大規模修繕も売り時をはかるタイミングになる

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 首都圏で発売された新築マンションの平均価格が1990年のバブル期以来の水準になっている。「買い」も旺盛なら、不動産市場が高騰しているうちに「売り抜けたい」と考えている人もいるだろうが、マンション売却のタイミングは難しい。住宅ジャーナリストの榊淳司氏に、“売り時”を逃さないためのポイントを挙げてもらった。

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 よく「今はマンションの買い時でしょうか?」という類のご質問をいただくが、「いいえ。今はどちらかというとマンションの売り時ですね」とお答えしている。

 では、なぜ今はマンションの売り時なのだろうか? それを解説する前に、そもそも「売り時」とは何なのかを考えてみたい。

 まず、私は「売り時」には次の3種類があると思っている。

(1)市場から見た売り時
(2)その方の人生での売り時
(3)物件=建物としての売り時

 ここでは(3)から解説したい。物件としての売り時とは、そのマンションが建物としての価値を大きく損なう前に「売り抜ける」ための売り時である。具体的にいえば、その見極めは3つほどある。

(A)修繕積立金の値上がり前
(B)大規模修繕工事の前
(C)築35年を超える前

(A)について説明すると、ここ10年ほど前から新築マンションの修繕積立金を安く見せる姑息な販売方法が蔓延している。

 マンションを購入すると毎月管理費や修繕積立金その他を払わなければいけない。管理費はほぼそのまま管理会社に業務委託費として支払われる。これは日々の経費だから操作できない。

 ところが、修繕積立金は管理組合がプールしておいて修繕工事の必要が応じた時に支出する。あるいは十数年に一度の割合で行われることが多い、大規模修繕工事のために積み立てられる。

 新築マンションの場合、販売サイドは売りやすくするために月々の維持コストである管理費や修繕積立金を安くしたい。管理費は安くできないが、修繕積立金はこのように即刻は必要ないので、最初は安くしておいて徐々に値上げしていく方式が採用される。だいたい15年後には3倍から4倍に値上げするケースが多い。

 例えば、新築時は管理費が2万円で修繕積立金が8000円の新築マンションがあったとする。このうち、修繕積立金は5年後には1万2000円、10年後には1万8000円、15年後には2万4000円になったりする。すると、月々の負担は管理費と合わせて4万4000円。かなりの額ではないか。

 月々の負担が4万円を超える中古マンションとなると、中堅所得者にとっては負担の重さを感じてしまう。売却しにくい物件になる。その分、物件価格を安くする必要も生まれる。だから「修繕積立金が大きく値上がりする築10年未満で売却しよう」という発想になってくる。

(B)は大規模修繕工事の前に売り抜けるというシナリオだ。大規模修繕工事というのは、今時の分譲マンションについては必須項目になっている。私はすべてのマンションに大規模修繕が必要だとは思わないが、その議論は置いておく。

 大規模修繕工事にはザックリと見て1住戸あたり100万円の工事費用が発生する。管理組合がそれまで積み上げた積立金を根こそぎ持っていかれる場合も多い。すると、大規模修繕工事のあとは管理組合の財務力が著しく低下する。

 そこへ万が一、大地震や水害などに見舞われると、緊急の修繕工事が不自由なことになる。また、修繕積立金会計がゼロに近い中古マンションは、資産価値が不安定化する。だから、1回目の大規模修繕工事の前に売り抜けようという発想だ。

(C)は築35年というひとつの区切り前に売却しようという考え方である。新築マンションは年々建物が老朽化していくが、築30年くらいまではまだ売却がスムーズだ。しかし35年頃から怪しくなって築40年以上の中古マンションを選択する人は稀。また「35年ローン」を払い終える人が多くなるので、そのマンションを「安くてもいいから売りたい」という人も多くなる。そうなると資産価値も不安定化する。

 では売り時の2番目、「その方の人生での売り時」について考えたい。

 市場が盛り上がっていようが下落基調にあろうが、所有しているマンションを売らなければいけない時はある。もっとも差し迫っているのは、何らかの理由で現金が必要な場合だ。あるいは住宅ローンが払えなくなった時。

 そういう時にはグズグズしないで売却手続きを進めるべきだろう。見ている限り、競売に追い込まれるよりも任意売却のほうが、痛みは小さいように思える。また、自身の健康上の理由でそのマンションに住めなくなった時も、売却への潮時だ。その向こうに待っているのは相続である場合が多い。

 自分のマンションを受け継いでくれる相続人がいる場合、考えて欲しいことがある。相続人がそのマンションを受け取って、喜ぶのか、それとも困るのか、という現実的な問題だ。自分は気に入って住んでいても、相続者は同じかどうか。

 この場合、目安はそのマンションに資産価値はあるか。あるいは換金性はあるのかということだ。今や遠隔郊外や地方のマンションは、売却さえ難しい物件がある。そういうマンションを残されても、相続人は困るだけ。であれば、自分が生きているうちに現金化して、相続人に残すことを考えるべきだろう。

 最後に「市場から見た売り時」について考えてみたい。これについて私は常々いろいろなメディアで書いているので、ここでは簡単に説明したい。

 ズバリ言えば、市場の「売り時」は今である。まず、ここ5年ほどで高騰した局地バブルエリアではすっかり天井感が出てきている。新築マンションは高すぎて売れないから値引き。中古マンションは売り物ばかりで成約が少ない。もう「どこで下落が始まるのか」という崖っぷち状態にある。何かのキッカケがあれば崩れ始めるだろう。

 そのきっかけは、たとえばよく知られた金融機関の経営破たんとか、北朝鮮での軍事衝突などで十分。そうでなくても2019年の10月に予定通り消費税が増税されれば、その後にやってくる景気後退が明確な下落の合図になる。

 また局地バブル以外のエリアでは、人口減少によって住宅価格がジワジワ下がっている。すでに「実質タダ」のマンションが日本国中で見ると数十万戸はあると推定する。

 そして2020年の秋には東京五輪とパラリンピックが終了。さらに、その頃には日銀の異次元金融緩和が出口を探っているだろう。金利も上昇しそうだ。

 つまり、この先の市場環境に不動産価格が下落する要因はあっても上昇する理由は見つからない。だからマンションを売るなら「今でしょ」ということになる。