対立を嫌う上司の下で働くのは大した問題ではないと、人々は思い込みやすい(Getty Images=写真)

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■思いやりある人と対立を避ける人はまったく違う

優しくて思いやりのある上司の下で働くのは心地よいだろうが、一緒に働くのが心地よい上司と対立を避ける上司には違いがある。後者に分類されるマネジャーは、厳しいフィードバックを与えてくれず、チームのために戦うのをしり込みし、要求を気安く受け入れすぎる。あなたの上司がこのタイプなら、あなたのキャリアはリスクにさらされるおそれがある。

「リーダーの優しさや思いやりには私は100%賛成だ。私が感心できないのは、優しさと称して、自分のやるべきことをやらない上司だ」と、『Essentialism: The Disciplined Pursuit of Less』の著者、グレッグ・マッコーエンは言う。

対立を嫌うマネジャーは、部下の成果やキャリアに有害な影響をおよぼすことがある。ハーバード・ビジネス・スクール経営学教授で、『Being the Boss: The 3 Imperatives for Becoming a Great Leader』(邦訳『ハーバード流ボス養成講座―優れたリーダーの3要素』)の共著者、リンダ・ヒルは、こうした上司の多くが、直属の部下におよぼしている影響に気づいていないと言う。

「このようなリーダーにインタビューした経験から言えるのは、本人はそのように行動していることに気づいていないということだ」と、彼女は言う。優しすぎる上司がもたらすおそれのある被害を軽減するにはどうすればよいかを、次に紹介しよう。

■上司の立場を思いやろう

部下のために戦ってくれない上司の下で働くのは腹立たしいが、上司を非難してはいけない。

「新任の上司はとくに対立を避ける傾向がある。彼は同輩や上司の信頼を得ようとしているのだと、立場を少し思いやろう」と、ヒルは言う。上司を敵ととらえるのではなく、上司の視点から状況を見れば、もっとうまく手助けできるだろう。

まず、上司に話をすることから始めよう。自分は何を得る必要があるのかを、明確に、できるかぎり具体的に伝えよう。プロジェクトのために必要な資源をもらえずにいる場合は、たとえば次のように話す。「これがわれわれの完了しなければならない仕事です。このプロジェクトにもっと多くの人員を割り当ててもらえないかぎり、完了することはできません。もっと多くの資源を得るために何かできることはありませんか?」。

部下に任せっきりで、十分なアドバイスをくれない上司の場合は、次のように言えばよいだろう。「途中でもっとアドバイスをいただきたいのですが、どうすればいいですか」。上司がフィードバックを与えやすくなるような持っていき方をすることもひとつの方法だ。「実際の出来事と自分がそれにどのように対処したかを説明し、それから、どうすればもっとよいやり方ができたかアドバイスしていただけませんか、と頼んでもよいだろう」と、ヒルは言う。

■問題行動を本人に自覚してもらうには

「人は自分の行動に不満を持たないかぎり変われない」と、ヒルは言う。上司が自分の行動の代償を理解する手助けをすることが大切だ。上司の立場に立ち、彼が本当に重視しているものは何かを理解する努力をしよう。

「そうすれば、彼が達成したいと思っていることがリスクにさらされているのだと教えることができる」と、ヒルは言う。

対立回避行動のマイナス面を明らかにできれば、上司は変わろうという気になるかもしれない。たとえば、チームが満足のいく成果を挙げられないという問題に正面から取り組まないことで、高い成果を挙げているメンバーから反発を買っていると説明してもよいだろう。メンバーの離脱というような直接的な証拠を挙げて説明しよう。

マッコーエンは上司が助言やフィードバックを与えてくれるのを待つのではなく、自分で道を切り開くことを勧める。「上司との契約書をつくろう」と、彼は言う。「自分はどのような結果を達成しようとしているか、どのような制約のなかで活動しているか、どのような説明責任を負うことになるかを書き記そう」。それから、上司にそれを検討してサインしてくれと頼もう。そうすれば、少なくとも、それをめざして前進できる具体的な目標を手にすることができると彼は言う。「私がインタビューしたすべてのマネジャーが、そのレベルの主導権なら歓迎すると言っている」。

■他部署の人に協力を要請する

状況によっては、上司の頭越しに自分のネットワークを使ってフィードバックや資源を得る必要があるかもしれない。可能なら、そうした話し合いに上司を参加させよう。たとえば、別の部にいくらか余剰があることがわかった場合には、それを上司に伝えて、上司がその部の責任者に資源を要請できるようにしてもよいだろう。対立回避型の上司を持つ人にとって、組織の別の部署の人々と強力な関係を築いておくことは二重の意味で重要だとヒルは言う。「2、3レベル上の人たちも参加してくれるようネットワークを構築しよう。そうすれば、彼らに話を持っていっても道理が立つ」。

対立を嫌うマネジャーの下にいても大した問題ではないと、人々は思い込みやすい。だが、この手の上司は部下を昇進させることで誰かの機嫌を損ねるのを恐れて、部下がキャリアを伸ばす手助けをしてくれないかもしれない。また、上司が無能と見なされていて、その部下もやはり無能だろうと他の人々が思い込んでしまったら、部下の信用は損なわれる。「長い間何もせずに放っておく人がいる」と、マッコーエンは言う。上司が変われないなら、異動を願い出るか、会社を辞めるべきだと彼は言う。「私は、ある程度の鋭さを持ち、もっと向上できるよう積極的に刺激を与えてくれる人と仕事をするほうが好きだ」。あなたの上司がこのようでないなら、新しい上司を探すべきときかもしれない。

■どうやって逃げる上司を追いつめたか

優しい上司が組織に実害を与えた例を挙げよう。マシュー(仮名)は、しゃにむに優しくしようとする上司、ブライアン(仮名)の下で1年弱働いた。ブライアンは彼らが勤めていたクレジットカード処理会社で52人のチームを管理する立場にあり、対立を避けていた。「約束した資源の要求をしないとか、不当な苦情を受け入れるといったことがしょっちゅうあった」。

マシューはチームを代表して、彼の行動が離職の原因になっていることを具体例を挙げて伝えた。「それに対して彼が言ったことはすべて立派なことだった。だが、彼の行動はそうではなかった」と、マシューは言う。

直接的な話し合いが失敗に終わったあと、マシューはブライアンの頭越しに行動した。「最終的には彼の上の人たちから必要なものをもらったよ」。その後、マシューは昇進し、新しい立場でブライアンにもっと資源をくれと頼んだ。要求がかなえられなかったとき、彼はブライアンの上司である会社の最高情報責任者のところに行った。

「私の要求はどうなっているのかと質問して、わかったんだ。彼がその要求のことを知らなかったということがね」と、彼は語る。マシューはブライアンの頭越しに要求するのは気が進まなかったが、必要だと感じた。

ブライアンの行動がどれほど有害かはまもなく明白になった。「3カ月の間に4人のシニア・エンジニアと2人のマネジャーが辞めたんだ」。結局、ブライアンは解雇され、マシューと彼の同僚の1人が昇進して、ブライアンの職務を共同で担当することになった。「辞めた人のほとんどが戻ってきて、わが社の文化はよいほうに劇的に変わったよ」と、彼は語っている。

(エイミー・ギャロ=文 ディプロマット=翻訳 Getty Images=写真)