私は横浜ベイスターズファンだ。ベイスターズファンは、12球団のなかで、一番不幸だ。とにかくなかなか勝ってくれない。4割勝ってくれれば良い方だ。定位置は最下位。いまに始まったことではない。かつて他球団からは、横浜大洋銀行と呼ばれていた。

 せっかく一流選手が育っても、みなベイスターズを見捨てて、他球団に移ってしまう。内川や多村だけの話ではない。シピン、松原、屋敷、みんな出て行ってしまった。

 なぜ、そんなに恵まれないファンを続けているのか。実は、好きこのんでベイスターズファンになったのではない。他に選択肢がなかったのだ。
 私の父は、毎日新聞の新聞記者だった。だから、我が家の家訓は「読売の試合をみてはいけない」というものだった。いまのようにケーブルテレビやBS、CSで全球団の試合がみられる時代ではない。東京のテレビで中継されるのは、巨人戦ばかりだった。読売禁止令を出されると、野球中継そのものが見られなくなってしまうのだ。

 ところが、そんな時代でも唯一テレビでみられるプロ野球があった。それがテレビ神奈川でやっていたホエールズナイターだった。テレビ神奈川は、横浜ではなく、鶴見に電波塔があるので、東京の我が家でも完璧に映った。だから、私はホエールズが好きというより、ホエールズ以外の試合をほとんどみたことがなかったのだ。給食でパンばかり食べていると、パン好きの大人になってしまうように、私は子どもの頃の洗脳によって、ベイスターズしか愛せない体質になってしまったのだ。

 しかし、今になって思うと、ベイスターズファンの悲哀というのは、当時からの宿命だったような気がする。いつからだったか正確に覚えていないが、テレビ神奈川がリレー中継というのを始めた。東京キー局で、巨人戦のナイター中継が時間の関係で、試合途中で終わると、そこからテレビ神奈川で中継が引き続き行われるようになったのだ。もちろんそれは読売の試合なので、その時点で我が家の野球中継は終わりになる。

 世の中の理不尽を、身を以て感じた瞬間だった。

森永卓郎(もりながたくろう)
昭和32年生まれ 東京大学経済学部経済学科卒業
日本専売公社、経済企画庁総合計画局、(株)UFJ総合研究所などを経て、現在、獨協大学経済学部教授。専門は労働経済学。主な著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』光文社2003年、『しあわせの集め方 B級コレクションのススメ』扶桑社2008年など多数。
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