ロナウド売却はフロレンティーノペレス数年来の悲願だった

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『ディープスロート 内部情報が語るレアル・マドリー』 出版記念特別企画#1

フットボリスタの人気連載『ディープスロート 内部情報が語るレアル・マドリー』書籍化を記念して、本書に収録されているコラムを特別に公開。第1弾は、この夏ユベントスに移籍した絶対的エースにして世界的スター、クリスティアーノ・ロナウド“売却”へとフロレンティーノ会長を突き動かした、数年来の思惑とは?

アンチェロッティ解任に見るベイル、ロナウドの未来
『月刊フットボリスタ』2015年7月号掲載

文 ディエゴ・トーレス
翻訳 木村浩嗣

 1年前、ベイルはスペイン語の教室通いを止めた。決して使わない奇妙な言語のために時間を割くのは無駄だと思ったのだろう。ベイルは社交のためにマドリッドに来たのではない。家族と友だちと代理人ジョナサン・バーネットとチーム内の唯一の仲間モドリッチ、アンチェロッティの英国人スタッフ、ポール・クレメントがいれば十分。彼らとは英語で話ができる。何のためにスペイン語が必要だろう? 周囲とのコミュニケーションのため? 周囲のことをベイルはまったく気にしていない。レアル・マドリーで最も重要な選手は自分だと承知しており、周りこそそれに気がつくべきなのだ。
 
 25歳のベイルはプロ選手にとって最高のサポートを受けている。『フォーブス』誌が世界で最も影響力のある人物の一人に選んだ、世界で最も裕福なクラブの会長フロレンティーノ・ペレスと彼の腹心ホセ・アンヘル・サンチェスGMに支持されているのである。彼らは完璧な英語で「来季は君がスターになる」とベイルに伝えた。その理由は、チーム全員がベイルにボールを渡すよう指示する監督と契約を結ぶからだ。そうなれば、ベイルこそレアル・マドリーであり、レアル・マドリーこそベイルであることに疑問の余地はなくなる。

 バーネットは『ミラー』紙のジョン・クロス記者にこう語っている。「ラファ・ベニテスはギャレスが最高に輝けるようなシステムを作るためにレアル・マドリーにやって来る」。この代理人の言葉はスペインでは誰も公に認めていないが、真実である。ベニテス新監督の主な目的は、ベイルがスターになるのを妨げる障害を取り除くことだ。

■新監督の隠された使命

 昨季CLを制覇したアンチェロッティは主力のロナウド、ペペ、セルヒオ・ラモス、シャビ・アロンソ、ディ・マリアと堅い絆を結ぶことでチームを強くした。アンチェロッティのレアル・マドリーはロナウドがフィニッシャーになるためにプレーしていた。その中ではベイルは右サイドで機会をうかがう無口で無愛想な男でしかなかった。

 ベイルはバーネットに、アンチェロッティは自分よりもロナウドをかばう、と愚痴をこぼした。「ゴールだけが楽しみなのに、相手を追いかける戦術的な宿題を課せられ、才能を浪費しているように感じる」と。バーネットがそれを会長に告げると、フロレンティーノの中にアンチェロッティへの激しい猜疑心が湧き上がった。

 そんな馬鹿な、と読者のみなさんは思うだろう。だが、会長側近たちはフロレンティーノが、少しでも隙があればメスを入れてやろうと舌なめずりしていたことを認めている。それは現実になった。まずディ・マリア、次にシャビ・アロンソを追い出して、そして今アンチェロッティのクビを切ったのだ。ロナウドが出したアンチェロッティ擁護のメッセージは解任を防ぐどころか、フロントへの挑戦と受け取られた。アンチェロッティが解任された時、監督をかばわなかった唯一の選手がベイルだった。

 2013年9月、ロナウドが2017年まで契約を更新した日、会長の機嫌は悪かった。サイン後のロナウドが喜んでいる一方で、フロレンティーノが近づいて来て「こいつが契約を終えることはない」と耳元にささやいた、とある重役は証言する。

 ロナウドのゴールもバロンドール受賞もファンから愛されていることも重要ではない。マンチェスター・ユナイテッドからの移籍をまとめたのが前会長ラモン・カルデロンだったという事実は暗い影を落としている。フロレンティーノのように世襲財産を重視し、自分のパーソナルな作品を作りたいと思っている男にとって、ロナウドは他人のものであり、不愉快で遠い存在なのだ。

 『レアル・マドリーTV』で「カルデロンがロナウドを獲った」とコメントした者は、二度とその番組に呼ばれていない。テーマに触れることがタブーであるほどフロントは苛ついている。チーム最高の選手を獲得したのが史上最高の会長ではない、というのは説明がつかないではないか?

2013年9月、契約更新会見でのロナウドとフロレンティーノ

■ピラミッドは墓場だった

 選手もクラブ関係者もフロントがロナウドを追い出そうとしていることを知っている。ロナウドの意に反したアンチェロッティ解任はその一つである。フロレンティーノ自身が手を下さないのは政治的な理由でしかない。本人が今夏出て行くと決めてくれたら大歓迎だろう。そうすれば中盤から前は自分が集めた選手ばかりになり、ベイルがすべての攻撃の中心になるからだ。

 今回のアンチェロッティ解任にチーム作りという面からの理由は存在しない。選手たちへの聞き取り調査によるとほぼ全員が、フィジカルトレーニング、戦術練習、人間的な接し方、共同生活すべてにおいてアンチェロッティの仕事を評価していた。アルベロア、イジャラメンディ、イスコのように不満を持っている者たちもアンチェロッティの続投に賛成した。

 アンチェロッティは、未来永劫のチームを作るという強迫観念に取り憑かれたフロレンティーノが祭壇に捧げた貢物だったのではないか。1000年後にカステジャーナ通りを歩く者たちが「ファラオのフロレンティーノ・ペレスがここに眠り、1億ユーロの左利きの男がプレーした場所なのだ」と仰ぎ見るピラミッドのための。壮大な建造物には人柱はつきものである。

『ディープスロート』出版記念特別企画
#1ロナウド売却はフロレンティーノ・ペレス数年来の悲願だった
#2クラブの“英雄”ジダンに対するフロレンティーノの不満とは?
#3レバンドフスキ獲得はクラブが仕掛けた“陽動作戦”

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Photos: Getty Images