早実8回の猛攻で大逆転、5年ぶり29回目の夏の甲子園

 1年の夏から出場し、昨年の秋からは投打二刀流として注目されてきた勝俣 翔貴擁する東海大菅生と、怪物1年生・清宮 幸太郎の入学以来、今まで以上に関心を集めてきた早稲田実業。西東京を代表する「怪物」が相まみえた決勝戦は、野球の怖さ、試合の流れの恐ろしさを改めて認識させる試合になった。

 試合開始の何時間も前から観客が続々と押し寄せ、観衆は2万8000人。それでなくても暑い神宮球場は、立ち見が出るほどの観客の熱気でさらに暑くなっていた。

 試合は、7回までは完全に東海大菅生のペースだった。2回表、この回の先頭である早稲田実業の4番加藤 雅樹の一塁線を襲う強烈なゴロを、守備がうまい江藤 勇治が好捕。もともとは遊撃手である江藤は、この大会肩を痛め、一塁手になっていたが、この時は、それが幸いした。

 3回裏東海大菅生は、先頭の8番齋藤 駿汰がうまく流して右前安打。9番杉本 蓮のバントは野選となり、1番の小川 貴広のバントで一死二、三塁。2番落合 宏紀の右前安打で東海大菅生が、まず先制。続く3番江藤のライトスタンドに入る3ラン本塁打で、この回4点が入った。

 6回には斎藤の左前安打で1点を追加し、5対0と完全に東海大菅生ペース。東海大菅生の先発は投打の中心であるエースの勝俣。勝俣は、前半やや飛ばし過ぎの感はあったし、6回で球数が100を超えるなど、やや多いのも確かである。ただそれは、いつもの勝俣のペースだとも言うことができる。とはいえ、優勝した秋季都大会などはそれで通じても、暑さと、1日おきの連戦が体力を奪う夏の大会は、今までのようにはいかない。そして運命の8回表、早稲田実業の攻撃を迎える。

 この回先頭の1番山田 淳平は遊撃手への内野安打。2番玉川 遼は左前安打。そして打席には、注目の清宮。清宮は二ゴロに倒れ、玉川は二塁でアウト。ただ、バウンドが高く、併殺にはならない。4番加藤には四球で満塁。早稲田実業の応援のボルテージは上がり、それが球場の大半を包むようになってくる。

 そして5番金子 銀佑の中前安打でまず1点を返す。さらに富田 直希の左前安打でまた1点。続くは前の回に代走で出場し、レフトを守っている今井 武。ここで今井は遊ゴロ。併殺コースであったが、今井は俊足で一塁はセーフで3点目。続く代打佐藤 純平は遊撃手への強烈なゴロ。これが内野安打となって4点目。9番渡辺 大地は四球で二死満塁。あと1つアウトを取ればチェンジになるが、それが難しい。打順は一巡して1番山田は四球で押し出し。ついに同点に追いついた。

 ここで東海大菅生は投手を勝俣から羽生 優太に交代。羽生は力のある投手であるが、この場面は、あまりに負担が大きかった。2番玉川にはストレートで四球の押し出しで、早稲田実業は逆転。ここで打席には清宮が入る。清宮は1ボールの後の2球目を右前安打。さらに加藤の四球、押し出しで、この回大量8点を入れ、試合を完全にひっくり返した。

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 東海大菅生は9回裏、二塁打の杉本を内野ゴロ二つで返し1点。さらに3番江藤 勇治は中前安打で出塁し、打席には、チームの大黒柱・4番の勝俣 翔貴を迎える。一発出れば同点という場面であったが、勝俣は中飛に倒れゲームセット。壮絶な試合は8対6で早稲田実業が逆転勝ちを収め、甲子園大会出場を決めた。

 優勝決定後のインタビューで和泉実監督は、大観衆の前で感極まった。「今までで一番苦しかった。本当に生徒に助けられました」と言い、「100年前の先輩にみせてあげたい」とも語った。

 高校野球100年の今年の開会式では、第1回大会に出場している早稲田実業は、復刻ユニホームも入場する。開幕の始球式は、同校の大先輩である王 貞治が務める。そして空前の清宮ブーム。今年は様々な風が早稲田実業に向かって吹いていた。しかしそれは、緊張にもつながった。

 王 貞治が高校3年の夏の東京大会の決勝戦で、延長12回に4点を入れ優勝はほとんど決まったと思われたが、その裏明治に5点を入れられ、逆転負けを喫したことがあった。試合時間が決められているフットボールやバスケットボールなどと違い、野球は1イニングで3つのアウトを取るまでは、相手側の攻撃は延々と続く。それが野球の面白さであり、怖さである。この日の早稲田実業の大逆転も、当事者の両校だけでなく、多くの高校球児が教訓としてほしい。

 投手力が弱いと言われ続けた早稲田実業だが、準決勝では松本 皓が3安打完封を演じるなど、復調の兆しはみせた。しかし決勝では松本は、4回で4失点しており、十分に信頼を回復したとは言い難い。ただ決勝戦で東海大菅生と決定的に違ったのは、早稲田実業の4人の投手の四死球が3であったのに対し、東海大菅生の3人の投手は10記録している。しかも、そのうちの5つは、8回表に集中している。安打数はともに10であっただけに、四死球の差が、そのまま点差になって表れた。

 また早稲田実業の投手陣は、準決勝、決勝戦と、多くの観客を集めた緊張の試合を投げ切った意味は大きい。全国大会までの期間は短いが、緊張感の中で得た経験を、甲子園の大舞台でも生かしてほしい。

 敗れた東海大菅生は、二刀流の勝俣を中心に、個性が光るユニークなチームだった。勝俣らはいなくなるが、投手陣の一角を担った伊藤 壮汰らは残るし、将来が楽しみな1年生も入ってきていると聞いている。昨年に続き、2年続けて決勝戦で負けた悔しさを、新チームの強さにつなげてほしい。

(文=大島 裕史)

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