苦闘制し「節目の年」の甲子園へ・鹿児島実

 雨による順延で大会が長引き、7月4日の開会式から丸3週間経ってようやく決勝戦を迎えた。台風12号の影響も懸念されたが、球場は快晴。灼熱の太陽が照りつけ、いかにも夏の決勝戦らしい雰囲気の中での頂上対決だった。

 決勝戦のカードは鹿児島実―鹿児島城西。どちらも県下では名の知れた強豪校であり、高校サッカーではお馴染みの顔合わせだが、夏の野球の決勝戦で対戦するのは意外にも初めてである。夏休みの土曜日ということもあって、大勢の観客が駆けつけた。 中でも一塁側の鹿児島実応援席は圧巻だった。準決勝・神村学園戦に続く2日連続の全校応援に加えて、OBや一般のファンと思われる人たちで一塁側は立錐の余地もないほど埋まった。このところ甲子園からは遠ざかっているが、鹿児島実の復活を待ち望む潜在的なファンの多さを物語っていた。

 先手を取ったのか鹿児島実だった。 2回、エラーと2つの四死球で二死満塁とし、1番・有村 健太(3年)が右中間を深々と破る低いライナーの打球で走者一掃三塁打を放ち、3点を先取した。

 有村は昨夏を経験した唯一のメンバーであり、春まで背番号1を背負うエースだったが、橋本 拓実(3年)が成長したことで、今大会は2桁の10を背負っている。「野球部訪問」で取材した際、「背番号は関係ない。橋本が投げているなら、自分は打ってチームに貢献したい」と話していたことを思い出した。今大会はリードオフマンで起用されながら、中々当たっていなかったのを払しょくする一撃でチームに流れをもたらした。

 ここで一気に鹿児島実が流れに乗るかと思われたが、直後の3回表に鹿児島城西も反撃する。 四球と内野安打で一死一二塁とし、3番・田中翔真(3年)が意表を突くセーフティーバントで満塁とチャンスを広げる。準々決勝、準決勝と貴重な打線を挙げている4番・石神聖貴(3年)のレフト前タイムリーで1点を返し、続く5番・辻亮吾(3年)は初球スクイズを決めて1点差に追い上げた。 1番・金城太輔(3年)、4番・石神が当たっている分、石神の前後を打つ田中と辻の働きが決勝のカギを握ると金城和彦監督が話していたように、田中と辻が打てないなりの仕事ぶりでチームに貢献し、鹿児島城西が盛り返した。

 鹿児島実・橋本、鹿児島城西・上原 幸真(3年)、準々決勝、準決勝の出来から予想すると、決勝も接戦になるかと思っていたが、さすがに真夏の連戦で両投手とも本来の出来ではない。点の取り合いになりそうなことを予感させた序盤だった。

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 鹿児島実は4回、二死二塁から遊ゴロの送球が打者走者と交錯し転々とする間に二走・最上敦也(3年)が生還し、4点目を奪った。6回に先頭打者がヒットで出塁したところで、金城監督は上原から、2番手・有川凌(2年)を送る。二死一三塁で痛恨のボーク。更に1番・有村がこの日4打点目となるタイムリーを放ち、貴重な中押し点を挙げた。7回表に1点返されたが、その裏には4四死球を足掛かりに8番・長谷部大器(3年)のライト前タイムリーでダメ押しの7点目を挙げ、点差を4に広げた。 毎回のように走者を出しながらも、橋本は踏ん張ってマウンドを死守していた。9回は簡単に一死をとり、代打・上村大希(1年)に死球を与えたが、3番・田中を三ゴロに打ち取って二死。このまま勝ち切るかと思われたが、鹿児島城西がここから執念の追い上げをみせる。

 好調の4番・石神がレフト前ヒットでつなぎ、5番・辻の打球は二塁後方へ。二塁手のグラブに一旦収まったかに思われたが、ボールがこぼれて外野を転々とする間に、二走・田中が生還して3点差とした。

 二死ながら一三塁。劣勢の展開が続いていた鹿児島城西の三塁側応援席が一気にボルテージが上がる。金城監督はここで代打・麻井一樹(3年)を送った。 カウント3ボール1ストライクから内角球を強振。打球はレフト線に抜ける長打コースの打球だ。三走・石神が生還し2点差。三塁コーチャーの原田塁主将(3年)の右手がグルグル回る。一走・辻は三塁を回るも、原田主将はストップのジェスチャー。中継のボールが三塁手・綿屋 樹(2年)のもとへ。辻が三本間に挟まれるかたちとなり、タッチアウト。激闘の締めくくりとしてはいささかあっけない感じもしたが、2点差で逃げ切り、鹿児島実が5年ぶりに夏の甲子園の切符を手にした。

 今年は高校野球が誕生して100年。鹿児島実は今年が学校創立100周年を迎える。そんな節目の年の鹿児島代表を、劇的な展開で勝ち取る。こんな外連味たっぷりな演出を現実にやってのけてしまうとことに、鹿児島実の底力、学校力をまざまざと感じさせてくれた決勝戦だった。

(文=政 純一郎)

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