還暦を目前に今もなお「怪物」たる山下達郎の魅力

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いま、山下達郎がアツい! 37年間にわたる音楽活動の現状における集大成として、ベスト盤『OPUS〜ALL TIME BEST 1975-2012〜』(ワーナーミュージック・ジャパン)を出したのだ。昨年11月から今年5月までおこなわれた全国ツアー「PERFORMANCE 2011-2012」も全会場がソールドアウトの大盛況であった。



37年前の1975年といえば、筆者が11歳の頃である。同年、山下はシュガー・ベイブというグループの名義で『SONGS』を出す。いまとなっては伝説のアルバムと言われているが、小学生の筆者が彼らのことを知ることはなく、まだ新人であった彼らの世間での認知度は低かった。翌年、シュガー・ベイブは解散し、以降、山下はソロ活動を続けることになる。



筆者が山下を知ったのは1980年のことである。「RIDE ON TIME」という曲がmaxellというカセットテープのCMに使われたことから、気になる存在となった。彼のレコードで初めて買ったのは、1982年に発売された『GRAEATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA』だ。音楽高校生だった筆者に衝撃を与えたこの1枚は、数えきれないほどの再生回数を経て、現在に至る。



その後も山下の楽曲は着実にヒットを飛ばし、CMやドラマに採用されることも増えていく。有名になると、彼の聞き込んでいる音楽の量が半端ではないことや音作りへのこだわり、歌唱も楽器演奏も作詞作曲もアレンジも独学だったことなどを知る。そして、活動37年目にしてアルバムがオリコン1位(発売初週に27.6万枚を売り上げて、10月8日付週間ランキングで首位)。日本の音楽界での山下は、いい意味で「怪物」と言ってもよい。



そんな「怪物」が、筆者が知る限りでは初となる女性誌のインタビューに答えていて、驚いた。「女性自身」(光文社)の10月9日号に掲載された「山下達郎『35の本音』を独占直言!」という記事がそれだ。元々、インタビューに対して営業トークをしないことで有名な山下だが、このインタビューでも半分以上の質問にそっけない返事をしている。とはいえ、「いじめ」に遭っている子どもやその親に向けた以下の発言は目を引いた。



「いじめがはびこる学校なんぞに行かなくていい。やめてしまいなさい。本でも読んで絵でも見て、自分でできる学習をしなさい。たかが小学校・中学校程度の勉強なんぞ、何年か先送りしたって、まったく影響ない。あとでいくらでも補填がきく。人生は長い。やり方はいくらでもある。その間に護身術でも習って、いざというときは相手をたたきのめせ。私が親ならそうさせる」



ほうほう、『いじめ』についてそんな考えを持っているのか、と思いながら発言を読んだ筆者も山下とまったく同意見である。彼は、無責任にこんな発言をしているわけではない。自分は高校をドロップアウトした経験を持つが、そんな経験にとらわれず音楽で成功を収めている。学校にとらわれる必要などないことを、自身の経験を元に語っているのであった。



また、「チケットぴあ」の「100問突撃!インタビュー」では、「AKB48についてどう思いますか?」との質問に「僕の人生に必要ありません。向こうも同じだろうけど(笑)」と答えるなど、質問に対する山下のストレートな回答は、ときに「痛快」でもある。37年もの間、音楽の第一線で活躍しつづける人物の「人となり」がインタビューでよくわかる。「チケットぴあ」のインタビューはネットでも読めるので、ぜひご一読いただきたい。



山下には申し訳ないが、彼のことを知った当初は、筆者が敬愛するトッド・ラングレンの「和製」であると思っていた。しかし、時を経た今、トッドはトッドであり、山下は山下であるとつくづく思う。きっと、還暦を過ぎたって山下達郎の「アツさ」は続いていくに違いない。





(谷川 茂)