映画版「ドラえもん」が遂に蘇った「新・のび太の日本誕生」はリメイクの理想型だ、泣いた

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リメイク版ドラえもん映画は感動させすぎ!


毎年恒例・春のドラえもん映画が公開された。

2005年に大山のぶ代さんをはじめとする旧・声優陣から、水田わさびさんたち新・声優陣に交代して以降の映画シリーズは、オリジナル作品と旧作のリメイクが半々くらいのペースで製作されているが、今年は後者。

1989年に公開された「のび太の日本誕生」のリメイク版「新・のび太の日本誕生」なのだ。


原作者である藤子・F・不二雄先生が亡くなって以降、原作ナシのオリジナル映画の方は、天才的ストーリーテラー・F先生を欠いた状態での映画制作に毎回苦労している様子。

F先生が亡くなった直後あたりの……正直、グズグズな映画ばっかりだった時期から比べると、最近はだいぶマシになっているものの、それでもまだまだF先生の作りあげてきた作品のクオリティには届いていないというのが、毎年欠かさずドラえもん映画を見続けているボクの実感。

一方、F先生の原作を使用したリメイクは、ストーリー完成度の高さが保証されているから安心! ……というわけでもないのが悲しいところ。

もちろん、ドラえもん映画は子どもたちのもの。おっさんのノスタルジーのために作られるべきではないので、原作そのまんま、旧・映画版そのまんまで作って欲しいといってるわけではない。

ただ、原作にアレンジを加えるにあたって、ピクサーアニメなどでありがちな、過剰な「感動させてやろう」要素を詰め込みすぎている感じがするのだ。

「感動」させるため、とってつけたような新設定や、新キャラクターをムリヤリ突っ込んで、観客の涙を強奪するような映画。確かに泣けるは泣けるんだけど……、別に泣ければいい映画ってわけじゃないからね!

ドラえもん映画って、日常をちょっと飛び出したドキドキワクワクの大冒険こそが勘所。F先生は、その中にポロッと感動シーンをはさみ込むさじ加減が絶妙だったのに!

シリーズ最高の観客動員数を記録した旧・映画版


今年のリメイク版「新・のび太の日本誕生」の原型となる旧・映画版「のび太の日本誕生」は、ドラえもん映画第10作目。藤子・F・不二雄先生が原作・脚本に加え、制作総指揮をはじめてとった記念碑的な映画だった。

「のび太の日本誕生」を執筆していた頃のF先生といえば、1986年に胃がんで入院。1987年に「藤子不二雄」のコンビ解消。1988年の映画「のび太のパラレル西遊記」は体調不良で入院していたため原作漫画は描かれていない。

1989年の「のび太の日本誕生」はある意味、藤子・F・不二雄の第1作目にして復帰作。F先生にとっても気合いの入った作品だったのではないだろうか。

それまで恐竜、宇宙、海底、魔界……等々、様々な世界を冒険してきたドラえもんたちが、「のび太の日本誕生」では、タイトルの通り「日本人誕生」「人類の歴史」という壮大なテーマに踏み込んでいる。

のび太たちが家出を計画するものの、現代には自由に使える土地がどこにもない……ということで、まだ誰も住んでいない7万年前の日本に行き、自分たちだけのパラダイスを作ろうとする。

やがて、古代中国に住んでいたヒカリ族の少年と出会い、ヒカリ族と対立するクラヤミ族、さらに謎のまじない師「ギガゾンビ」と戦うことに。

原始人たちにとっては絶望的なほどに強大な力を持つ「ギガゾンビ」とそのしもべ「ツチダマ」に、ドラえもん&のび太たちも絶体絶命の状況に追い詰められて……。

数あるドラえもん映画の悪者の中でもクソ怖度最高レベルの「ギガゾンビ」に、予告編だけでもゾワゾワさせられ、本編を見たらトラウマもの。子ども時代に観て、印象に強く残っている人も多いだろう。

結果、旧・映画版はシリーズ最高となる観客動員数420万人を記録した名作なのだ。

「新・のび太の日本誕生」はリメイクの理想型だ


それでは今年の「新・のび太の日本誕生」はどうなのかというと……メチャクチャよかった!

もちろん、原作の持つパワーも大きいのだが、アレンジっぷりも絶妙だった。

リメイク版「新・のび太の日本誕生」の脚本・監督を務めたのは八鍬新之介監督。

テレビアニメ版「ドラえもん」(声優交代以降)や、藤子・F・不二雄ミュージアムで上映されているオリジナル映像の演出をしてきた人で、2014年の、これまたリメイク版「新・のび太の大魔境〜ペコと5人の探検隊〜」で映画初監督を務めている。

「新・のび太の大魔境」は、過剰なお涙ちょうだいアレンジを加えていたそれまでのリメイク作と比べると、かなりアレンジを抑えた原作を大事にしたリメイクで、特におっさん層には好評だった。

そして今回の「新・のび太の日本誕生」でも「新・のび太の大魔境」と同様、原作を重視しているのだが、その上で、かなり大胆なアレンジも加わっている。

たとえば旧・映画版でペット作りを頼まれたのび太は、犬や猫ではなく、ペガサスやグリフィン、ドラゴンといった幻想動物を作るのだが、「なんでいきなりペガサス!?」と唐突な感じは否めなかった。

その辺を今回のリメイク版では、ちゃんと事前に伏線を張って自然に展開させていたりする。

他にも、終盤にご都合主義的に出てきたあるアイテムを序盤にさりげなく登場させていたり、原作を補完するような形で丁寧にアレンジを加えて、原作の持っていたテーマに深みを持たせているのだ。

そして物語終盤には、正直「えーっ、そこ変えちゃうんだ!?」と驚いたくらい、かなり重大なストーリー改変が……。

結末にも直結する大事なシーンなのだが、そこを変えたおかげで、現代からやってきたドラえもんたちと、原始時代を支配しようとしている「ギガゾンビ」という対立軸に新たな意味づけが加わり、F先生の伝えたかったであろうテーマを、より多重的に見せることにも成功している。

ある意味、リメイクの理想型といえるのではないだろうか。

次はオリジナル作品に期待!


これまでのリメイク版は、ハデな戦闘シーンや、号泣必至のベタな感動シーンの追加ばかりが目について、肝心なF先生のテーマがボンヤリしてしまっていた感があった。

古い映画を現代っぽくハデな感じにアレンジするのがリメイクではない。残された原作を、F先生の意図をくみ取りつつ再構築し、より深みを持たせた形でもう一度作り直す……。そんなリメイク版を期待しているのだ。

今回の「新・のび太の日本誕生」は、少なくともF先生が亡くなって以降のドラえもん映画の中では最高傑作だと思うし、旧・映画版を含めてもかなり上位入りしそうな傑作。

「心を折らずに毎年ドラえもん映画を見続けてきてよかったわー!」と思える作品だった。

「声優も絵も変わってるし……」と、映画館から足が遠のいている、かつてのドラえもん好きにこそ、見に行ってもらいたい。

しかし、これだけのナイスなリメイク版を見せられると、次に見たくなってくるのが、F先生の原作を超えるようなオリジナルの新作。

八鍬監督をはじめ、新世代のスタッフたちによるオリジナル作品に期待したい!
(北村ヂン)