セ、パ両リーグはこのほど、試合開始前の監督同士による最終の先発メンバー表交換を、今季から野球規則通りに試合開始5分前に行うと発表した。これまではビジターチームの打撃練習終了後に行われていた。 
 試合前に球場内などでアナウンスされる先発メンバーは、監督同士による交換前に発表される予定先発メンバー表を基に行われる。 
 また、今季からセリーグでも予告先発制度を導入することに伴い、予定先発メンバー発表後に、先発投手がケガや病気で登板不能となった場合、相手チームはメンバーや打順を変更することを可能とした。
 プロ野球の試合で、最も意味が無いと思っているのが、この、監督同士による最終のメンバー表の交換だ。 
 いや、メンバー表交換自体を否定するつもりはない。このとき交わされるメンバー表は文字通り、最終のメンバー表で、球審はメンバー表に誤りが無いか(守備位置が重複している選手がいないか、など)を確かめる。またメンバー表の交換が終わった時点で全責任が審判員に託されるので、審判員にとってメンバー表交換は、事実上のプレイボールと言ってもいいだろう。 
 また、わずか1分足らずの短い時間に、両監督は握手・挨拶を交わし、メディアは写真撮影に忙しい。地方球場で試合が開催される場合は、球審とともにその球場の特別ルールを確かめる。 
 そういう意味ではメンバー表交換は不可欠な儀式だが、何もファンの目の前でやる必要はない、審判控え室などで済ませればいいのではないか、と思う。 
 
 たしかにファンの目の前でメンバー表を交換することで、正々堂々と戦う宣誓の役割を果たしている。だが、はたして一体何人のファンが彼らの宣誓に注目しているのか。 
 埼玉西武ライオンズの本拠地、西武ドームをはじめ、他球場でも外野席で観戦することが多いのだが、外野席からでは、メンバー表交換の様子はほとんど見えない。ホームベースに人だかりができているな、とわかる程度だ。 
 仮に内野席に座っても、ほとんど変わらないだろう。メンバー表交換をしっかりと見たいのなら、それこそバックネット裏の特等席に座らなくてはいけないが、それだけのために決して安くは無いチケット代を払うほど、財布に余裕はない。 
 
 ファンの興奮を高める起爆剤になるかも、疑問だ。前出したように、球場の大半の席でメンバー表交換の様子を確認できない。しかも、交換を終えた監督はそそくさと、まるで相手の監督の顔も見たくないとばかりに、自軍のベンチに引き下がってしまう。これでは、ファンが盛り上がる暇もない。 
 いっそ、武将のように名乗りをあげたり(「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ」『平家物語』巻十一「弓流」より)、プロレスのように派手なマイクパフォーマンスをした方が、よほど盛り上がる。 
 
 ファンとして気になるのが、メンバー表交換の際、監督同士は一体何を話しているのか、ということだ。 
 かつて米メジャーリーグのアメリカンリーグで審判員を務めたロイ・ルチアーノ氏によると、監督の対応も様々。こちらから息苦しくなるほどメンバー表交換を重視している監督もいれば、単なる儀式と割り切っている監督もいる。 
 1961〜1963年にニューヨーク・ヤンキースで指揮を執ったラルフ・ホークは後者で、「メンバー表に子豚のピギーの名前があっても、気にしなかった」とルチアーノ氏は振り返る。 
 メンバー表交換の時点から血気盛んだったのは、ジーン・モークカリフォルニア・エンゼルス(現ロサンゼルス・エンゼルス)の監督だった1986年、優勝決定シリーズで後1ストライクから逆転を許すなど、通算1,902勝ながらリーグ優勝未経験でユニホームを脱いだ「悲運の名将」だが、彼は相手チームの弱点を見破ろうとばかりに、メンバー表を吟味する。ミスでも見つけようものなら、それがどんなに些細なもので、猛烈な抗議で相手監督と審判員を辟易させた。 
 
 ファンもほとんど見ておらず、パフォーマンスの役目も果たさず、中には単なるセレモニーとしか見ていない監督もいる。 
 そんなメンバー表交換なら、裏でささっと済ませればいい。メディアがどうしても写真や映像が欲しいのなら、シーズン最初の対戦で済ませ、残り試合ではその写真や映像を使い回せばいいではないか。 
 
 もちろん、メンバー表交換が生んだドラマもある。最近では、アーマンド・ガララーガジム・ジョイス審判員の和解が記憶に新しい。 
 2010年、当時デトロイト・タイガースに所属していたガララーガは、球審だったジョイス審判員の誤審完全試合を逃した。ジョイス審判員は試合終了後、すぐさま自らの誤審を認めたが、翌日の試合開始前のメンバー表交換で互いに肩を叩きあい和解をしたガララーガ、ジョイス審判員の姿は、野球ファンならずとも多くの方の感動を呼んだ。 
 
 だが、こんなことは滅多に無い。そう頻繁に起きては、その審判は職を失う。