ニッポンの高級サルーンがもう一度世界を驚かす

 クラウンは、日本で生まれ60年以上にわたって育てられてきた。15代目ではより日本車にふさわしいユーザビリティと、ドイツの高級セダンをも凌駕する走行性能が与えられ、理想のセダンを具現化するために生まれ変わった。

 長い歴史に胡座をかくことなく、クラウンに必要なものをいちから見直して開発。それを代表するのが日本人に合わせたクルマづくりで、日本人の平均的な体格をベースにドアハンドルの高さや引き上げ方向、内装のアームレストやアシストハンドルの高さなどを設定し直し、自然な使い心地を獲得している。また、内装の質感や触感などでは、高級車にふさわしい表皮の仕上げやたわみ感、スイッチやドリンクホルダーの動きにまで五感に響くものづくりを定量化しながら、徹底的に追求した仕立てのよさもある。

 そして、レクサス譲りのプラットフォームを生かした走行性能の高さも注目すべきポイント。先の見えないワインディングでも高い速度域で駆け抜けられる卓越したハンドリング性能を持ちながら、ゴツゴツとした乗り心地を感じさせず、なおかつムダな挙動が出ないなど、ボディコントロールでも驚くべきパフォーマンスを秘めているのだ。

求めたのは高級車にふさわしい上質さとキレのいい走り

 パワートレインは3種類をラインアップし、コンベンショナルエンジンは2Lターボ+8速ATを先代から継続採用。ハイブリッドでは、新開発のダイナミックフォースエンジンシリーズの直列4気筒2.5Lと、3.5L V6の2モデルがある。すでにほかのモデルでも高い評価を得ているが、新型クラウンへの搭載では、よりスポーティで洗練されたコントロール性のよさを得ている。

 2Lターボは、マフラーの設計変更で排気圧力のロスを小さくしたことで高回転域の伸びを改善。最高出力は従来型の173kWから180kW(245馬力)となり、トップクラスの出力を得ている。また、ターボの過給や加速レスポンスを高めるために、VVTのタイミング変更とともにアクセル操作に対する電子制御スロットルバルブの応答性を最適化。アクセル操作に駆動力特性の見直しも行っている。さらに8速ATでも油圧の適合を行って、変速レスポンスの改善を実施している。

 2.5Lハイブリッドは先代の2AR-FSEエンジンから、新世代のダイナミックフォースエンジン「A25A」に刷新された。高速燃焼を実現するためにボア87.5×ストローク103.4mmという、ストローク/ボア比1.2というロングストロークとし、シリンダーヘッドでは吸気バルブシートにレーザークラッドバルブシートを採用。ピークトルクの数値よりも低中速域で大幅なトルクアップを実現し、最高出力も向上している。

 燃料供給システムは、ポート噴射と直噴を併用したD-4Sだが、直噴側はマルチホールタイプのインジェクタとして混合気の均一性を向上させ、新開発のハーフリフト制御によって微小噴射量での分割噴射を行っている。オイルポンプの駆動ロスも燃費に大きく影響するので、トロコイド式可変容量オイルポンプを開発し、エンジン回転数と負荷率に応じた油圧制御を行う。

 A25Aはもともと横置きだったため、横置き用のパーツを約70%使いつつも、縦置き化に合わせて吸排気系を変更。エンジン高やフードの高さを下げるために、排気側に12.5度傾斜させて搭載している。

 ハイブリッドシステムのハード面は継続使用だが、新エンジンの出力特性や燃費のよさを武器にキレのいい走りを実現するために制御をチューニング。従来型に対してエンジンの低中速トルクや最高出力アップ分は、ハイブリッドトランスミッションの発電や駆動力増加にそのまま生かしている。発進加速や高速道路での合流などで余裕のある走りにつなげ、駆動や減速の力の出し入れの質感やスムースさにこだわった。アクセルオンでの追従性を上げ、エンジン回転数のリニアリティも高めて速度に応じた変化にしたほか、アクセルオフでの減速感も滑らかに立ち上がるようにしている。

