サルの鳴き声に「文法的規則」を発見

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Brandon Keim


Image: Florian Mollers

アフリカの熱帯雨林に住むキャンベルモンキー[オナガザル科]は、音を言葉にする文法的な規則を用いて、同じ鳴き声を、さまざまな方法で組み合わせているようだ。

仏レンヌ第1大学のAlban Lemasson氏は、「動物のコミュニケーションにおいて、動物は異なる鳴き声を意味論的に結びつけて新しいメッセージを作り出すことができるという証拠が見つかったのはこれが初めてだ」と話す。「これが人間の言語と強い類似性をもつものなのか、そこに主語や目的語や動詞が見つかるのか、私にはわからない。とにかくキャンベルモンキーは、意味をもった単位を結合して、別の意味をもった連なりを作り、その結びつけ方にはルールが認められる」

Lemasson氏らの研究チームはすでに、11月に発表された論文において、キャンベルモンキーが特定の意味で用いる鳴き声について書いている。この論文では、キャンベルモンキーが出す音の基本要素と用途が詳細に説明されている。例を挙げると、「hok」はワシ、「krak」はヒョウ、「krak-oo」は「障害」(disturbance)を示す一般語、「hok-oo」と「wak-oo」は森林の林冠における障害の一般語だった。第6の鳴き声「boom」は、移動のために群れを集める、近隣の群れと言い合いをするなど、捕食とは違う文脈で用いられていた。

この研究はそれ自体で印象的なものだが、まだ「一次元的」な研究であり、人間以外の霊長類から鳴禽類まで、さまざまな動物の声に認められている基本的表現とさほど違いがなかった。一方、12月7日(米国時間)の『米国科学アカデミー紀要』(PNAS)で発表された最新の論文では、はるかに複雑なものである統語法(syntax)、つまり、語の連なりと文の構造に関する規則について書かれている。

動物にも統語があると主張する研究者はこれまでにもいたが、それが正式に実証されたことはなかった。音の連なりだけでは統語の存在を示すことができず、それぞれの単位の意味やそれを結びつける規則が示されていなかったからだ。Lemasson氏はこういった規則を明らかにしたと考えている。

例を挙げよう。オスのキャンベルモンキーは仲間を呼び集めるのに「boom boom」と鳴いたが、「boom boom krak-oo krak-oo」は、木が倒れてくるという意味だった。また、「boom boom」に「hak-oo」を加えると、近隣の群れからはぐれてきたサルに対して縄張りを警告する意味になった。「krak-oo」をそのオリジナルである「krak」に複数回加えたものは、ヒョウが付近にいるというだけではなく、ヒョウが差し迫った脅威となっていることを意味した。

Lemasson氏の分析は、キャンベルモンキーのふるさとであるアフリカの熱帯雨林で、10の群れを2年間観察して集められた膨大な記録が基になっている。同氏はキャンベルモンキーのコミュニケーションの調査をさらに続けており、いまは、録音された鳴き声に対する反応を評価している。

キャンベルモンキーの統語法の進化を促したのは、密生したジャングルという環境ではないかとLemasson氏は考えている。お互いを目でとらえることが困難なため、話すことでそれを補ったというわけだ。ほとんど日の光が届かない水の中に生息する鯨など、ほかの種でも同様の補完の力が働いているかも知れないと同氏は語っている。

ジョージア州にあるクレイトン州立大学でチンパンジーのコミュニケーションについて研究しているJared Taglialatela氏(今回の研究には参加していない)は、Lemasson氏の研究結果は統語の存在を示しているということを認めた上で、人は動物と人間を明瞭に区分したがる傾向があるが、実際には曖昧な領域があり、複雑性やパターンを認識する方法でデータを集めればそういった方向の証拠が得られるだろう、と語っている。

参考論文:
“Generating meaning with finite means in Campbell’s monkeys.” By Karim Ouattara, Alban Lemasson, and Klaus Zuberbuhler. Proceedings of the National Academy of Sciences, Vol. 106 No. 48, December 7, 2009.

{この翻訳は抄訳です}

WIRED NEWS 原文(English)

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