4年以内に70%の確率で起こるとされる首都直下型地震。従来の想定を上回る震度7の揺れが東京を襲う可能性も指摘される中、地震による巨大津波の甚大な被害について、「地名」研究の専門家である筑波大名誉教授が衝撃の研究結果をまとめた。地名をひもとけばわかるという東京「超危険エリア」とは─。



土地の高低感を失った都民

 東京の地名からわかる危険なエリアを「地名に隠された『東京津波』」(講談社)にまとめ、このほど上梓したのは、谷川彰英筑波大名誉教授(教育学)。

 開口一番、東京都の地震対策の不備について、こう不満をブチまける。

「防災というのであれば、家屋倒壊や火災のみならず、あらゆる可能性を想定して対策を立てなければならない。しかし、東京都は大きい津波は起こらないものとして、何の対策も立てていないんです。しかし、先の東日本大震災では三陸沖で発生した巨大津波が房総半島を迂回して東京湾に侵入した。千葉県木更津市では、2メートル83センチを記録しているんですよ」

 ちなみに、この時の津波は、東京湾の入り口である千葉県富津市で3・6メートル、湾奥の葛西臨海水族園でもなんと2・6メートルを記録したという。

「もし、房総沖の東南部で、海溝型の巨大地震が起き、巨大津波が発生すると、房総半島を迂回するのではなく、ストレートに東京湾を直撃する可能性も否定できない。仮に東京の街が10メートルを超える巨大津波に襲われたら、未曽有の被害が起きます。ところが、都民は日頃、電車や車で移動することが多いため、どの土地の海抜が高いのか、低いのか、土地の高低感を失っている人が大多数なんですよ」

 そんなところに、もし巨大津波が襲来したらどうなるのか。

「いちばん危ないのは江東区、江戸川区、墨田区、葛飾区の海抜0メートル地帯。もし巨大津波が来たら、水没するでしょう。その0メートル地帯には今、約150万人が住んでいる。東日本大震災では地震動によって被災地の沿岸地域は、1メートル地盤沈下したところもある。これが、東京直下型地震で、東京湾沿岸でも同じように沈下した場合にはさらに被害が広がり、私の予測では土地が水没し、被害を受ける都民は約300万人に上ると見ています」

 谷川氏は長年、古地図などを参考にしながら、全国の地名の由来を研究してきた。そんな中、東日本大震災における津波の甚大な被害を目の当たりにし、都内の「水」に関する地名に着目。そこで見えてきたのは、東京の地名には地盤が軟弱であったり、低地であったりすることを示すものが少なからず存在するということだった。

 以下、谷川氏に具体的に危険な地名と、その理由を明かしてもらおう。

「例えば、江東区には北砂、南砂という町がありますが、白はくしやくせいしよう砂青松(海岸の美しい景観の形容)というくらいで、地名に『砂』とつくのは海辺に近い軟弱な低地であることを示します。『浜』も同様で、『谷』は水で刻まれた谷を意味し、集中豪雨時に水が集まる。『窪』『久保』は窪地の意。『池』がつくのは低地で、『落合』は2つの川が合流する所につけられ、その周辺で最も低いことを意味する。『池尻』は、池から水が流れ出た先の最も低い地点につけられる地名です。

 また、江東区の『大島』『越中島』などの“島地名”も低い地域を指します。他にも亀戸は昔、海の中の孤島でした。その島の形が亀に似ていることから亀村と称されていたが、その後、この村で井戸が発見され亀井戸となり、それが省略されて現在の亀戸になったというのが定説です」