2015年12月に新型の発売を予定するトヨタの「プリウス」。その新型モデルの内容が10月13日に発表された。新しいプリウスはどのように変わるのか? モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がレポートする。

国内で初披露された新しいプリウスの概要が判明した。そこから読み取れる情報からその狙いや走りなどを予測してみた

トヨタの新しいクルマづくり革新の第1弾モデル

12月に発売するクルマを、2か月も前に内容を説明する。そんな異例さに、4代目新型「プリウス」にかけるトヨタの意気込みの強さが見える。なぜなら、トヨタにとって、この新しいプリウスは、ただのフルモデルチェンジではない。トヨタ社長の豊田章男氏が主導する「もっといいクルマづくり」活動の第1弾という意味合いがあるからだ。

トヨタは、2015年3月に「経営を取り巻く環境が激変する中で、もはや、これまでと同じ考え方や仕事の仕方では、持続的な成長は望めない」と、クルマ作りを見直す活動に取り組んでいると発表した。それが「もっといいクルマづくり」活動であり、技術的なコアが「TNGA(Toyota New Global Architecture)」だ。簡単に言ってしまえば、基本となるパワートレインとプラットフォームを開発し、それを幅広いモデルに利用すること。フォルクスワーゲンでいうMQBであるし、マツダのスカイアクティブ・テクノロジーも同様だ。車種ごとに分散するのではなく、集中して開発できる分、よいものが安くできる。ただし、幅広い車種を扱うトヨタはひとつではなく、FFのミディアム、FFコンパクト、FFラージ、FRのプラットフォームを開発するという。それでも2020年頃までに、全世界の販売台数の半数がTNGAから生まれる新しいモデルになるという。そんな全社的な取り組みの第1弾がプリウスである。力が入るのも当然のことだろう。

クルマの基本骨格をモジュール化する「TNGA」。それを採用する最初の市販車が新しいプリウスだ

クルマの基本骨格をモジュール化する「TNGA」。それを採用する最初の市販車が新しいプリウスだ

低く構えたスタイルと斬新な前後のランプデザインが特徴のエクステリア

新しいプリウスの最大の特徴は、そのルックスにあると言っていいだろう。全長が60mm、全幅が15mm拡大したのに対して、全高は20mm低くなった。20mmのダウンはわずかな数字だが、現車を前にすると、さらに低く感じる。フロントのノーズ先でいえば、先代よりも70mmも下がっている。また、ボディサイドを走るキャラクターラインは前傾しており、その位置も低い。乗り込むと、さらに低いという印象が強くなる。ヒップポイントは59mmもダウン。まるでスポーツセダンのよう。つり上がった目のようなヘッドライトも、リヤのコンビランプも斬新な造形。まさに垢抜けたと呼ぶような変化だ。

全高で20mm低くなったが、現車を目の当たりにするとさらに低く感じられるプロポーション

全高で20mm低くなったが、現車を目の当たりにするとさらに低く感じられるプロポーション

リアのコンビネーションライトのデザインも斬新で、見る人に強い印象を残す

リアのコンビネーションライトのデザインも斬新で、見る人に強い印象を残す

新プラットフォームのボディ剛性は従来比で60%もアップした。リヤサスペンションは、先代のトーションビーム式からポテンシャルの高いダブルウィッシュボーン式に変更。重心も下げられたというから、走りの進化も期待できそうだ。また、ダブルウィッシュボーン式サスペンションの左右の間にモーターを備えることで、電気式の4WDを実現。新型モデルでは、プリウス初の4WDモデルがラインナップされる。

また、二次電池の搭載場所をトランク下から後席下に移動。これでトランクの容量を56リッター拡大。ちなみに、乗員の座る位置を59mm下げたのに対して、全高ダウンが20mmだけなので、乗員の頭上空間は21mm広くなっている。

インテリアは、従来同様に先進性を強く感じさせるもの。センターメーターも先代モデル同様。青く付き出たシフトノブも先代モデルを彷彿させる。

リアサスペンションが、トーションビーム式から、剛性が高いダブルウィッシュボーン式に変更された

リアサスペンションが、トーションビーム式から、剛性が高いダブルウィッシュボーン式に変更された

バッテリーの搭載位置もトランク下から後席下に移動。荷室容量が広がった

バッテリーの搭載位置もトランク下から後席下に移動。荷室容量が広がった

先進的なデザインのセンターメーター。未来のクルマらしさを盛り上げてくれる

先進的なデザインのセンターメーター。未来のクルマらしさを盛り上げてくれる

従来比約120%の40km/lを達成した新パワートレイン

ハイブリッド方式の仕組みは従来のまま。駆動用モーターと発電用モーターという2つのモーターとエンジンを遊星ギヤの動力分割機構でつなぐ。ただし、モーターもエンジンも動力分割機構を納めるトランスアクスルも電池もパワーコントロールユニットもすべてが新しくなった。その結果、燃費性能は、従来モデルの32.6km/lから約20%アップとなる40km/lを達成するという。

1.8リッターの2ZR-FXEエンジンはハイブリッド車専用として開発することで、エンジン最大熱効率40%を達成。クラスでいえば世界トップレベルだ。スペックは最高出力72kW(98馬力)/5200rpm、最大トルク142Nm/3600rpm。モーターは、巻き線方式を新しくすることで、出力はそのままに小型化した。ハイブリッドの要となるトランスアクスルは、モーターの配置変えつつ、リダクション機構もプラネタリーギアから平行軸歯車に変更。部品点数を減らすことで小型化と摩擦抵抗を減らした。パワーコントロールユニットは、シリコンタイプの新しいパワー半導体素子を採用して新設計。モーター、トランスアクスル、パワーコントロールユニットは、すべてが小型化し、それぞれ約20%の損失低減を実現している。

