韓国メディアから最も警戒される久保。五輪出場を決めたイラク戦後から優勝への意欲を誰よりも見せていただけに、爆発が期待される。写真:佐藤 明(サッカーダイジェスト写真部)

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 ともにリオデジャネイロ五輪出場権を獲得したなかで、U-23アジア選手権の決勝を戦うことになった日本と韓国。最大の目標を達成し、勝敗は大きな意味を持たないかもしれないが、“宿命のライバル対決”だけにそうはいかない。韓国メディアも“運命と覚悟の韓日戦”と位置づけ、連日のようにその展望記事を掲載している。
 
 例えば『スポーツQ』は、「低評価された韓国と日本の“陰の世代”」と題し、今大会に臨んだ両チームがともに期待薄だったことを伝えている。スター不在で“最弱世代”と言われた手倉森ジャパンだが、シン・テヨン監督率いる韓国も過去との比較から“史上最弱の五輪代表”“コルチャギ(谷間)世代”などと言われていた。そんなこともあって、『スポーツ・ソウル』紙は「似たもの同士の決勝戦」と報じている。
 
 ただ、両国のスタイルは異なると見る。
 
「攻撃の韓国vs守りの日本、槍と盾の対決」と展望するのは通信社『聯合ニュース』だ。4-1-4-1、4-2-3-1、4-4-2などを使い分けて攻撃サッカーを展開する韓国のシン・テヨン監督に対し、日本の手倉森監督は守備的MFを2枚配置する守備的戦術だと分析。
 
 日本が喫した2失点がPKとCKからだったことから「4バックの組織力が強く、フィールドプレーから一度も失点していない。鈴木武蔵は出場が微妙で久保もベストコンディションではないことを考慮すると、いつもよりさらに守備を厚く逆襲を狙う戦術で臨んでくる可能性が高い」と見ている。
 
 シン・テヨン監督も韓国メディアとのインタビューで、「今大会の日本は守るサッカーをしながらカウンターアタックをしてくる」と語っており、『スポーツ朝鮮』も「日本の五輪号、これまでの日本サッカーの色合いとは違う」という分析をしている。
 
「日本サッカーの象徴はきめ細かなパスゲームだった。しかし、今回は違う。占有率よりも、いかに素早く前線にボールを運べるかに焦点を合わせている。精密さは落ちるが、スピードは速い」(『スポーツ朝鮮』)
 
 また、『イルガン・スポーツ』は「得点ルート、集中力、ミドルと3拍子が揃った日本」と分析している。その内容を要約すると、次のようなものだ。
 
「韓国と同じ12得点でも決めたのは9名(韓国は5名)。つまり、攻撃ルートが多様で全員が得点できる」
「12得点中6得点が後半30分以降に決まったもので集中力が切れない」
「実力差があったタイ戦での4得点を除けば半分以上の得点がミドルシュート」
 
 ネットメディア『OSEN』は、「攻撃と守備のバランスは大会参加国中最高だ」とも評している。
 
 そんな韓国メディアが警戒すべき日本の選手として挙げているのは、「シャドーストライカータイプで、スピードがありスペースへの侵入に長けた久保裕也、パワーよりもスピードに優れたオナイウ阿道、身体は小さいが個人技とパスセンスに秀でた典型的な日本人攻撃的MFの中島翔哉」(『スポーツ朝鮮』)などで、そのなかでも最も久保の名前が多く出てくる。
 
「クォン・チャンフンVS久保裕也、2列目攻撃手の激突」のタイトルで試合を展望する『スポーツ・ソウル』も久保のことをこう評している。
「3得点を挙げている久保は、トップ下の位置からスピードのある飛び出しと個人技で、日本のカウンター戦術の威力を高めている」
 
『スポーツ・ソウル』紙はその一方で日本の弱点を指摘することも忘れていない。
「日本の守備陣は攻撃参加が多くない。また、イラク戦では相手の積極的なプレッシングとパワフルなフィジカルコタンクトに慌て、日本らしいパス回しを生かせなかった。守備力がありフィジカルが強いMFの比重を高めて中盤での球際の攻防を強化し、圧迫の強度を高めれば、日本の力を削ぐことができる。さらに後半から機動力のある選手を投入すれば、ゴールを生み出せるだろう」としている。
 
『スポーツ朝鮮』も同様の見解だ。
「日本は速いがフィジカルコンタクトに弱い姿を見せている。果敢なプレスで事前にボールの出所を遮断し、サイドに回されたボールに備えれば、日本の攻撃の半分以上は防げるだろう」と、韓国に十分勝算ありと見ているようだ。
 
 ちなみにシン・テヨン監督は準決勝のカタール戦では、結果を得るために守備に重点を置いた3-4-3で挑み勝利した。それを受けて「日本戦もシン・テヨン式“勝つサッカー”で」(『NEWSIS』)という声も多い。負けられないライバル対決で、策士シン・テヨン監督がどんな采配に打って出るかにも、注目したい。
 
文:慎 武宏(スポーツライター)