関東一、打って走って5年ぶりの夏甲子園

 球場全体がサウナのような蒸し暑さの中で行われた決勝戦は、第1シードの関東一とノーシードから勝ち上がってきた日大豊山の対戦になった。試合のカギを握るのは2日前の準決勝で、170球を投げた日大豊山の大黒柱・吉村 貢司郎が、関東一の強力打線をいかに抑えることができるかだ。しかし、初回から関東一の猛攻が始まる。

 1回裏関東一の攻撃。日大豊山の吉村は、最速143キロを記録しており、球速は普段と変わらない。けれども、関東一にはなかなか通用しない。1番オコエ 瑠偉は一、二塁間を破る右前安打。2番井橋 俊貴が送り、3番伊藤 雅人の右中間を破る二塁打にオコエはスタートがやや遅れたが、一気に加速してホームイン。5番長嶋 亮磨の三塁線を破る二塁打で伊藤が生還。関東一は、吉村の変化球甘く入ったところを見逃さない。7番五十嵐 滉希の中前安打で長嶋も生還し、いきなり3点を入れる。

 2回裏、2番井橋のごく普通の中前安打にもかかわらず、井橋は俊足を飛ばして二塁を陥れ、二塁打とする。そして森山の中前安打で井橋は生還する。

 ほんのわずかなスキを見逃さない、積極的な走塁は、日大豊山にはかなりの脅威だ。4回裏には、先頭の1番オコエが普通の中前安打を放つが、中堅手の守備位置が深いとみるや二塁に進み、二塁打となる。続く井橋は内野安打で出塁し、今大会当たっている3番伊藤がレフトポール近くのフェンスに当たる三塁打で2者生還。5番長嶋は遊ゴロ。伊藤は本塁へ突っ込んだところ、本塁上でクロスプレー。それが捕手の走塁妨害を取られ、伊藤も生還した。その後、四球が続いたことから吉村が降板し、もう一人の好投手である大浜 永遠が登板した。大浜は最初の打者である黒田 駿汰を二ゴロに打ち取るが、長嶋が生還し、この回4点を入れ、勝負を決した。

 関東一の先発は、背番号10ながらエース格の左腕。阿部 武士。阿部は大量リードにも守られ、落ち着いた投球。5回表に今大会、打撃も好調の吉村の二塁打などで日大豊山は一死一、三塁のチャンスを作るが、後続を打ち取られ得点できない。

 6回表に関東一はマウンドに背番号1の右腕・田邉 廉を送る。その立ち上がり1番・大井 健次郎が中前安打で出塁。4番稲垣 航聖への四球で一、二塁とし、吉村の右前安打で大井が生還した。吉村は4回途中に降板し、左翼手になっていたが、打撃の方は相変わらず好調だ。

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 それでも関東一は7回に2点、8回にも伊藤、長嶋の三塁打などで4点を挙げ、トータル14点。

 9回表関東一の投手は、今大会好投してきた左の横手投げ、小松原 健吾に交代。小松原は相川 直輝の中前安打、秋庭 蓮の中前安打などで1点を失うも、二死後、1番大井を遊ゴロに仕留め、試合終了。14対2と関東一が圧勝し、5年ぶり6回目の夏の甲子園出場を決めた。

 関東一は、上位から下位まで切れ目のない打線に加え、この試合でも、井橋、オコエがみせたように、単打を二塁打にするような、一瞬のスキを見逃さない野球をする。ただ、オコエ、伊藤、五十嵐ら、個性の強い選手が集まったこのチームは、チーム結成間もない秋季大会では、「俺が俺が」が目立ち、チームとしてのまとまりを欠いた。それでも主将の伊藤、副将の鈴木 大智、黒田 駿汰らを中心にチームをまとめ、少しずつ大人のチームになったように思う。甲子園でも、選手の個性は生かしつつ、チーム一丸となって躍動してほしい。

 敗れた日大豊山は、吉村、大浜という前のチームから活躍している投手を擁し、期待されていたが、秋は1次予選で敗退し、春も都大会の1回戦(試合レポート)で都立日野に0対9のコールド負けを喫するなど、結果を出せないでいた。そうした中、この夏、チームは見事に実力を発揮した。中でも吉村は、打高投低の傾向が強い東東京において、きらりと光る存在であった。

 高校3年間といっても野球部で本格的に活動するのは、2年数か月。その中でも、良い時もあれば悪い時もある。中には壁に当たっている選手もいる。その壁を乗り越えた時、前より強い自分になっているはずだ。

 高校野球100年の夏はこれからが、クライマックスだ。しかし既に101年目に向けての戦いは始まっている。怪物1年生、早稲田実業の清宮 幸太郎に沸いた東京の暑い夏を受け、秋の戦いもまた激しいものになるであろう。

(文=大島 裕史)

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