北越vs新発田農

1点を争う好ゲームを制したのは…!?

　新発田農業は、初回、エース・西山 塁（3年）は3人でピシャリと抑えると、その裏、制球の定まらない北越先発の大塩 悠太郎（3年）を攻め、四球などで二死満塁のチャンスを迎える。だがここは大塩が踏ん張り、得点を許さない。

　すると2回、北越は先頭の田村 将太（3年）が、内野と外野の間に落ちるツーベースで出塁。バントで送ってチャンスを広げると、6番・佐藤築（3年）がレフト線を破るタイムリーツーベースを放ち、1点を先制する。

　北越は4回にも一死三塁のチャンスを迎えるが、新発田農業・西山の気迫あふれるピッチングに無得点。チャンスを生かせなかった北越はその裏、新発田農業に傾きかけた流れを断ち切るべく、エース・江村 伊吹（2年）を投入する。

　江村はランナーを許したものの後続を抑え、流れをたぐり寄せる。だが5回、新発田農業は江村を攻め、内野安打などで一死満塁のチャンスを迎える。ここで、江村は5番・杉山（3年）、6番・五十嵐英（3年）を抑え、最小得点差のまま試合は終盤へ。

　両エースの緊迫した投げ合いが続いた8回、北越は四球とヒットで一死一、三塁のチャンスを迎える。ここで3番・国松 脩人（3年）が犠飛を放ち、貴重な追加点を上げる。北越は9回にも、1番・山我 吉進（3年）のタイムリーツーベースなどで2点を追加。

　投げては江村が最後まで新発田農業打線に的を絞らせずに零封。4対0で北越がベスト8に進出した。

エキサイティングプレイヤー 江村 伊吹（北越・2年・投手）

「先輩たちが作ってきたこのチームが、ベスト8とか4で負けるなんて絶対にもったいない。言われればどこでも投げます。チームのために自分の力を発揮できれば」

　大会前、そんな殊勝なコメントを残したのは、2年生ながら背番号1を付ける江村 伊吹。

　9か月前、新潟県大会3位の実績を引っ提げ、北越は北信越大会に臨んだ。相手は春のセンバツにも出場した猛打が自慢の松商学園（長野）。序盤、投手陣が打ち込まれ、5回からの登板となった江村だったが、交代直後制球が定まらず、1点を失う。その後のイニングを0に抑え、終盤自慢の強力打線が奮起し、1点差まで追い上げるが、最終的には10対11で敗れてしまう。

「自分が与えた1点さえなければ…。身体が硬くなって、（新潟の球場とは異なる）マウンドに対応できなかった。本当に悔しい……。冬場はしっかりと下半身を鍛えて投球を安定させたい」

　試合終了直後、そう言って唇を噛みしめた江村。この反省から、江村は冬場、自らを律し、下半身を中心に徹底的に鍛えあげた。

　一冬越え、迎えた春の大会。体つきが一回り大きくなった江村だったが、「大一番」として先発した新潟県央工業戦（試合レポート）で悪夢が襲う。0対2と2点ビハインドで迎えた7回、自らのまずい守備からピンチを広げ、途中降板。変わった投手陣も打ちこまれこの回、5失点でまさかのコールド負けを喫した。

「自分でバント処理を焦って、そこからズルズルといってしまった。エースとして初めて臨んだ公式戦で、自分のせいで負けた。これ以上先輩たちに迷惑を掛けるわけにはいかない」夏の大会まで2か月。そこにはこれまで以上に目の色を変えて練習に取り組む江村の姿があった。そんなエースの変化に、指揮を執る小島監督も目を細めた。

　そして迎えたこの試合。序盤、制球の定まらない大塩 悠太郎をサポートすべく、2回からブルペンに入り準備をした。中でも、最も成長を感じさせたのは5回、一死満塁で勝負強い5番打者を迎えた場面。

　不運な内野安打などでピンチを迎え、今までだったら気持ちを切らして、大量得点につながってしまいかねない状況。だが江村は臆することなく、伸びのあるストレートで三球三振に切ってとる。続く打者も、ストレートに差し込まれ、一塁ファールフライで0点に抑えた。

　6イニングを3安打無失点。課題だった四死球も1。しかもその投球のほとんどがストレートという圧巻のピッチング。制球力の向上と、キレを増したストレートの威力、そしてピンチにも動じない精神的な安定。全てにおいて昨年からの成長を、文字通り体現した。

「まだ2年生。もう1年ある」という声もあるが、江村の視線は、この夏の甲子園を見据える。「先輩たちにとっては最後の夏。このチームで絶対に勝ち進みます」

（文＝編集部）