日本の監督、コーチ、そして解説者や評論家の方々は、なぜ3バックを3バックと言うのだろう。4バックを4バックとは言わないはずだ。4バックの場合は、4-2-3-1とか4-3-3とか4-4-2等々、表記を具体的に言う。それが3バックになると、単に3バックとなる。3-4-2-1とは言おうとしない。

 西野監督がそうだ。「今日は3バックにトライした」となる。3バックには事前の合宿からトライしていたので、その中身が3-4-2-1であることは、あらかじめわかっていた。なぜ「今日は3-4-2-1にトライした」とならないのか。

 ずばり、守備的サッカーを代表する布陣である。しかし、西野監督のこの後ろ向きの姿勢に対して、異を唱える報道を見聞きすることはできなかった。それどころか、逆に「西野ジャパンは、ガーナ戦に向けて攻撃的な3バックをトライしているようです」と、真反対の内容を伝えるメディアさえあった。NHKのニュースのスポーツコーナーを、ながら見していた時に、耳に飛び込んできたので一瞬、えっと驚いてしまったものだ。

 あまりサッカーに詳しくない人が、このニュース原稿を書いているのだなと勝手に納得するしかなかったが、ではなぜ、自信がないのに、わざわざ攻撃的と書いてしまったのか。この期に及んで守備的な布陣を採用することはないだろうと、憶測を働かせたのか。

 その考えは甘かったわけだが、それはともかく、メディアがガーナ戦を前に、その守備的な姿勢について突っ込めなかった理由は、単純に3バックの内訳を理解していなかったからだろう。

 3バックと一口にいってもいろいろある。攻撃的なものから、守備的なものまで、4バックと同じように各種揃っている、という事実を知らないと考えるしかない。説明する義務のある人が、3バックと雑な言い回ししかしない弊害をそこに見る気がする。

 監督は自分の口から守備的だとは言いにくいものだ。

 守備的なサッカーをする監督は、自らのサッカーを守備的だとはいわない。どちらかといえば隠そうとする。攻撃的な監督はその逆。自らの姿勢を強く打ち出そうとする。

 西野監督もガーナ戦後、3-4-2-1から中盤フラット型4-4-2への布陣変更について「オフェンシブなやり方に切り替えましたけど」と、遠回しないい方で説明した。
さらに言えば「対応力」という方も持ち出した。強い相手に押し込まれたとき、どう対応するか。これが「3バック」を試した一番の理由だそうだが、そこに西野監督の後ろ向きな姿勢が現れている。

 少しでも押し込まれたら、即「対応」するつもりなのだろう。しかし、対応の方法は本来、これだけではない。押し込まれないようにするためにはどうするかという選択肢はないのか。押し込まれた状態から脱却する方法を探るつもりもない様子だ。押し込まれたら、後ろに下がってじっと耐える。これ以外に対応の方法はないらしい。西野監督は「対応力」を選手に求める前に、自分の対応力について疑うべきだろう。
だが、これにもメディアは突っ込もうとしない。もっともらしい言い回しをする西野監督のペースで、進んでいる嫌いがある。

 3バック同様、対応の方法は他にもある。少し考えれば誰にでも分かることだと言いたいが、他の3バックの特徴を知らなければ、想像力を膨らますことはできない。後ろに下がる以外に対応方法があることを知らなければ、議論は活性化しない。

 ファンもメディアも、もう少し知識を深める必要がある。だが、そのあたりについて、わかりやすく講義してくれる人が、冒頭で述べたとおり日本には少ない。3バックを3バックで片付けようとする解説者、評論家、監督が多数を占める。かつて広島の監督として「3バック」を用いてJリーグを制した森保一現日本代表コーチは、当時、メディアに対して「これからは3バックが流行すると思いますよ」と述べた。乱暴すぎる説明とはこのことだ。そこで言う3バックとは何なのか。