野菜ちゃんぽんの大盛りを頼む女性の矛盾
■顧客満足が2年連続で1位
日本生産性本部・サービス産業生産性協議会(略称:SPRING)は、主要なサービス業約400社を対象とした、顧客満足度に関する消費者評価の総合調査「日本版顧客満足度指数(JCSI:Japanese Customer Satisfaction Index)調査」を毎年、実施している。2018年4月から5月にかけて、レストランチェーンやファーストフード等の飲食24社について、1社当たり約300人(半年以内に2回以上利用)の実利用者に回答を求めた。
2018年度の顧客満足(以下:満足度)1位は、リンガーハットと木曽路の2社だった。このうちリンガーハットは2017年度に続き、2年連続での1位である(図表1)。
リンガーハットが高く支持される理由は何だろうか。サービス品質等の設問(7段階評価)で、リンガーハットは「顧客の健康への配慮」および「味、素材、カロリー等のメニュー表示」で1位である。特に「味、素材、カロリー等のメニュー表示」におけるリンガーハットの評価は、24社のなかで突出している。
■野菜農家まで紹介する
たしかにリンガーハットは「健康」と「メニュー表示」に強みがある。ウェブサイトをみると、野菜・麺(小麦粉)・餃子について、主原料の「国産化」を進めたこれまでの取り組みや、「保存料・合成着色料不使用」に関する説明がある。さらに「契約農家のご紹介」として、玉ねぎ、にんじん、キャベツ等の主要農産物の農家を顔写真付きで紹介している。飲食業で食材の農家まで情報公開するのは珍しい。
リンガーハットは「提供時間(サービスや料理)の安定」でも1位だ。これは調理工程の「自動化」の影響だろう。リンガーハットの調理工程は、自動で動くIH調理器などにより、秒単位でコントロールされている。こうした設備投資の結果、1オーダー平均で6分以下というスピードを実現し、調理時間と味のバラツキを最小化している。
■女性の満足度が群を抜く
注目したいのは女性評価の突出ぶりだ。満足度を男女別にみると、男性(横軸)ではびっくりドンキーやモスバーガーの評価のほうがリンガーハットより高い。だが女性の満足度(縦軸)ではリンガーハットが突出している(図表2)。
満足度だけではない。JCSIの主要指標である6つの指標を男女別にみると、リンガーハットはすべての項目で男性より女性が高評価である。男女別の評価差が最も大きい項目は、リピート意向をあらわす「ロイヤルティ」で、次いで「顧客満足」、金額と手間暇のコストパフォーマンスを意味する「知覚価値」である(図表3)。
なぜ女性にウケているのか。JCSIに寄せられたコメントを分析してみると、実に半数近い女性回答者が「野菜、健康、栄養」に関連するキーワードを記入していることがわかる(図表4)。任意記述でありながら、回答者の半数が同類のコメントを異口同音に記入するということは珍しい。「野菜が手軽に取れる飲食店」というコンセプトが、女性に浸透している証左である。
「野菜」の次に多かったコメントは「手頃、コスパ」で、次いで「麺増量・ボリューム」だった。「ボリュームが特に良かった、優れている」と感じた比率を24社でみてみると、リンガーハットがダントツの1位である。
■「麺増量」を評価する女性客
それではどんなメニューが評価されているのか。リンガーハットには麺のない「野菜たっぷり食べるスープ」や、小さめサイズの「ミドルちゃんぽん」など、500kcal台のメニューがある。だが女性が評価しているのは「麺増量」なのだ。
『麺2倍まで大盛りが無料でできる(福岡・女性・20代)』
『いつも麺増量がサービスであることがすばらしい。野菜が高い時期でも、たくさん入っているところも良いなと感じます(東京・50代・女性)』
この「麺増量」に関するコメント記入割合は、男性より女性のほうが多いのである。ちなみに約300人の回答者のうち「小盛のメニューがある」というコメントは男性2人のみで、女性のコメントは皆無だった。
女性のコメント記入者のうち、「麺増量」の記入者を「ガッツリ派」、「野菜、健康、栄養」を「ヘルシー派」と分類し、JCSIの6指標の評価をみてみよう。どちらも女性全体の評価平均より高いことがわかる(図表5)。驚くべきは「ガッツリ派」の評価の高さだ。
