2章で、アイドルにハマっていくステップをこのように書いている。

1.たまたまテレビ(雑誌、新聞、ネット)で見かけたアイドルが気になる。
2.ネットで動画を検索して、推し(好きになったアイドル)の出ているPVやライブ映像をチェックする。
3 冠番組や過去の出演番組(もしくはネット上にある関連動画なら何でも)を片っ端からぜんぶ見る。
4.CD、ライブDVD、アイドル雑誌の特集号や関連書籍、写真集を過去に遡って買い漁る。
5.一般発売(チケットぴあやイープラス)で週末のホールコンサートのチケットを買い、ひとりでこっそり観に行く(ペンライトや双眼鏡を買う)。
6.物販列に並び、ツアーTシャツやマフラータオル、トートバッグ、生写真などを購入する。
7.ファンクラブに加入、先行予約でチケットをとり、まわりの人間を誘って現場に足しげく通いはじめる。
8.ちょっと離れたホールにも足を伸ばし、ライブハウスでの公演や対バン形式のライブ、アイドルフェスなどに通う。
9.リリイベ(新譜のリリースイベント)、特典会などの無料イベントに平日も並び、握手会、チェキ会、FCイベント、バースデーイベント(生誕祭)などに参加する。
10.地方公演に遠征しはじめ、ツアーの全日程または国内全公演を制覇する。
11.海外ツアーに参加する。
12.可処分所得と余暇のすべてをアイドルに注ぎ込み、正常な社会生活を送ることが困難になる。

エキレビ!の読者のみなさんは、今どこの段階だろうか? 大森はだいたい10のレベルなのだそう(私は5前後です)。
本書はコンセプトとしては1〜3の段階の人に向けて書かれているが、4〜6の人にとっては先輩の背中を見るような気持ちで、7〜12の人にとっては「こうやって周りをアイドルオタにオトしていけばいいのか」という参考書としても読めるだろう。

おっさんがアイドルにハマるメリットとは?


おっさんがアイドルにハマることについて、大森は「現場には中高年がわりといるから臆することはない」「生活にハリが出る」などと書いている。本レビューではさらに、「おっさんがアイドルにハマるメリット」について考えてみたい(なお、これはおっさんだけではなくおばさんにも当てはまるが、おっさんのほうがより当てはまりやすい)。

1.若い時よりも経済的に余裕がある傾向があるので、行きやすい&集めやすい
アイドルオタをやるには、それなりにお金がかかる。Youtubeの公式動画やテレビ番組などを見るだけでもファンはファンだが、現場に通うことにすればチケット代や交通費やグッズ代などがじわじわかかってくる。大森の平均予算は4万円/月。
もちろん個人差はあるが、やはり20代よりもおっさんの方がお金を持っている傾向がある。また50代や60代で所帯持ちの場合、いちばん子どもにお金がかかる時期からは脱し、少し家計やおこづかいに余裕が出てくるころ……かもしれない。
お金があれば関連書籍や関連映像を集めやすいし、現場にも行きやすい。ハマって抜け出せなくなる速度が違ってくる。

2.友達ができる
多くのおっさんは、おっさんになると友達が減っている。特にサラリーマンだと、会社の人は「ライバル」や「仕事仲間」で、「友達」と言えば学生時代の友人たち……となっている人も多い。
そこでアイドルである。TwitterなどのSNSでオタ仲間ができるし、オフ会などに参加すればリアルでも顔見知りになれる。新譜発売やコンサートのあとの感想戦はめちゃくちゃ楽しい。

3.趣味ができる
がんばって仕事に励んでいると、いつのまにか趣味と呼べるものがなくなっていることがある。その結果、定年退職後に時間を持てあましてしまう男性は多い(2000年のNHKの調査では、70代男性のテレビ視聴時間は1日に5.35時間と、60〜70年代の男女の中で最も多い結果が出ている)。
同じテレビを見るでも、時間つぶしになんとなく見るのではなく、「このアイドルを見たい!」という能動的な気持ちがあったほうがいいはずだ。趣味ができれば、日々の生活に潤いが出る。

AKB48グループ、乃木坂46、ハロープロジェクト、ももいろクローバーZをはじめとして、アイドルは世の中に3000人以上いる。その中からひとつでも「推しグループ」を、そして輝く「推しアイドル」を見つけることができれば、ときどきつらいこともあるけれど、基本的に最高に楽しい日々が待っている。

大森望『50代からのアイドル入門』(本の雑誌社)

(青柳美帆子)