 3.5L V6のハイブリッドはトヨタブランドとして初搭載となるもので、10段変速を可能にしたマルチステージハイブリッドだ。2モーターシステムにメカ式の4段変速を組み合わせたもので、エンジンとモーター両方の出力制御を可能とし、低速から高速までダイレクトな加速フィールを発揮する。高速域でのEV領域も大きく拡大した高効率のシステムだ。

 トランスミッション内部の機械的なガタ詰めやトレランスリングの装着により、加減速や変速時のノイズを徹底的に排除して高い質感も備えている。レクサスLCやLSの500hと共通のハードウェアだが、制御に関してはクラウンにマッチングさせたエレガントな特性へファインチューニングしている。

 操作系では、すべてのパワートレインでパドルシフトを採用し、リズミカルなドライビングを堪能できる。サウンド面では、ANC(アクティブノイズキャンセリング)とESE(エンジンサウンドエンハンスメント)を併用して、雑音を抑えたクリアで力感のあるエンジンサウンドが得られるようにしている。

目指したのは世界で戦える革新的なパフォーマンス

 新型クラウンは日本国内専用車としてのパッケージとするために、全幅は1800mmに抑え最小回転半径も5.3m(タイヤサイズで異なる)という取りまわしのよさを確保。ドアハンドルの高さや角度も日本人にマッチするものにしている。それでいながら走りは世界で戦える革新的な性能を目指し、狙ったラインに一発で乗せる正確でシャープなハンドリングと、低速から高速までのあらゆる状況で目線が動かないことをコンセプトとして開発が進められた。

 そこで新型クラウンには、レクサスLCやLSで開発されたTNGAのGA-LをベースにしたGA-Nプラットフォームが与えられ、パッケージデザインと走行性能と密接に関わる慣性諸元を、これまでにない次元に引き上げることが可能となった。

 TNGAの共用化では、LS用に対してサイドロッカーパネルを内側に39mm狭くし、ホイールベース長の違いではリヤのフロア部で対応。フロントサイドメンバーやフロントサブフレームはLS用を流用し、ラジエターサポートやフロントエプロン、ダッシュ部は幅が異なるためクラウン専用品を設定している。

 また先代と比べ、フロントの車軸は80mm前に出し、フード高さを13mm下げることでスポーティさと前方視界のよさを両立。重量物となる12Vバッテリーはフロント搭載からリヤ搭載にし、アルミ製のフードやフェンダーを採用することでフロント荷重の適正化を行い、前後重量配分は50対50を達成。重心高は15mmダウンさせている。このようなマスの集中化や低重心化を徹底することで、ステアリングに対する応答性が増して自然に旋回できるようになっている。ロールやピッチングといったムダな動きを起こしにくく収束性も高めた。パワートレインでも、エンジン搭載位置やマウント配置、駆動系に至るまで基本諸元の優れたレイアウトを採用でき、振動や騒音対策でも有効に作用している。

 ボディはTNGAの新骨格ボディを採用。ホットスタンプ材をフロアトンネルと両サイドのロッカーパネルをつなぐようにフロア前に横配置し、衝突時のフロア変形を抑え衝突エネルギーを効率よく伝達するようにしたほか、590MPa〜1180MPaのハイテン材も部位に応じて使い分けている。

 注目はレクサス譲りのアルミダイキャスト製フロントサスペンションタワー。厚みは3mmでスチール製のメンバーとはSPRというリベットと接着剤を併用した工法で強固に結合される。ボディのねじれ剛性は先代比で約1.6倍、フロントサスタワーの着力点剛性でも、約2.3倍と大きく向上している。

 ボディの骨格部では、環状骨格構造を採用するとともに各ピラーやロッカーパネルの結合部の剛性を上げる工夫が行われ、結合部の幅を広げたり、スポット溶接の打点拡大や接着剤の併用によって、パネル同士をガッチリとつなげている。フロントホイールアーチ内のAピラーの根元とフロントエプロンメンバーをつなぐパネルでは、カウルサイドアウターという一枚板をあて、サービスホールを極力なくした設計にすることで、ステアリングの手応えやロールフィールの改善を実施。

 さらに、クラウンで初採用となった6ライトボディでは、CピラーとDピラー部がリヤサスペンション上部となるため、強度部材であるリーンフォースと両ピラーの結合剛性を高める工夫を行い、リヤボディの剛性も上げている。

