当法律事務所は、よく日本企業のアメリカ子会社を閉鎖する業務を請け負う。日本の上場企業X社から、経営不振が続くアメリカ子会社Y社の清算について相談を受けたときのこと。巨額の赤字が続き、それ以上赤字を垂れ流すことはできないということで、親会社X社の取締役会において、Y社を清算することを決めたという話だった。

 まず清算の進め方について、X社の日本からの出張者と打ち合わせを行った。X社にとって一番の関心事は債務の弁済についてである。債務合計は300万ドル、債権者数は120社。一方、残余資産は40万ドル。債務合計額が、残余資産額を260万ドルも上回っている。

「債務を全部支払うのは当然だ」

「そのためには、親会社から子会社に、足りない分、260万ドルを送金すべきだ」最初は、そんな意見が大勢を占めていた。

 しかし当事務所としては、法律アドバイスにオリジナリティがなくてはいけないと考え、X社に次のような提案をすることにした。それは、「親会社からの送金は一切せずに、残存する資産のみを債権者に分ける。当事務所が債権者との全交渉を代行する」というもの。

「そんなことできるの? 親会社は黒字で儲かっているんだよ」「親会社の看板に傷がつかない?」などの否定的な意見が続出した。しかし結局、我々の提案は採用されることになった。

 まず手始めに、大口債権者から順に債務の20パーセントの支払いで勘弁してもらいたい旨のレターを送付した。レターには次のようにあった。

「経営不振により資本金を使い果たし、残余資産がありません。会社閉鎖は本当に苦渋の選択でした。本来はほとんど支払えませんが、今回は特別に、親会社X社の誠意により債務額の20パーセントを支払います。もし残債務を免除してくれるのであれば、添付の和解契約書に署名して送り返してください……」

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