PK戦の末、カシージャスのファインセーブに敗れたイタリア<br>【photo by Witters/PHOTO KISHIMOTO】

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 試合前に配られた布陣図付きのラインナップに目を通すや、嫌な予感がした。噛み合いの悪そうな、面白くない試合になりそうな気がした。準々決勝スペイン対イタリアの話である。

 イタリアの布陣は4-3-2-1。ピッチには、数列が示すとおり先細りの絵が描かれた。7人で守って3人で攻める。イタリアの攻撃は7割方、その形で推移した。偶発性の高い事故が起きない限り、ゴールが生まれそうもない、いまどき珍しい典型的な守備的サッカーを演じたのである。

 しかし嫌な予感がした理由は、それだけではない。負の要素はスペイン側にも見て取れた。布陣は4-4-1-1とも言うべき4-「4」-2。しかしながら「4」の両サイドを務める、イニエスタとシルバが、中央に絞る傾向があるので、サイド攻撃もサイドチェンジも利きにくい。ガッチリ守備を固めるイタリアの守備陣に、正面から向かっていっては、ことごとく跳ね返される拙攻を繰り返した。野球ぽくいえば残塁の山を築いたわけだ。

 予想通り、得点の匂いはどちらのチームからもしてこなかった。どちらも好ましくないサッカーを120分間にわたり展開したわけだ。好ゲームに酔いしれたわけでは全くない。最初からPK戦狙いのようなサッカーをしたイタリアが、そのPK戦で敗れたのは皮肉的な結末と言わざるを得ないが、攻撃サッカーを装いながら、攻撃サッカーの常識を放棄する戦いを見せたスペインにも、それに比肩する罪深さがある。お互いは、時代遅れのサッカーという言葉で括られる。

 スペインのサッカー界は、プレッシングからカテナチオに変身したイタリアに対し、攻撃的なサッカーを掲げて対抗。そのイタリアから、欧州の盟主の座を奪い取った。98年以降、両者の立場はすっかり逆転。そして攻撃サッカーは、気がつけば、欧州のスタンダードになっていった。イタリアでさえ、その流れに従うことになった。

 イタリアは、大会初戦のオランダ戦では、極めて今日的なサッカーをした。少なくとも僕の目には、とても魅力的なサッカーに見えたものだ。だが、結果は0-3。イタリアは可能性を抱かせるサッカーを見せたものの、オランダに撃ち負けた。

 ドナドーニ監督は、そこで戦い方を昔風のスタイルに変え、別人のようなサッカーで続くルーマニア戦、フランス戦に臨んだ。

 グループリーグを突破すれば、再び元のやり方に戻し、のびのびと戦う可能性ありとの淡い期待は儚く消えた。勝ちたいというより、負けたくないというイタリアの保守的なメンタリティが勝った結果だが、そのサッカーに未来がないことは、この世界ではすでに証明済みだ。ドナドーニ監督も、その点は重々承知しているはずだ。承知済みで、あえて守備的なサッカーをした。イタリア人の悲しい性を見る気がする。

 少なくとも、これまでのスペインなら、そんなイタリアに対して、優位性を示すことができたはずだ。攻撃的かつ効率的なサッカーで、イタリアサッカーの非効率性を暴くことができたに違いない。少なくとも、スペインらしさだけは貫こうとしたはずだ。その結果、偶発的な事故に襲われ、まさかの敗退を喫する方が、よっぽどスペイン的に見える。

 だが、実際にはスペインもキチンとした攻撃サッカーを繰り広げることができなかった。次戦のロシア戦で、もし同じ事をやれば、敗れる可能性は高い。幸は微笑まないと僕は見る

 前日、バーゼルでそのロシアに敗れたオランダが、良い例だ。欧州ではオランダもまたスペインと並ぶ、攻撃サッカーの国として知られるが、ロシア戦で見せたサッカーは、その看板に偽りありといいたくなるような、ひどいサッカーだった。スペインと同じような症状をピッチの上に描き出し、ロシアにそこをモノの見事に突かれまさかの敗退を喫している。

 ロシアはオランダ戦と同じような戦い方で臨めば良いわけだ。スペイン危うしといいたくなる理由である。

 ただし両者の噛み合いは良いはずだ。ロシアは引いて構えるイタリアではない。プレッシングを重視した、効率的かつ攻撃的なサッカーだ。撃ち合いは必至。個人能力では、スペインにやや分はあるが、効率性ではロシアの方が上。グループリーグの初戦で対戦したときは、ロシアが効率性を発揮する前に、スペインの個人技が炸裂。4-1でスペインが勝利を収めているが、内容的にはそこまでの開きはなかった。アルシャビンも、その時は出場していない。番狂わせが起きる可能性は60 %。必見のゲームである。

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