 サスペンションは「1000km翔ける!」を性能コンセプトとし、長距離でも飛翔するように走り切れる性能を狙って開発。車幅1800mmや取りまわしのよさ・扱いやすさなど日本の環境にベストマッチしたパッケージとしながら、高い静粛性・目線がぶれない乗り心地性能を実現。乗員へ与えるストレスを最小限に抑えたことに加え、ドライバーが意のままにクルマを動かせることにこだわり、操る楽しさや気持ちよさが味わえるように仕上げている。

 サスペンション形式は、フロントはLS譲りのダブルジョイント式ハイマウントマルチリンク式を採用。転舵時のタイヤ回転中心となる仮想キングピンをタイヤの中心へ寄せることで、路面入力や、制動力などの外乱に対する安定性を確保するとともに、操舵時のキングピン移動を利用してステアリングの操舵角と操舵力の関係をよりリニアにしっかり立ち上げるようにしている。

 ハイマウント式マルチリンクにより、ホイール支持上下スパンを長くすることができるので、ブッシュをソフトにしても旋回時にサスペンションが受ける横力に対しては高い剛性を持たせることが可能となった。乗心地を確保しながら、ヨー応答は従来型から向上させてシャープなハンドリングを実現。前後方向の入力に対しては大容量のブッシュによりハーシュネス特性を大きく改善している。

 ショックアブソーバーは、標準タイプはモノチューブ式の採用によってレスポンスを確保するとともに、バルブと摺動部部品による0m/s〜微低速域の減衰力特性の最適化でしなやかな乗り心地と目線が動かないフラット感を実現。さらにリバウンドスプリングによるロール姿勢改善を行っている。また、RSグレードにはリニアソレノイドバルブ方式のAVSも設定されている。電子制御により従来型に対して4倍の応答速度と連続減衰力可変機能を持ち、乗り心地と操安性の背反する性能を高レベルで両立している。

誰もが極上の心地よさを実感できる空間を創出

 新型クラウンでは、TNGAプラットフォームにより開発初期からNV性能を固め、さらに気持ちいいエンジン音づくりにもこだわっている。まず静粛性の面では、エンジンルームとの隔壁部にあるダッシュサイレンサーの開口率を2%にまで小さく、フロアでは、フロア部とトンネル部のサイレンサー同士の継ぎ目も徹底的になくす構造にし、カバー率では90%を達成。高周波ノイズが効率よく抑えられて会話明瞭度が大きく上がっている。

 ロードノイズの中周波対策では、ボディ骨格やフロア形状の最適化で共振を分散させる設計を行ったほか、フロア骨格前後に通るフレームの後端部にあるアンダーリーンフォース(リヤバンパーの足もと裏付近)にエンドキャップとよばれる補強材を装着し、125Hz帯でのゴー音を効果的に抑えている。

 また18インチホイールでは、230Hzあたりのフォーンという気柱共鳴音を打ち消すために、リム内部にレゾネータを持ったノイズリダクションホイールを採用。エンジン音では、ANCで不快なこもり音をカットしESE(ドライブモードのスポーツ、スポーツS+で機能)によって、クリアで力感のあるサウンドを作り出している。

 インテリアでは、「五感に響くクルマづくり」をテーマにドイツ車やレクサスをはじめ50車種をベンチマークとして表皮の触感や見栄え、使い勝手、快適性、可動部の動きやフィーリング、音などの項目を数値化したうえで新たな領域に踏み込んでいる。

 使い勝手の面では日本人に合ったドアハンドル位置や引き上げ角の設定、アームレストの高さの統一、前席シートバック背面にあるアシストグリップ高さなどを見直している。助手席シートバックサイドにあるシートスライドボタンは、ドライバー席からの操作性を向上させるため従来型より下方に配置してボタンも大型化。触感では素材や使用場所によって使い分けている。たとえばアームレストでは初期タッチから肘を載せたときの沈み具合、力を抜いたときの戻り方などを数値化し、スポーティさを意識した従来型よりソフトで心地よさを感じるものにしている。