[写真]=足立雅史

 ドイツの盟主バイエルンにとって、2010-11シーズンの結果は屈辱でしかない。ドルトムントに独走を許し、リーグ戦は3位で終了。さらにチャンピオンズリーグでは、昨シーズンの決勝の再戦となったインテルとの対決に敗れ、ベスト16で大会を去ることに。そして、ドイツカップはシャルケの軍門に下り、準決勝で敗退した。

 皮肉にも、日本人選手の所属クラブにことごとくタイトル獲得の芽を摘まれたバイエルンに一人の日本人選手が加わると報じられている。そう、宇佐美貴史だ。

 今夏、バイエルンが復権を懸けた大改革に乗り出すことは確実で、既に2部得点王のペテルセンを獲得。ドイツ代表の正GKを務めるノイアーとの交渉も最終合意に至り、ラフィーニャの獲得も決定した。

 もちろん、推定70億円以上とされる補強資金を考慮すれば、チーム強化がこれだけで終わるとは思えない。ハインケス新監督は弱点を確実にクリアすべく、要所に即戦力を加え、チームの刷新を図るはずだ。さらに欲を言えば、チーム全体の選手層の薄さも課題である以上、負傷がちなロッベンとリベリーの負担を軽減できるメリットも踏まえ、質の高いローテーションを組める陣容を整えること、それが目標となる。

 ノイアーとラフィーニャの獲得により、主力級の補強が必要なのはセンターバック。現状では、国内で実績のあるジェローム・ボアテング(マンチェスター・シティ)とヘヴェデス(シャルケ)が理想の人材で、前者は度重なる故障によりマンチェスター・Cで出番を失ったことから、獲得のハードルはさほど高くない。既に本人とは合意済みとされ、残すはシティ側との駆け引きがメインといった状況だ。

 一方、攻撃陣に目を向けると、アルティントップの退団に伴い計算の立つ控えが不在となった両翼は補強が不可欠。1月の移籍市場で獲得に失敗したイリシェヴィッチ(カイザースラウテルン)や、ハインケンス監督が高く評価するファルファン(シャルケ)への興味がここにきて報じられているのも偶然ではないはずだ。そして、“隠し球”的なターゲットと呼べるのが宇佐美であり、宇佐美を「バイエルンの10番候補の一人」と語っていたファン・ハールは既にクラブを離れたが、スカウティングはその後も継続され、首脳陣はリベリー、ロッベン、ミュラーのバックアップ役として宇佐美の獲得を検討していたのだろう。

 正式発表のない現段階で「バイエルンの宇佐美」を論じるのはあまりに早計だが、通例どおり、優勝を逃したシーズン後のバイエルンは補強の動き出しが速い。仮に「宇佐美獲得」の発表が早々に出るようであれば、「将来のバイエルンの10番候補と言ってもいい」というファン・ハールのリップサービスの“サービス度合い”がどれほどのものであったかも見定めてみたいと思う。

 壁は確かに高い。しかし、今シーズン、バイエルンの前に立ちふさがった3クラブに所属する日本人選手が次々に“壁”を乗り越えていった姿を思い起こせば、超えられない壁など存在しないのではないかとの期待を思わず抱いてしまう。

【関連記事・リンク】
宇佐美の争奪戦が激化、バイエルンが本命もドルトムント、チェゼーナもあきらめず
バイエルンがシャルケのノイアー獲得を発表、ジェノアのラフィーニャも
A代表デビューは持ち越し、宇佐美「自分が出た時のイメージはしていた。次のチェコ戦で」
ザッケローニ「宇佐美にはとても期待しているが成長は彼次第」/記者会見Part3
ドイツ王者バイエルンの指揮官が宇佐美貴史に注目する理由と、宇佐美の海外志向

【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(twitterアカウントはSoccerKingJP)』の編集長に就任。