貧血とコンディショニング
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。
高校野球の春シーズンも一段落つき、春に出た課題をチームで取り組んでいることと思います。梅雨の時期を過ぎればあっという間に夏の甲子園をかけた予選が始まりますね。特に3年生は最後の夏。悔いの残らないよう、やり残したことのないよう、毎日を充実したものにしていきましょう。
さて今回は練習量が増えたときや大量に汗をかく時期に気をつけたい、鉄欠乏性貧血とコンディショニングについてお話をしたいと思います。
貧血というと朝礼などで長時間立っていると、フッと目の前が真っ白になって倒れてしまうようなことを思い浮かべるかもしれません。これは「脳貧血」といって長時間立っていると、重力などの影響で十分な血液量が脳に届かなくなることで起こります。一般的に貧血は「血液中のヘモグロビン濃度が低下した状態」を指すのですが、こうした立ちくらみなどは血液の成分が影響するものではないため、厳密に言えば「貧血」とは分けて考える必要があります。
急に立ったときに目の前がくらっとする起立性貧血も血圧や自律神経の影響によって起こるものであり、血液の成分が問題ではありません。十分に食事をしていない状態だったり、精神的な緊張が続く状態で長時間立っていると起こることもあります。
スポーツ選手に多い鉄欠乏性貧血スポーツ選手は汗とともに鉄分を失いやすい
代表的な貧血として挙げられるのは鉄欠乏性貧血です。文字通り血液中の鉄分が不足して起こる貧血のことで、貧血全体の約7割がこの鉄欠乏性貧血だと言われています。貧血はどちらかといえば女性に多く見られる内科的疾患ですが、スポーツ選手に限っていえば男性にもよく見られます。
日頃から激しく体を動かすスポーツ選手は、大量の汗をかくことによって汗の中に含まれるミネラル分が失われ、鉄分も汗とともに体外へ排出されてしまうことが知られています。一般の人よりもたくさん汗をかくスポーツ選手は、より多くの鉄分が汗とともに失われますので、鉄欠乏性貧血を起こしやすいと考えられています。
貧血とオーバートレーニング貧血の症状としてわかりやすいのは、顔色が悪い、疲れやすい、安静にしていても脈が早いといったオーバートレーニングに付随するものです。プレーがうまくいかなければ、もっと練習をして上手くなるように努力することは大切ですが、パフォーマンス低下の原因が貧血であると気づかなければ、さらに練習を重ね、汗をかいて鉄分を失うという悪循環に陥ることも考えられます。
長期にわたり体調が優れない、パフォーマンスが上がらないといったオーバートレーニング症候群は、貧血が原因となっていることも多いといわれています。
[page_break:夏に疲れないために / 貧血予防はバランスの良い食事から]夏に疲れないために血液中にある鉄分はその大半が赤血球の中にあるヘモグロビンに含まれ、酸素を運搬する役割を担っています。運動時間が長くなると体内でエネルギーを作り出すために酸素が必要となりますが、体全体の筋肉を動かすためには酸素を体のすみずみまで運ぶことが必要となってきます。赤血球に含まれるヘモグロビンが多ければ多いほど、組織への酸素供給が行き渡るため、全身持久力の向上、つまりスタミナ向上につながるのです。
冬場にはロードワークなどの有酸素運動を行う機会も多いと思いますが、これは血流を良くすることで酸素の運搬能力を高め、全身持久力の向上を目的とするものなのです。夏の大会で、時間の経過とともに汗でミネラル分が失われることを考えると、貧血状態ではベストパフォーマンスは望めないのです。
貧血予防はバランスの良い食事からインスタント食品は鉄分吸収を阻害するため、なるべく食べない
貧血かどうかを調べるためには医療機関で血液検査を受けることでわかります。貧血かな?と思ったら早めに医療機関を受診し、しかるべき対応をとるようにしましょう。また食事については、鉄分の多い食品を選ぶことも大切です。鉄分には肉や魚など動物性由来の食品に多く含まれるヘム鉄と、穀類、海藻、緑黄色野菜に多く含まれる非ヘム鉄の2種類が存在しますので、どちらもバランスよく取ることが理想的です。またビタミンCを多く含む新鮮な野菜や果物を一緒に食べると、非ヘム鉄の吸収が良くなります。
一方で緑茶やコーヒーは鉄分の吸収を阻害するため、摂取のタイミング(時間をずらす等)や摂取量に注意する必要があります。またインスタント食品、スナック菓子などに含まれるリン酸塩(食品添加物の一つ)も鉄分の吸収を阻害します。食べずに済ませられるものはなるべく取らないようにして、普段からバランスの良い食事を心がけましょう。
【貧血とコンディショニング】・貧血は血液中のヘモグロビン濃度が低下した状態・立ちくらみなどで倒れる「脳貧血」と「貧血」は違う・スポーツ選手は汗を大量にかくことで鉄分を失いやすい・有酸素運動を行うのは、全身持久力を鍛えてヘモグロビンの運搬能力を高めるため・貧血予防はバランスの良い食事から。インスタント食品の摂取はなるべく控える
(文=西村 典子)
次回コラム公開は6月30日を予定しております。