知っているようで知らない「民主主義」を池上彰氏が解説(撮影:今井康一)

ここ最近、アメリカのドナルド・トランプ大統領が諸外国相手にとる強硬姿勢や、日本国内でも「参院定数6増」「カジノ法案」の強行採決など、物事を数の力で押し切ったり、独善的ともいえる取り決めを行ったりする政治シーンを目にする。先日、アメリカのオバマ前大統領が南アフリカで行った演説でも、民主主義における「強者の政治」に批判の矛先が向けられていた。
私たちはこうしたニュースを目にしたとき、ふと、「民主主義」というものの「意味」や「意義」について脳裏に浮かべてしまう。この記事では、新刊となる『イラスト図解 社会人として必要な経済と政治のことが5時間でざっと学べる』を出版したジャーナリスト・池上彰氏に、民意が反映され、より多くの議論を呼んでしかるべきはずの「民主主義」の“そもそも”についてわかりやすく解説してもらった。

「民主主義」とは、政治体制を示す言葉

「私たちの国は民主主義国家だ」などとよく聞きますが、その言葉の意味をどう理解していますか。


ジャーナリストの池上彰氏(撮影:星智徳/画像提供:KADOKAWA)

そもそも「民主主義」とは「国のあり方を決める権利は国民が持っている」と考える政治体制のことです。「資本主義」「社会主義」「共産主義」「民主主義」の区別がよくわからないという声も聞きますが、「資本主義」「社会主義」「共産主義」が経済体制を示す言葉であるのに対し、「民主主義」は政治体制を示す言葉なのです。

民主主義国家では、国民の政治的な自由、表現の自由、言論の自由を認め、国民が自分たちの代表を選挙で選び、その選ばれた代表者に政治を任せます。そして、代表者が国民のために仕事をしなければ、選挙で引きずり下ろすこともできます。

この民主主義と正反対の関係にあるのが「独裁制」です。独裁制とは、特定の個人または党派などが政治権力を一手に握る仕組みのことで、独裁政治が行われると、国民はつねに支配される側になります。


「民主主義」が示すもの(イラスト:ケン・サイトー)

世界を見回すと、自由な経済活動を重視する資本主義体制でありながら独裁制をとる国家もあります。たとえば、世界有数の産油国であるサウジアラビアや海外企業を積極的に誘致して発展したシンガポールなどです。また、経済的平等を重んじる社会主義的な政策をとりながら、民主主義と両立している国家もあります。スウェーデンやノルウェーなどの北欧諸国がこれにあたります。

ただし、資本主義で経済活動を自由にしようとすると、国民の考え方も自由にしていく必要が生じるため、資本主義と民主主義には親和性があります。日本も、資本主義と民主主義の体制を両立させている国家の1つなのです。

ちなみに、北朝鮮は独裁制の社会主義国家でありながら、「朝鮮民主主義人民共和国」と、国名に「民主主義」が含まれています。「民主主義」をわざわざ国名に入れている国は、およそ民主的でないというのがお決まりのパターンなのです。

「立法 」「 司法 」「 行政 」の三権分立制度

ところで、日本の民主主義を担保しているのが「三権分立」という制度です。日本国憲法では、三権分立を国の基本制度としています。三権とは、法律を作る「立法」と、政策を実行する「行政」、憲法違反を裁く「司法」の三機関。立法、行政、司法がそれぞれ独立し、互いに監視することで、権力の過度の集中を防ぐための仕組みです。

国会は法律を作る立法府で、国会が作った法律や予算に基づいて政策を実行するのが行政府、つまり内閣総理大臣を長とする内閣です。そして、国会が成立させた法律が憲法に違反していないかを判断し、行政府の行為が憲法に違反していないかをチェックするのが、最高裁判所を頂点とする司法府です。

以前、安倍総理が国会で「私は立法府の長であります」と答弁し、物議を醸したことがありましたが、総理大臣は「行政府の長」であって「立法府の長」ではありません。単なる言い間違いだとは思いますが……。

国会は、国民が選挙で選んだ国会議員によって構成され、国民の民意を反映しています。また、最高裁判所の裁判官も、国政選挙のときに国民審査が行われ、裁判官として適切かどうかが国民によって判断されています。


三権分立の構造(イラスト:ケン・サイトー)

内閣がきちんと仕事をしていないと国会が判断すれば、内閣不信任案を決議することがあります。これとは逆に、内閣は衆議院を解散して、国民の意思を問うことができます。

また、内閣は最高裁判所の長官を指名し、裁判官を任命する一方で、裁判所は行政の命令や規則、処分などを審査します。そして、国会には弾劾(だんがい)裁判所が設けられ、裁判官を裁判することができる一方で、裁判所には法律が憲法に違反していないかを審査する違憲立法審査権が与えられています。そのため裁判所は「憲法の番人」と呼ばれています。三権は、ジャンケンのグー・チョキ・ パーのような関係を持っているのです。

ただ、憲法第41条には「国権の最高機関は国会である」と定められています。ですから、三者で最も偉いのは国会、ということになります。

日本の民主主義の評価は低い

さて、その日本の民主主義ですが、世界における評価はどうでしょうか。

イギリスの『エコノミスト』誌関連のシンクタンクは、世界167の国と地域を対象に民主主義ランキングを発表しています。2016年のランキングでは1位がノルウェーで、日本は23位に位置していました。これは、先進国の中では下位にあたります。


その大きな理由の1つは投票率の低さ。最上位の北欧諸国では、投票率が80%程度に達しているのに対し、日本の衆議院選挙の投票率は50%程度と低迷している現状があります。投票率が低いのは民主主義が成熟していないから、と評価されているのです。

もう1つの理由は、女性の国会議員が少ないこと。ヨーロッパでは、女性議員は3割を占め、大統領や首相になる女性リーダーもいます。これに対して日本の国会では、 女性議員はあくまで少数派で、女性の総理大臣もいまだ誕生していません。

また、世界中のジャーナリストが組織するNGO・国境なき記者団が発表する「世界報道自由度ランキング」(2018年)を見ると、日本は67位にランクしています。2010年には11位に位置していたにもかかわらず、以降は低迷しているのです。

その大きな要因とされるのが、2011年の東日本大震災による福島第一原発事故。原発事故についての情報がオープンにならなかったため、海外のメディアから厳しい目が注がれました。さらに、特定秘密保護法の施行、フリーや外国人記者の活動制限などの問題も指摘されています。

■「民主主義」のまとめ
日本は民主主義国家ではあるものの、
世界的には民主主義のレベルは「低い」とされています。
この状況を変えられるのは、私たち国民一人ひとりです。
<覚えておきたいポイント>
●民主主義とは国民が国のあり方を決める政治体制のこと
●日本は資本主義と民主主義を両立させている国
●日本は民主主義後進国とされている

“知っているようで知らない”「民主主義」という言葉の意味と、日本が置かれた状況についてざっと解説しました。

日本が民主主義を採用したのは、第2次世界大戦の後のこと。このまま自動的に継続される制度というわけでもありません。国民として、この政治の仕組みをしっかり知っておく必要があるのです。