フォークソングの名曲『神田川』。中野区の末広橋近くに、その歌詞碑がある。山手通りと環七の間が「木賃(もくちん)ベルト地帯」と呼ばれたことは、本「東京23区シリーズ」でも何度か触れている。

 下町の長屋も木造賃貸住宅に変わりはないが、“モクチン”という響きには、中高年世代にとって甘く切ない思い出がよぎる。そう、『神田川』の世界である。

 ところが昨今は、「木賃」ならぬ「業火ベルト地帯」と言うらしい。何とも味気ないが、リスクの実態は否定できない。

 高度経済成長の時代。東京に流入する人々に、住まいの受け皿を提供したのが木賃住宅だった。中野区はその一大集積地であり、現在も木造建物の密度が23区で最も高い。

 宅地率2位、宅地に占める住宅用地比率2位、オープンスペース比率22位、不燃化率21位。どのデータを見ても、中野区が木造住宅の密集地であることを示すものばかりである。



 かたや、都市計画の対応は大きく立ち遅れた。その典型が道路だ。道路率22位、平均道路幅員23位、幅員3.5m未満の道路延長比率1位、幅員3.5m未満の道路延長比率は44%に上る。区内の道路の半分近くが、消防車がまともに入って来ることができない狭さであることに、中野区が抱える都市構造の課題が象徴されている。

 住宅地という特性もあって、中野区は出火のリスクが特に高いわけではない。東京消防庁のシミュレーションによる震災時の出火危険度は、ほぼ23区の平均並み。だが、60分後の延焼危険度は23区平均の1.7倍となる。360分後には2.3倍へと増えていく。一旦火が出ると止まることなく燃え広がる様は、まさに「業火」と呼ばざるを得ない。


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