出身大学で人生の幸福度が決まるか

写真拡大

■大学は昇進・昇格には影響しない

出身大学は入社後の昇進・昇格に影響を与えるのか。結論を先に言えば「ノー」である。もちろん、採用には大きく影響する。その理由は「同じ大学の先輩社員が活躍している人が多いので、彼(彼女)も活躍してくれるだろう」と期待して採用するのだ。これを「実績校主義」と呼ぶが、大企業には色濃く残っている。

しかし、入社後は別である。総合商社の人事担当者はこう言う。

「出身大学は採用の際にはこれといった指標がないから見ていますが、入社後は学歴を指標にしなくても日々の仕事で評価できるので、いかに有名大学であっても結果を出さない社員は当然出世もしません。東大卒もしかり。これははっきりしています」

つまり、東大卒でも仕事をやらせてみて、その期待に応えられなければ、「ああ、ダメだったか」と出世は止まってしまうのだ。救いの手が差し伸べられることはない。

理系出身者でも変わらない。電機メーカーの人事担当者は「技術開発部門の仕事はその人が持てる技術を生かして製品を作り上げていくことがメインです。ブルーカラーを管理することはないし、あくまでも作り出す力であり、結果がすべて。昇進はそれで決まるし、実際に同期でも高専卒出身者が東工大出身より上の等級になっている例もある。逆に結果を出さない社員は理系でも営業に配属することもあります」と語る。

ただし、企業によっては出身大学が配属先に影響するケースもある。住宅メーカーの人事担当者はこう言う。

「入社後に優秀と思われる社員を20人程度選抜し、第一線の営業部隊や本社の管理部門に数年間配属し、そこでの仕事ぶりを見て成績がよい社員はより責任の重い仕事をやらせています。順調に行けば昇進も早くなります。ただし、成績が悪いと当然、出世は遅れます」

同社ではこの選抜組をAグループと呼んでいるが、毎年入っているのは、国立では東大、京大、東北大、一橋大、大阪大、神戸大。私立では早慶に加えて、少ないがMARCH、立命館大、同志社大、関学大クラスも入るという。

■結果を出さなければ出世できない

最近では管理職や経営幹部に不可欠なマネジメント力を早期に身につけさせるために採用学生から一定数を選抜し、特別のコースを歩ませる企業もある。実際に数年前から始めたという流通業の人事部長はこう語る。

「採用した学生の中からこれはと思う優秀な学生を選抜し、違うコースを歩ませています。多くの社員は店舗勤務をさせるが、その人たちは最初から別会社の経営企画部門で働かせ、時期を見て、店舗勤務を経験させます。同期の配属先はバラバラなので誰が選ばれて、選ばれないかはわかりません。選抜組はその後、本社やグループ大手の経営企画部門で働きながら経営幹部として養成していきます」

選抜では、採用試験の高得点組に加えて、マネジメントの資質があるかどうかをチェックしているという。ただし、どうしても採用時の印象に左右されやすく、東大、一橋大、早慶などが多くなる傾向にあるという。もちろん出世が約束されているわけではなく「配属先での仕事ぶりを常にチェックしており、途中の評価が低ければふるい落とされて、普通の社員と同じような管理下に入ることになる」(人事部長)

昇進のチャンスは与えられるが、途中で躓けば昇進の芽がなくなることになる。その点では最も厳しいのはメガバンクかもしれない。元人事部長は銀行での出世についてこう語る。

「銀行で昇進するには3つの関門をくぐり抜ける必要があります。最初の分かれ目は30歳前後、次は35歳前後。この時点で半数がふるい落とされる。そして最後が40歳前後。この時点で部長に昇進できるのは1割程度。50歳で役員になれば銀行に残れるが、なれなければ外に出される仕組みです。30歳前後は教育訓練期間でもあり、見極めは難しいが、やはり東大、一橋、慶應あたりは残っています。出身大学が同じ上司が多少甘めに見てくれることもあるかもしれません。しかし、35歳、40歳前後は確実に成果を出せない社員は落とされる。学閥効果はないし、そんなものは通用しません。成果を出し、なおかつマネジメント力など将来の成長期待が強い人だけが選ばれるのです」

昇進要件として、最近はどの企業でも厳しくチェックされるのが、マネジメントなどの部下の指導力だ。部下を統率し、一つにまとめ上げる力があるかどうか。マネジメントの資質は高校・大学時代の活動によって磨かれると指摘する人事担当者も多い。

(ジャーナリスト 溝上憲文=文)