まもなく節分。日本中のあちこちで「鬼はそと!福はうち!」という掛け声とともに、数え切れないほどの鬼が豆をぶつけられ、家から追い出されることだろう。そんな鬼の皆さんに朗報!

岐阜の山里には、節分の主役は鬼という地域があり、なんと掛け声も「鬼はうち!」。「福鬼まつり」では、鬼と一緒に総踊りをして盛りあがるという。一体どんな祭りなのか。

巨大な岩が圧巻の「鬼岩」にはかつて鬼が…


岐阜県御嵩(みたけ)町。かつて亜炭鉱の町として栄えた町の外れ、瑞浪市との境に「鬼岩」という場所がある。想像を絶する巨大な岩がダイナミックに連なる大迫力の景勝地。岩の巨大さには凄味を感じるが、情緒あふれる旅館が建ち並び、天然温泉で日帰り入浴もでき、風情さえ感じる。一体どこが鬼なのか。


穏やかな表情の鬼の顔に導かれ、数千年という時間が作り上げた、風雪に洗われた花崗岩の巨岩怪石を見ながら、散策コースを歩くこと15分。


大きな岩の隙間に「岩屋入口」の文字。ここにかつて「鬼人」が棲んでいたのだ。


817年前、この岩山に「関の太郎」という男が暮らしていた。とにかく乱暴物で、食べ物や金を奪い、人妻でさえさらって行くので、村人は鬼人と呼んで恐れていた。困り果てた村人は領主に陳情。後白河法皇の命によって、鬼人は討首に。それ以来、この地は鬼岩と呼ばれるようになった。



鬼は守護神として生まれ変わる


言い伝えには続きがある。鬼人の首を祀った首塚、その塚が緑で覆われている限りは、御嵩は穏やかになり、村人は平穏な暮らしをし続けることができると伝えられており、現在も首塚は立派に祀られている。

そんな鬼人が年に一度、福鬼としてよみがえり、鬼の力で厄を払って福を招くのが福鬼まつり。当日はたくさんの鬼が登場し、例年多くの人で賑わう。盛りあがる一方で、悲鳴も絶えないという……。お祭りの見どころを「鬼岩温泉いわみ亭」のご主人で、鬼岩観光協会の吉田会長にお聞きした。



「絶対に泣きますよ」


今年は2月7日(日)に行われる福鬼まつり、どんな内容ですか?

「まずは、福鬼神事に福豆まきですね。やぐらの上から豆を撒くのですが、もちろん掛け声は『鬼はうち、福はうち』豆まきを鬼たちが見守る形になります」

「そして、鬼たちによる太鼓演奏と鬼の舞。子どもたちも鬼と一緒に太鼓を叩いたりして、鬼とのふれあいもできます。ただし、これはもう絶対ですが、幼稚園児よりも小さなお子さんは、泣きます。でも、鬼を見て泣くということが、大切だと思うのです」


鬼を見て泣くことが大切とは?

「最近では、コマーシャルでも鬼のイメージが『結構かわいい奴』だったり、親しみやすくなりましたけど、やっぱり子どもにとっては怖い存在であり続けていて、鬼から電話がかかってくることで、子どもが言うことを聞くようになるアプリもありますよね」

ありますね。効き目があるってことは、鬼は今も子どもにとって怖い存在なのですね。

「そういう体験って、のちに大きな影響を与えると思うのです。ちゃんとやっていないと、何か怖いことが起きる。バレないと思って隠れて悪いことをやっても、必ず罰が当たる。その意識が心のどこかにあれば、道を外れたことをする大人にはならないのではないかと」

ここ最近の事件が思い出されてしまいますね……。

「誰もが持っている心の奥に潜む悪い心、それが鬼なのです。確かに鬼は怖い存在です。時に人生を破滅させます。自分のなかにある鬼をコントロールすることが、自分自身に福を招くことになる。鬼が福を招くとはそういうことなのです」

人間は、自分の心のなかにいる鬼からは逃れられない。鬼を外に追い出すことは不可能。だからこそ、「鬼はうち、福はうち」鬼と共存し、楽しく過ごすことが福を招くわけだ。


鬼と一緒に総踊り


祭りでは、幼稚園児によるマーチングバンドや、ビンゴ大会、ぜんざい無料配布などのほか、注目は「バサラ踊り」。鬼岩を舞台にした恋物語を歌った「おにいわ育ち」を現代風にアレンジした曲に乗せて、県内外から集まった老若男女幅広いグループが、鬼を前に踊りを披露する。毎年、総踊りは大いに盛り上がり、鬼たちはその様子を見て再び鬼岩へと帰り、守護神となって、また一年村人たちは平穏に暮らせる。

一方、近隣の可児市には、桃太郎に攻めこまれた「鬼が島」もあり、また別の物語が言い伝えられている。


この地域には鬼にまつわる伝説がいくつかあり、鬼の名所をはしごするというのも一興。


たまには、鬼が主役の節分を、岐阜の山里で過ごしてみてはいかがだろうか。自分自身の心のなかにある「鬼」と向き合うためにも。
(川合登志和)