花巻東vs秋田南

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ともに最速145キロ!速球派同士の競演!

ドラフト候補に挙がる高橋樹也(花巻東)

 速球派の競演となった。この試合の注目といえば、ドラフト候補に挙がる高橋 樹也(3年)の投球であった。左腕から最速145キロで、試合もある程度まとめる能力もあるとなれば、評価は上がる存在だ。東海大相模の小笠原 慎之介と同じパターンで評価される投手だ。

 その高橋だが、不安な立ち上がりだった。1回表、先頭打者に死球を許すと、さらに一死二塁から3番野上 朋輝(3年)の適時打で1点を先制。4番仲佑真(2年)の振り、逃げの間に一塁走者が三塁へ。さらにワイルドピッチで2点目を許し、5番三浦 光貴(3年)、6番澤木恒成(3年)の連打で3失点。この内容を見て高橋は、「下半身が使えず、上半身が突っ込みがちの投球フォームになっていました。なので、上半身が突っ込まず、下半身を使う意識で投げました」 切り替えをしっかりと行った高橋は2回表、立ち直りを見せる。130キロ後半だった速球が一転して、140キロ台を連発。最速145キロを計測したストレートに、スライダー、カーブを織り交ぜ三者連続三振。高橋のフォームは踏み込んだ膝が開き気味で、踏み出し幅が狭いので、上半身が先に動いてしまい、押し出すような投げ方になっていた。だが2回以降は、上半身は突っ込まず、軸足でしっかりとため込んだ状態からテイクバックをしっかりとって腕を振ることができており、力強く腕を振ることができていた。 2回以降、140キロ台のストレートは全国の投手を見てもなかなかお目にかかれないレベルである。狙い通りに空振りが奪える。ストレートの威力、変化球の精度ともに改めて今年の左腕でもトップクラスであることを印象付けた。

 また3回表に4番仲に対し、140キロ台のストレートを見せた後、85キロのカーブで空振り三振に奪った。あっけに取られた仲は待ちきれずに空振り三振。球速差60キロもあるスローカーブとのコンビネーションが見事に嵌る。これが甲子園で実現すれば、話題になりそうな攻め方であった。この攻めについて、「佐々木監督にすすめられて少しずつ取り組んでいることです」と明かしてくれた。高橋は、昨秋、肩を痛め、オフでは肩の治療に充てて、再発をしないようにインナーマッスルで鍛えながら、ウエイトトレーニング、走り込みもみっちりと行い、結果的に最速141キロだったストレートがこの春、146キロまでにスピードアップ。コンスタントに140キロ台を計測するまでになった。176センチ75キロと去年より体格的にビルドアップし、また、右打者の逆方向へ変化球として、100キロ台のチェンジアップを習得するなど、着実にレベルアップを遂げている。

 今後、安定した投球ができるようになるには、踏み出し足の右足の開きを抑えながら、上体が突っ込まず、縦に腕が振れる形がしっかりと出来るようになると、試合が作れる上に、コンスタントに140キロ台を計測する投手になりそうだ。

最速145キロを計測した中島和俊(秋田南)

 この高橋と対等以上の投球を見せたのが秋田南のエース・中島 和俊(3年)である。175センチ80キロ。下半身が実に逞しく、土台となるものが素晴らしい。豪快なワインドアップから始動し、左足をゆったりと上げたフォームから繰り出す直球は常時140キロ前後で、最速145キロを何度も計測。上半身の力が強く、投球フォームを見ても、テイクバックに入ったときの肘の上りが良く、胸を大きく張り、肩甲骨をうまく使って、鋭く腕を振る形ができている。

高橋を見ようとしていたスカウトにとっても良いアピールになっただろう。中島だが昨年まで175センチ72キロでスピードも最速も139キロが行くのがやっとであった。この冬に取り組んだことは、「やはり食べる量を増やし、走り込み、ウエイトトレーニングにも力を入れたことですね」トレーニングの成果もあり、春先からコンスタントに140キロ台を計時するエンジンを作り上げた。130キロ台のスライダー、フォーク、110キロ台のカーブも悪くない。初回に内野ゴロで失点を許したが、5回までノーヒットワンランの投球を見せていた。

 ただ課題があるとすれば、175センチなので投手としては角度がないこと。プロでも、この身長で活躍している投手は多いが、その投手と比較すると、下半身の粘りがないこと。まだ踏み込み足の歩幅がやや狭く、べたっとついて投げている。タイミングが取りやすい形となっているのだ。つまり140キロ台を計時していても、当てられることが多いということ。それでも11奪三振と三振は取れるが、もう少し力づくではなく、コンビネーションで取っていきたいところ。また思い通りに投げるコントロールがなく、力んでしまい、先頭打者出すこと6回、そのうち四球は4回とリズムを悪くする要因となっている。

 この試合は3対1で迎えた花巻東が6回、熊谷星南(2年)の適時打、田老瑞希(3年)の適時打で同点に追いつき、9回表、中島が自ら勝ち越しを放つが、9回裏、一死満塁のピンチを招き、3番千田京平(3年)のサヨナラ打で花巻東が準々決勝進出を決めた。

2本の長打を記録した三浦(秋田南)

 試合後、中島は、「ストライク先行ができず、四球を出してしまい、試合を作り切れなかったところがあるので、夏へ向けてストライク先行ができるような投球をしていきたい」と課題を語った。被安打5本に対し、四死球は9個。球数は147球と、夏の大会を見据えると、球数を少なくするためには、四死球を減らしていきたいところ。

  投球面において投球の強弱であったり、フォームでも緩急をつけて、打ち難さというのを追求する時期でもあるだろう。140キロ台を投げ込むエンジンの大きさは見事であり、あとはそれを生かす技術だけである。将来的には160センチと小柄ながら150キロ近い速球を投げ込む美馬学(東北楽天)をほうふつとさせる投手になりそうだ。

 敗れた秋田南だが、打線は高橋から8安打と中々力強い打線であった。中島 和俊に限らず、「身長-体重」の「マイナス100」、ないし「マイナス100以上」の選手が多い。ベンチ入り20人のうちその基準に達していたのが、11人もいたこと。チーム内で体作りが徹底されていたことが分かる。

 打力は高い選手が多かったが、その中でも光ったのが高橋から2本の二塁打を長打を放った5番の三浦 光貴である。176センチ83キロとガッシリ体型だが、とてもずんぐりむっくりではなく、むしろ筋肉質の体型をしており、スピードを落とさずに体作りをしてきたのが伺える。三浦は右中間、左中間に鋭い打球を飛ばした右打者で、甘く入れば、スタンドインをさせる技術を持った選手であった。守備の動きもそつなくこなすことができていた。

 また高橋を慌てさせるきっかけをつくった3番で主将の野上朋輝(3年)もどっしりとした構えから上手くボールを呼び込んで、打ち返すことができていた。2安打を打った活躍は自信になっただろう。

 戦力的にかなり充実した布陣で、夏の優勝候補に挙がる存在として注目をしていきたいチームであった。

(文=河嶋 宗一)