日立製作所(以下、日立)は1月17日に取締役会を開き、英国で進める原子力発電所建設計画を凍結することを決めた。これに伴い、3月期の決算で3000億円の特別損失を計上する。連結純利益は4000億円から1000億円の黒字へと、大幅に下方修正された。

 なぜ、こんなことが起きたのか。実は福島第一原発の事故を受けて、原発の安全基準が世界中で厳しくなった。そのため日立が建設を進めてきた英国原発の事業費が、2兆円から3兆円に膨れ上がったのだ。また、日立が期待した国内他企業からの出資も、予定通り集まる見通しがつかない。

 日立の東原敏昭社長は、会見で「開発をこれからも続けるとさらにコストがかかり、民間企業の日立がすべてを負担するのは限界がある」と話した。つまり、原発の採算が取れないと判断したということだ。

 実は、この判断の背景には、日立が原発で生み出した電力を英国側に売電するときの価格の問題がある。英国が高い値段で電力を買ってくれるのであれば、採算は取れるはず。しかし、英国政府は後ろ向き。英国が進める洋上風力発電のコストが急激に下がっていて、原発のコスト優位性がなくなってきているからだ。

 これまで、原発の最大のメリットとして喧伝されてきたのが、低コストだった。ところが、安全対策の強化で、そのコストが急増する。一方で、再生可能エネルギーのコストは急減している。

 日本でも、2012年に固定価格買い取り制度が導入された際の産業用太陽光発電の売電価格は、1㌗あたり40円(税抜き)だった。ただ、発電設備価格の急低下を受けて、今年度は18円と半額以下に下がっている。我々が電力を買う時の平均単価は26円だから、すでに太陽光発電のコストは、消費者が買う電気代を下回っている。しかも、太陽光の価格低下は今後も続き、経産省の目標は11年後に7円となっている。

 原発の発電コストは10円程度とされてきたが、安全対策コストの増大で、今後は確実に上がっていく。つまり、再生可能エネルギーのコストが、原発のコストの半額になる事態が目前にきているのだ。そうしたら、原発を建設する合理的な理由はどこにもなくなる。

 現に、東芝の米国子会社で進めていた原発建設は、すでに一昨年に経営が行き詰って清算され、三菱重工がトルコで進める原発建設も暗礁に乗り上げている。日本の原発輸出は、完全崩壊の状況だ。

 そうした中、日立の会長でもある経団連の中西宏明会長は、原発技術を守るため、国内原発の再稼働推進を訴えている。しかし、それは時代錯誤の提案だ。もはや世界が見放した“高コスト”の原発を国内で守る必要はどこにもない。

 私は、日立は原子力事業を、廃炉事業に特化すべきだと思う。幸か不幸か、日本には廃炉にできる原発が50基も残っている。それを次々に廃炉にしていくだけでも、数十年は飯が食えるはずだし、今後、世界で廃炉が進んでいくだろうから、廃炉の技術こそ、世界に売れる技術になっていくはず。ただ、日本政府は、いまだに原発を推進しようとしている。それは、国民を原発事故のリスクにさらすだけでなく、国内の電力料金の高騰を通じて、日本の国際競争力を脅かす愚策だ。