って一言で済むわけねえだろ大バカ野郎! ドイツで勝負して、「世界の槙野」になってくるんじゃないの? 広島駅で大勢のサポーターに見送られて、あるいは退団・ケルン移籍記者会見で何を言ったかもう忘れたのか?

 

 確かにプロ選手の寿命は短い。出場機会がないことは非常に大きな問題。しかしドイツ国内だけでなくヨーロッパのチームも含めて多くの選択肢があった中、そしてFSVフランクフルトなどから関心もあった中、槙野が選んだのは浦和という選択肢。「出場機会を求めた」のではなく「日本に帰国したかった」さらに「浦和へ移籍したかった」というように見られても仕方がない。

 ミシャ(ミハイロ・ペトロビッチ監督)が就任したことも後押ししたのだろう、とは思う。ただ槙野は、そのミシャのチームから出ていったことを忘れてはならない。

 この移籍には、大きく分けて2点の問題点がある。「戦略性がない」「広島サポの心情を踏みにじった」だ。


■1)戦略性がない
 広島では特に守備面で課題を残したまま、4バックでも3バックでも割と中途半端な状態のまま、名古屋や浦和からのオファーを蹴って海外に行った。正直、通用するのかどうか怪しいと思っていた。ドイツで求められるDF像と槙野のそれは、あまりに違い過ぎていたからだ。そして、残念ながら予想どおり通用しなかった。

 ケルンは強豪チームではなく、香川真司のドルトムントや内田篤人のシャルケなどから大きく遅れをとっており、17節終了時点で10位。しょっぱいといえばしょっぱい。同期は華々しく(だけではないが)活躍する一方で、そんなチームから戦力外の扱いを受ける自分の立場に耐えられなかったのは理解できる。

 日本代表でのプレーを見ても、まあ時間的に限られているとはいえ、広島時代から明らかに進歩したとまではいえない。シーズンオフ(2011年6月頃)に広島の練習に参加し、GK中林洋次が動けないようなFKを決めたという話は聞いているし、まったくレベルアップしていないわけでは当然ない。が、1年プレーし続けた選手たちとの差は恐らく歴然で、その差はこれから開く一方。

 そう考えての移籍なのだろう。だが、そこで海外に踏みとどまらずにあっさり日本に帰国し、しかもミシャのチームに移籍することは本当に「正解」だったのか。

 ミシャのチームが変則的な5バックから大きく変わる可能性はあるにせよ、槙野が通用しなかった部分である守備面の問題、フィジカルの問題、そしてビルドアップでの問題がミシャのチーム加入で一気に解決されるのか。広島と同じ監督の下で移籍した以上、槙野が「解決できる」と考えたとはとても思えない。

 ドイツ国内や近隣諸国で勝負し続けるという選択肢もあったし、試合にあれだけ出られないのだからリサーチする時間も十分にあった。しかし、形としては1年で日本に逃げ帰ってきた。今後を見据えて戦略を練った末というよりは、飛び込んできた話に食いついただけ、戦略の不在を感じざるを得ない。


■2)広島サポの心情を踏みにじった
 このことを大きく捉えるべきかどうか、人によって判断が分かれるとは思う。が、少なくとも「少なくない広島サポから激しい怨みを買った」ことは客観的事実だ。Twitterなりmixiなり2ちゃんねるなりで、広島サポ関係のページを「槙野」というワードで検索すれば、よく観測できるだろう。

 「槙野が他チームに行くのがイヤなら、なぜ広島はオファーを出さなかったのか」というトンチンカンなツッコミもあるが、広島が槙野にオファーなど出すわけがない。彼が「ドイツを経由して世界的なプレイヤーになりたいと思っている」と考えた、だからこそ契約切れで縁も切れるはずの選手に記者会見を開いて送り出したのだ。

 それは、2011年1月上旬の話。あれから何年経っただろうか? 広島がこのタイミングでオファーを出すわけがないことぐらい、ちょっと考えればわかる。

 そして広島サポーターは、旅立つ槙野を広島駅や品川駅に集結して見送った。その様子は、以下の動画に収められている。

 

 

 確かにサッカー選手は契約社会だ。契約切れの選手がタダで海外へ移籍することも、そのチームから逃げ帰るように別の国内チームに移籍することも、契約の上では何ら問題はない。というか、その点において「広島は間抜けだ」と言われるのは、まあ腹は立つが仕方がない。プロテクトできなかったのは歴然とした事実だ。

 ただ、そういうロジックでサポーターの感情を踏みにじって良い、バカにしても良い、という考え方をするなら、サポーターからの愛情など無いものとして行動すべきだったよな

 槙野はあまりに広島への愛を強調しすぎたし、サポーターに夢を見させすぎた。退団会見で涙を見せ過ぎた。そして、あまりに早くその夢を打ち砕きすぎた。周囲の人間がどういうアドバイスをしているのかわからないが、この移籍で彼が得たものと失ったものは果たして釣り合うのだろうか?

 槙野は浦和で認められることを引換えに、ジュニアユースから育ってきた広島という地に後ろ足で砂をかけた。「そうしたことをやる選手だ」、ということも周囲に印象づけた。単なるお調子者キャラからの、パブリックイメージ低落は避けられない。この手の移籍では「今シーズン結果を出せば認められるかもしれない」的なことを書くのが常なのだが、彼が広島サポに再び認められる日が来るのか、僕には何ともいえない。ご健勝をお祈りする、というほかない。