「ガッツリ派」の満足度(85.2点)がどのくらい高いか、2017年度に調査した約400企業・ブランドの「顧客満足」調査結果と比べてみよう(図表6)。リンガーハットの85.2点を上回るのは、1位の宝塚歌劇団(87.2点)、2位の劇団四季(86.8点)というエンターテインメントの最高峰だ。一方のリンガーハットは日常的な飲食業。「ガッツリ派」による評価の高さはホンモノである。
■炭水化物大盛りの矛盾
長崎ちゃんぽんの「麺普通」は683kcalで、「麺2倍」は1032kcalである。野菜が摂取できて「ヘルシー」で、国産材料なので「安心」だと自分に言いきかせつつ、炭水化物の大盛りを注文し、大台の1000カロリーを摂取する。女性たちがそんな矛盾した行動をとっていることがうかがい知れる。
このように、自分が思い描く理想・信条と実際の行動のジレンマを解消しようとする心理プロセスを「認知的不協和」という。自分に都合の良い理由・理屈をもうけて、矛盾を解決しようとするわけだ。そうした消費行動は「言い訳消費」や「免罪符マーケティング」とも呼ばれる。
「欲しいという感情」と「やめたほうが良いという理性」の間で葛藤が生じたときに、欲しいという感情に対する理屈や大義名分を掲げ、自分に行動を促す。たとえば「脂肪吸収をおさえるという黒ウーロン茶が、ジムではなく、焼肉屋で売れる」「自宅では安価な発泡酒を飲むが、出張帰りの新幹線ではプレミアムビールを購入する」というのが、典型的な言い訳消費である。
■「ヘルシーだから」リンガーハット
言い訳消費には「ご褒美消費」「悲劇のヒロイン消費」「今しか消費」「太鼓判消費」などがある。「ご褒美消費」は成果をあげた自分にご褒美を出すことで、「今日の私は頑張った!」という自分への労い消費である。「悲劇のヒロイン消費」は、つらい目にあった自分を励ますために「明日から頑張るもん!」と贅沢をする慰め消費。「今しか消費」は「限定品だから」「今しか買えないのよ」「私ってラッキー」と、自分を説得する消費だ。
「太鼓判消費」は評価の確からしさによって、自分の行動を正当化させる消費だ。「そこまで言うなら消費」とも呼ばれる。太鼓判消費には、「○○さんも絶賛」という「第三者コメント消費」や、「従来品よりカロリー半分」「レタス1個分の食物繊維」といった「ヘルシーだから消費」がある。リンガーハットの女性利用者がしているのは、まさにこの「ヘルシーだから消費」である。
■認知的不協和の消費行動「言い訳消費」
リンガーハットは天候不順による国産野菜の相場高等や人件費・物流費の増加で、2018年8月10日から約半数の品目を10〜20円程度、値上げした。リンガーハットが公表した9月の業績をみると、純既存店売上高が前年同月比3.5%増と好調である。内訳は、客数が0.7%増、客単価が2.8%増である。客単価の上昇は値上げによる効果であるが、客数が増加しているのは驚きである。
値上げはしたものの、リンガーハットはこれまでどおり「麺増量無料」を継続している。飲食店選びで「ボリューム」を重視する割合が50%を越えるのはリンガーハットだけである。リンガーハットは「ヘルシーなメニューをがっつり食べたい」という女性客の「言い訳消費」をうまくつかんでいるようだ。
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日本生産性本部 主任経営コンサルタント
コープこうべに入社1年目で営業所トップ成績、2年目で全営業所およそ1000人中トップ成績を誇ったカリスマ営業マン。2008年から現職。小売・サービス業の現場に明るく、市場分析や経営指導、従業員育成を行っている。関西大学社会学部卒、関西学院大学大学院経営戦略研究科修了(経営管理修士:MBA)。著書に『経営コンサルティング・ノウハウ 5 マーケティング』(中央経済社)。
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(日本生産性本部 主任経営コンサルタント 小倉 高宏 写真=iStock.com)