身振り手振りを交えつつ、丁寧な受け答えをしてくれたチェフ [写真]=鷹羽康博

 ペトル・チェフは前評判以上の紳士だった。渋滞による移動パスの遅れ。誰より彼自身が疲れているはずなのに、宿泊先のホテルに到着後、すぐさまインタビュールームへと駆け付けてくれた。「こんばんは」、「(待たせて)ごめんなさい」と日本語のあいさつとともに。

 日本代表との一戦を控えた、チェコ代表守護神の言葉。警戒する日本のメンバー、プレミア移籍の可能性が伝えられる川島永嗣へのアドバイス、そして震災被災者へのメッセージと、予定時間をオーバーしてまで真摯に答えてくれたチェフを、個人的には日本戦でも応援したい気持ちになった。

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日本代表との試合を控えていますが、日本のサッカーについてはどんなイメージを持っていますか?
チェフ 日本はアジアカップで優勝して、アジアチャンピオンという立場にいるわけですから、その地位は揺るがないと思います。アジアカップでの活躍を機にヨーロッパに渡った選手もいますし、そういった選手たちも非常に良いパフォーマンスを見せています。今回の試合に限って言えば、勝利する可能性が高いのは日本だと思います。日本はほぼベストメンバーで試合に臨みますが、チェコはけが人もいますし、今回は若い選手もたくさんいるので、日本が優位という形は変わらないかもしれません。ただ、もちろん、勝ちたい気持ちは強いですし、同時に日本代表との試合をとても楽しみにしていました」

ヨーロッパでプレーする日本人選手が増える中で、特にチェフ選手が知っている選手、今回の対戦で警戒している選手は誰ですか?
チェフ やはり、本田(圭佑)の名前を挙げざるを得ないと思います。彼は高額な移籍金でクラブを渡り歩き、ヨーロッパで活躍している選手。そのFKやボールコントロールの技術に関しては、多くの人が高く評価しています。例えばセルティックで活躍した中村(俊輔)のように、日本の選手がヨーロッパで活躍することによって日本サッカー全体の評価が上がりますし、その後の世代に新しい機会、チャンスを与えることができます。これは、ドアを開くという意味で、とても重要なことだと思います。同じことは中田(英寿)にも言えますね。

ベルギーリーグでプレーしている川島についてはいかがですか? フルアムやウェスト・ブロムウィッチが興味を持っているとも言われています。
チェフ 最も重要なのは選手のクオリティーであって、国籍ではありません。実際にクラブが川島を獲得するために動いているのであれば、プレミアリーグのクラブが川島を欲しいと言っているのであれば、それは彼としても喜ぶべきことだと思います。彼にとってひとつアドバンテージがあるとすれば、既にヨーロッパの別のリーグでプレーした経験を持っていることでしょう。もしプレミアリーグに来るようなことがあったとしても、リーグに慣れる上で非常に大きなアドバンテージになるはずです。本当に川島がプレミアリーグのクラブに移籍することになれば、それは日本のGKにとっても次の新たな一歩ということになると思います。なぜなら、プレミアリーグは世界で最高峰のリーグと考えられているからです。




日本の若い世代、プロを目指すプレーヤーにアドバイスをいただけますか。
チェフ 僕から与えられるアドバイスとしては、『BE STRONG』。特にGKは、精神的に強くあることが大切だと思います。欠かさず練習を続けること、ハードワークの部分も大事ですが、精神的に強くなることが何よりも重要だと思います。なぜならGKは常にプレッシャーを受けるポジションだからです。フィールド上ではゴールの前に立つ最後の人間なので、もしミスをしてしまえば、そのミスは多くの場合、失点につながってしまいます。GKというポジションの選手はサッカーの中で一番の醍醐味でもある「ゴールを決める」ことはほぼありませんし、逆に「ゴールを決められる」ことのあるポジション。批判を受けやすいポジションです。そういったところも理解して、精神的に強くあることが必要だと思います。個人的には、「ゴールを決められる」というのも、ある程度は仕方がないと考えて、でも練習を積み重ねていくということがGKには求められると思います。

精神面の話が出ましたが、チェフ選手は過去に大けがを乗り越えてピッチに戻りました。そういったメンタルの強さ、気持ちを強く持つ秘訣は何ですか?
チェフ 秘訣というと大袈裟ですが、一番大きいのは、サッカーというスポーツが好きだということです。7歳からずっとサッカーをやっていますが、いつもプレーすることを楽しんでいますし、サッカーというスポーツを心から愛しています。けがからの復帰については、サッカーが好きという、その思いが心の支えになったことは間違いないと思います。それから、ファンやクラブ、家族からのサポートが大きかったですね。世界中のファンの方から「早い回復を祈ります」というメッセージをもらい、精神的なサポートを受けたことで、「一日も早くけがから立ち直ろう」という強さを保てた部分があります。それから、最終的には「ワーク」というか、練習を怠らないこと。どんな厳しい局面にあっても、必ずそれを突破できるという信念を持つこと。そういう希望や意思を忘れないことだと思います。

今回来日したメンバーには若い選手も多いですが、チェフ選手が個人的に期待している選手はいますか?
チェフ 若手では、トマーシュ・ネチド。本田と一緒にロシアでプレーしているストライカーで、彼は若い選手ですが、十分な経験というものを持っていると思います。チェコ代表の将来を担う選手でしょう。もう一人挙げるとすれば、カミル・バチェク。彼は中盤の選手で、テクニックがある。ボールコントロールに優れ、性格もとても謙虚で、練習熱心なので、将来さらに活躍する可能性を秘めていると思います。

最後の質問ですが、日本には、あなたのファンが大勢います。日本のファン、そして被災者へのメッセージをいただけますか?
チェフ 僕に言えるのは、シンプルなメッセージしかありません。お互いを信じ、助け合うことこそ、この困難な状況を乗り切るのに重要なことだと思います。こういう大変な状況では、生きていくだけでも大変なことだと思います。だからこそ、お互いを信じ合い、助け合うことが大切です。時間はかかるかもしれません。でも、状況は必ず良くなっていくと信じています。


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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(twitterアカウントはSoccerKingJP)』の編集長に就任。