また、二次電池はリチウムイオン電池とニッケル水素電池を採用。どちらも新設計であり、従来型よりも小型軽量化している。電池が2種類あるのは、他モデルにも電池の利用を広げるという狙いがあり、先行するプリウスで開発を進めたというのがトヨタ的な理由だという。ちなみに、電池としての性能は、どちらも同じくらいに設定されている。それでも、重量面ではリチウムイオン電池が軽く、使用温度環境ではニッケル水素電池の方が寒さに強いという。予想の範囲だが、燃費を求めるグレードにリチウムイオン電池、寒冷地向けモデルにニッケル水素電池が搭載されるのではないだろうか。

ちなみに、燃費向上はパワートレインだけでなく、車体の貢献もある。今回のプリウスはCD値0.24というすぐれた空力性能を備える。また、走行状態がエンジンの温度状況に合わせて開閉するシャッターをフロントグリル内に搭載。シャッターを閉じることで空力性能がアップするのだ。

1.8リッターの2ZR-FXEエンジンは熱効率で40%を越えており、世界でもトップレベルの効率を実現している

1.8リッターの2ZR-FXEエンジンは熱効率で40%を越えており、世界でもトップレベルの効率を実現している

出力はそのままだが、巻き線を最適化することでモーターが小型化されている

出力はそのままだが、巻き線を最適化することでモーターが小型化されている

トランスアクスルは、モーターの配置変えつつ、リダクション機構もプラネタリーギアから平行軸歯車に変更された

リチウムイオンバッテリーは、重量にすぐれる

リチウムイオンバッテリーは、重量にすぐれる

ニッケル水素電池は、重量では不利だが、低温に強く寒冷地仕様車に搭載されそうだ

ニッケル水素電池は、重量では不利だが、低温に強く寒冷地仕様車に搭載されそうだ

CD値0.24というすぐれた空力特性を備えたボディ。もちろん燃費に有利だ

CD値0.24というすぐれた空力特性を備えたボディ。もちろん燃費に有利だ

従来型と比較した新型プリウスの燃費貢献を要素ごとにグラフ化。トータルで40km/lの燃費を達成した

従来型と比較した新型プリウスの燃費貢献を要素ごとにグラフ化。トータルで40km/lの燃費を達成した

運転支援システムも最新モデルならではの充実度

運転支援システムとしてはミリ波レーダーと単眼カメラを組みあわせた「トヨタ・セーフティ・センスP」を採用。歩行者検知機能付きの衝突被害軽減自動ブレーキである「プリクラッシュ・セーフティ・システム」、車線逸脱防止の「レーンデパーチャー・アラート」、全車速追従機能の「レーダー・クルーズ・コントロール」、ハイビームとロービームを自動で切り変える「オートマチック・ハイビーム」という4種類の機能が備わっている。

それ以外にも、車両斜め後方の死角をモニターする「ブランド・スポット・モニター」、低速時の車庫入れなどでの車両の接触回避に役立つ「インテリジェント・クリアランスソナー」、自動で駐車のステアリング操作を行う「シンプル・インテリジェント・パーキング・アシスト」といった機能も用意された。

さらにクルマと道路、クルマとクルマの間で通信を行って、運転支援を行う「ITSコネクト」を採用。これは「クラウン」に次いで、トヨタ車として2番目の採用となる。路車間通信では、交差点での右折時に、対向直進車や歩行者の存在を通知。ドライバーが対向車や歩行者を見落として進もうとすると警告を発する。ただし、こうした通信機能を備えた交差点は、まだ東京都と愛知県に20ほどあるだけ。来年は50以上になる予定で、今後、順次拡大されるという。また、クルマとクルマの通信機能も備わっており、これを使うと、前走者にぴったりと速度をあわせたスムーズな追従走行が可能になる。ルックスはスポーティ。室内も広くなり、燃費性能も40km/lに届いた。さらに先進の運転支援システムも搭載。4代目となる新型プリウスの内容を見ると、燃費や内容的にも確実にステップアップしたことがわかる。そうなると、残る疑問は、実際の走りだ。

大型のセンタースクリーンとメーターという基本デザインを継承。クリーンで端正な造形だ

大型のセンタースクリーンとメーターという基本デザインを継承。クリーンで端正な造形だ

フロントシートは、バネ特性の最適化し、負担が少ない骨盤角度を実現している

フロントシートは、バネ特性の最適化し、負担が少ない骨盤角度を実現している

クッション性の最適化や着座時の接触面積を拡大させ、より座りやすくなったリアシート

クッション性の最適化や着座時の接触面積を拡大させ、より座りやすくなったリアシート

これまでのプリウスは、「燃費は最高だが、運転のフィーリングがよくない」という声があった。エンジンとモーターを最も効率よいところで使うため、加速中なのにエンジン音が小さくなったりすることもあり、アクセル操作に対して加速感がリニアでないという印象もぬぐえない。ブレーキもリコール騒ぎがあったように、そのフィールは褒められたものではない。しかし、新型モデルは、どうであろうか? 高剛性のボディや低重心化、リヤのダブルウィッシュボーン式サスペンションの採用など、走行性能向上を期待できるものを数多く採用している。また、発表会での質疑応答で開発者から「走りのフィーリングも向上させています」という説明も。もしも、それが本当ならば、プリウスは相当によいクルマになるだろう。また、これがトヨタの進める「もっといいクルマづくり」活動の効果であれば、今後のほかのトヨタ車にも期待が持てる。これは、ハンドルを握る日が楽しみで仕方ない。


>> 12月発売の新型「プリウス」を見てきた! 狙いや走りはどう変わる? の元記事はこちら